純情色の恋物語

あの話の続編というか転生版
0
よつげ @Eight_os

1 貴方は 生まれ変わりを信じますか? もし、生まれ変わったとして かつて愛した人と もう一度結ばれたいと 貴方は思いますか。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:52
よつげ @Eight_os

2 僕にはたまに見る夢があります。 名前を呼ぶ誰かの声。 胸に握り締めた古い書物。 痛む身体、ままならない呼吸。 目の前に広がる炎の海。 きっと身体がまともに動く状態でも、ここからは逃げ出せないだろうと思われるほどの。 地獄の火の中に落ちたように、熱い。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:53
よつげ @Eight_os

3 ふっと意識が途切れたところで、僕はいつも目を覚ます。 そうして今日も、またこの夢かって言って頭を掻きながら 文机の前に腰掛ける。 そこにはPCが置いてあって、スリープを解除すれば書きかけの原稿が画面の中に映し出されていた。 僕は小説家として働いている。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:53
よつげ @Eight_os

4 駆け出しながら、新進気鋭の〜なんて注目されて、毎回毎回連載物を書くのが怖いったらありゃしない。 見透かしたように電話がかかってくる。 机に項垂れたままその電話に出た。 「…はい」 『どや、原稿は。終わったか?』 「もーちょい…」 『煮詰まってんのか』 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:54
よつげ @Eight_os

5 「煮詰まってんのとちゃう、行き詰まってんの」 『どっちでもええわ そっち行くから待ってろ』 「ふぁい…」 電話を切って、彼の到着を待ちつつ、再び画面に目を向ける。 細かくて気難しい面倒臭い性格ってよお言われる。 だからこそこの仕事も人より余計に神経を使ってる。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:55
よつげ @Eight_os

6 しばらくした後 電話の主が僕の家を訪れた。 「遅なってごめんな」 「いらっしゃいゆうちん」 この人は横山裕。 僕の編集担当であり幼馴染の一人。 …僕の物書きにおけるちっぽけな才能をいち早く見つけて、この道に引っ張ってくれた張本人でもある。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:55
よつげ @Eight_os

7 「あー喉乾いた」 「自分でお茶淹れてください」 「へいへい」 ゆうちんは勝手知ったるように急須を探し当て、お茶を淹れて渋い顔でお茶を飲んだ。 「…んで?今日はどこ?」 「引きの部分、もうちょい何かなぁってなってる」 「んー…全然今のでインパクトとしては十分やけど」 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:56
よつげ @Eight_os

8 「十分とかって妥協したないねん」 そう言うと、知ってたみたいに苦笑する。 「もうちょっと情感みたいのがあったらええんちゃうかな…」 「うわ、僕が一番苦手なところをよりにもよって」 「苦手やろうけど そこが克服出来てきたら、もっと跳ねる思うねんけどな」 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:57
よつげ @Eight_os

9 優しい口調ながら忌憚のない意見をくれるゆうちんに僕は絶大な信頼を寄せている。 原稿に詰まったらこうしてゆうちんとゆったり打ち合わせるのが常だ。 「…うん、ありがと。頑張ってみる」 「頼むでー、全然急がんでええって言いたいとこやけど、締切二日後やからな」 「うん」 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:57
よつげ @Eight_os

10 情感たっぷりの文章なんて、僕には絞り出す作業だ。 家に籠ってばっかで、ろくに感情の起伏なんてあるもんじゃない。 ゆうちんが帰った後、僕はちょっと文章を練ってから ふと溜息を吐く。 …公園でも行くか。 そこには僕のお気に入りの猫がいた。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:45:58
よつげ @Eight_os

11 「やーしやしやしやし」 公園に入った途端擦り寄ってくる猫を僕は撫で回す。 ほんまは飼ってやりたいくらいなんやけど、近所の人からも可愛がられてる子みたいやし 何より色々面倒くさそう。 たまに可愛がるくらいが一番やった。 一頻り撫でたら家に戻って画面に向き合った。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:46:02
よつげ @Eight_os

12 二日後。 …カチッ 「終わっ…た…」 僕は原稿を何とか上げて そのまま後ろの畳に倒れ込む。 この二日感徹夜した代償のように眠気が一気に襲ってきた。 そのまま目を閉じて意識を飛ばす。 またあの夢を見た。 僕が持っているこの本はなんだろう。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:46:02
よつげ @Eight_os

