合冊「泌尿器科医とウイルス学者のコラボレイション―ヒト・ポリオーマウイルス（JCウイルス）を指標としたヒト集団の成り立ちの解明―」の紹介

ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

“泌尿器科医とウイルス学者のコラボレイション―ヒト・ポリオーマウイルス（JCウイルス）を指標としたヒト集団の成り立ちの解明―” 私たちは上記のタイトルの別冊集（合冊）を作成した（目次を参照）。以下で、合冊中の各総説の見どころを紹介する。合冊は希望者に無料で配布（申請方法は最後に説明）。 pic.twitter.com/so0b8I9aSd

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私はインターネットの“まとめ”サイト（Togetter）に、私たちの研究―主にJCウイルス（JCV）を指標にしてヒト集団の成り立ちを解明する研究―を易しく紹介する“まとめ”を投稿してきた。そのひとつに、18年間共同研究を行った北村唯一（現・東大名誉教授。敬称略）が注目し、この“まとめ”を論文にし、彼が

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編集顧問を務める専門誌「泌尿器外科」に投稿することを勧めた。これが契機になって、JCVに関する私たちの研究をまとめた総説の連載が始まった。2020年9月からである。以下、各総説の見どころを紹介する。初回の総説１は“泌尿器科医とウイルス学者による共同研究の展開による共同研究の展開”と題した

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通り、連載全体のイントロダクションに当たる。以下の話を理解してもらうために、JCVはどんなウイルスかを説明したい。北村と余郷は1990年に健常人と非免役抑制患者が頻繁にJCVを尿に排泄していることを発見した。抗JCV抗体の調査などから明らかになっているJCVに関する知見―例えば、JCVは全てのヒト

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集団で蔓延していること、大部分の人は子供の時にJCVに感染するが、その際無症状であること、成人の腎組織からJCV DNAが検出されること等ーを踏まえるなら、JCVの生活環を次のように描くことができる（添付図参照）。①尿中JCVは感染源となって、JCVに未だ感染したことのない子供に侵入する。②体内に pic.twitter.com/WhS0QB0szH

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入ったJCVは血流に乗って腎に行き，生涯そこに寄生する。③腎で殖えた仔ウイルスは尿中に排出される。④初感染の際も、腎に持続感染する際も、JCVは目立った症状を示さない。⑤尿中JCVは未だJCVに感染したことのない子供に侵入し、次の感染サイクルを始める。⑥以上のJCVとヒトとの共生関係はおそらく

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現生人類が誕生した時から、維持されてきたと考えられる。なお、JCVは免疫が正常な人には病原性は示さないが、エイズ患者や骨髄性白血病患者など、免疫が低下する患者では致死的な脳症である進行性多巣性白質脳症（PML）を惹起する。以上の考察を基に、JCV研究の三つの分野を設定したことが共同研究の

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発展に役だった。第一分野は尿由来のJCVとPML由来のJCVの比較による病原性発現機構の解明、第二分野はJCVを用いたヒト集団の成り立ちの解明、第三分野はJCVの生態と伝播様式の解明である。第一分野は余郷グループが中心に行い，第二分野は両グループ協力して行い，第三分野は北村グループが主として

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行った。本音を言えば、最も重視したのは第二分野（“JCVを用いたヒト集団の成り立ちの解明”）であった。この分野の研究を進めるにあたって，「JCV がヒト集団の分岐と結びついて進化した」ことを証明する必要があった。この課題を余郷グループと北村グループが共同して取り組んだ結果、1997年にJCV

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亜型の世界的な分布が明らかになり（添付図を参照）、JCV はヒト集団の移動と分岐と共に世界中に拡散したことが強く示唆された。「泌尿器外科」に二番目に投稿したのは、北村がご執心の総説２（“JCウイルス(JCV)から見た中国の成り立ちー黄河文明の担い手と長江文明の担い手は、起源が異なるJCV亜型に pic.twitter.com/rSJUEbhuMQ

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感染していた！？ー”）だった。なお、オリジナルは英文だが、幅広い読者層を考慮して、日本語版と差し替え、英語版を総説７として別冊集の最後に置いた。総説２では，現代中国人はそれぞれ独特な地理的な分布パターンを示す四つの JCV 亜型─CY、SC、B1-a、B1-b1─を保有することが明らかになった。