13 誰が僕を呼んでるんだろう。 ここはどこだろう。 この炎はどこから上がったのだろう。 答えることもなくパチパチと火花は爆ぜる。 弾けるような音が僕の周りからしている。 目が冴えてきてうっすら目を開けると、外はもう暗かった。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:46:03
よつげ @Eight_os

14 え、そんな時間?と驚いたものの、時計はそこまで遅い時間を示していない。 答えるように外から微かな水音が聞こえる。 どうやら雨が降っているらしい。いつもより暗いのはそのせいか。 「…あ、猫」 あの子の住処はダンボールやったと思うけど 屋根とかないやんな。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:46:04
よつげ @Eight_os

15 今日だけ保護するつもりで公園に傘を差して向かう。 しかし、ダンボールの中に猫はいなかった。 誰かもう連れてってもうたんかな。 あるいは… 公園内をくまなく探してみる。 と、四阿の隅っこに、 「わ!?え、ひ、人…?」 体育座りしている人影。 #エイトで妄想

2020-12-23 18:46:05
よつげ @Eight_os

16 見たところ十代くらいの…女の子? 制服着てるし 僕の声にその子はゆっくりと顔を上げる。 髪の毛がはらりと揺れた。 「えぇと…傘ないの?送ってこか?」 今思えばいきなり知らん男に話しかけられるとか、怪しまれてもしょうがないけど、 その子は俯いてちょっと黙った。 #エイトで妄想

2020-12-23 19:03:52
よつげ @Eight_os

17 そして 「…行くとこ、ないです」 …またこれは面倒臭い拾いもんやと思った。 やんわりと逃げようかと試みる。 「そ、そっかー…えっと、ほんなら僕帰るから、暗くならんうちにどっか泊まった方がええで?」 そう言うと、その子は軽く首を傾げて 「泊めていただけませんか」 #エイトで妄想

2020-12-23 19:03:52
よつげ @Eight_os

18 なんて言った。 「え!?いやいや、僕ん家散らかってますし…」 「あ、何でもしますから!」 「何でもて…そんなん若い女の子がやってええことやな」 「家事とか!」 「あ、あー…そっちね」 いやでも!人おったら仕事の集中削がれ… ないか。原稿終わったばっかりや。 #エイトで妄想

2020-12-23 19:03:53
よつげ @Eight_os

19 「まあ…部屋余ってるし 別にええけども…」 そう言うと、その子は分かりやすくキラキラ目を輝かせた。 うわ、めちゃくちゃ面倒臭い。 てか僕傘一本しか持ってきてへんし。必然的に相合傘やん。 「ありがとうございます!」 「あーはいはい、はよ帰ろ」 #エイトで妄想

2020-12-23 19:03:53
よつげ @Eight_os

20 そう、これから話すのは、この保護した野良猫娘と僕の、数奇な運命についての話である。 #エイトで妄想 pic.twitter.com/CbhpmutfyP

2020-12-23 19:03:57
拡大
よつげ @Eight_os

21 何の見返りもないのは忍びないと彼女が言い出し 僕もそれには納得して 飯だけ作ってもらうことになった。 ここ最近修羅場だったもんだから、まともな飯を食ってない。 申し訳程度の卓袱台の上に、久々のちゃんとしたご飯が並べられる。 「いただきます」 「…いただきます」 #エイトで妄想

2020-12-24 20:20:15
よつげ @Eight_os

22 一口食べて驚く。 「…美味いな」 「ほんとですか?」 「うん」 「…よかった」 そう言って微笑んだ彼女の顔はそこそこに別嬪で よおモテはるやろななんて思った。 でも 「あんた未成年やろ、家は?」 そう言うと、少し戸惑ったように目を泳がせる。 「家…?」 #エイトで妄想

2020-12-24 20:20:16
よつげ @Eight_os

23 その答えに違和感を覚えた。 「ないの?家」 「ないっていうか…」 その子は箸を置くと、思ってもみない言葉を口にした。 「覚えてない、です」 「は?」 「帰り方が分かりません」 「…あのなぁ、大人をおちょくるんもええ加減にせえよ だいたい制服着とるやん」 #エイトで妄想

2020-12-24 20:20:17
よつげ @Eight_os

24 そう言うとその子は、きゅっと唇を噛み締めた。 「…てことに、しといてください」 「?」 「ある意味、嘘はついてないけど… 私の事情にあなたを巻き込みたくないので」 何となく、この子をほっとけないと思った。 それは彼女の硬い表情のせいかもしれへんし、 #エイトで妄想

2020-12-24 20:20:17