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これらのJCV亜型のうちCYは中国北部に多く分布し、SCは中国南部に多く分布する。両亜型の主要な分布域の境界は黄河と揚子江の間にある。B1-aは概して低い検出率で、中国のほぼ全ての地域で検出された。B1-bはモンゴル、内モンゴル、中国西部、チベットで検出された。なお、中国北部人と同南部人との間

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の遺伝学的な違いは核DNA配列に基づく解析（主成分分析）でも確認されている（斎藤成也、“日本人の源流”、河出書房新社、2017年）。ここで中国の河川域に発達した古代文明を振り返ってみよう。私は中学校の社会科の授業で、黄河流域で生まれた「黄河文明」が世界四大文明のひとつだと教えられたが、

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1973年と1977年に行われた長江下流域の発掘調査により、黄河文明に先立つ「長江文明」の存在が明らかになった（注：長江は揚子江の別名）。長江文明を特徴づけるのは水田稲作であり、稗・粟などの畑作中心の黄河文明と対比される。本総説で明らかになったように、中国北部にはJCV亜型のCYが多く分布し

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中国南部にはSC亜型が多く分布する。両亜型の分布域の境界は黄河と長江の間にある。黄河文明の担い手がCY亜型を、長江文明の担い手が SC 亜型を保有していたと推定され、さらに、それぞれのJCV亜型を各文明の担い手の子孫たちが代々受け継いで、現在に至ったと考えられる。総説３（“尿由来のJCウイルス

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から見た現代日本を築いた人々”）では、日本列島の34箇所で尿を採取し、尿に含まれるJCV株の亜型を決定することによって、日本人は二つの主要な亜型（CY、MY）と三つの少数亜型（EU-a、B1-a、SC）に感染していることを明らかにした。興味深いことに、主要な亜型CYとMYは異なる地理的な分布パターンを

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示したことである。すなわち，宮古島から甲府までの西南日本ではCYの比率が高く、米沢から五所川原までの東北日本では MY の比率が高かった。CYの多い地域とMYの多い地域の間には、両亜型がほぼ同じ比率で検出される中間地帯が存在した。以上の知見は「日本列島に先住の縄文人がMYを保有し、弥生時代に

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大陸から日本列島にやって来た渡来人がCYを運んできた」と言うシナリオとほぼ合致する。私たちが次に注目したのは、秋田、弘前などを含む東北地方の日本海側で、ヨーロッパ系の亜型（EU-a）が高い頻度で検出されたことである。極東アジアにおいてヨーロッパ系の亜型が存在する謎を解くために、大学院生

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（当時）の杉本智恵は、ヨーロッパ大陸と東北アジア (日本、韓国、東北シベリア)で検出されたヨーロッパ系のJCV株の分子系統解析を、全長塩基配列をターゲットにした精度の高い解析法によって行った。その結果、太古において、ヨーロッパ系のJCVを持つ人々の東方への大移動が複数回あり、その一つが

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日本列島と朝鮮半島に至ったことが示唆された。私は2003年に東大医科学研究所を退官した後、北村の好意で2009年まで東大病院泌尿器科のウイルス解析室に在籍し、ウイルス研究に従事した。この期間の研究成果をまとめたのが総説４（“2003年～2009年に東大病院泌尿器科で行われたヒトポリオーマウイルス

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研究”）である。研究対象は従来から研究していたJCVに加えて、JCVに近縁のヒトポリオーマウイルスであるBKウイルス(BKV)まで広げた。以下では、BKVのIV型の起源についての私たちの推論を紹介する。BKVは進化学的にはJCVに近縁であるが、多くの点でJCVと異なる。JCVは血清学的には単一である。BKVには

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４つの血清型―I～IV型―が存在するが、主要なのはI型とIV型である。私たちが見つけたことだが、I型は世界中に分布し、IV型は東アジアに局在する。BKVが含まれるポリオーマウイルス属は宿主特異性が高いので、祖先アジア人が感染したⅣ型BKV の感染源は類人猿か旧人が考えられた。現役を退いて約 10 年

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経って、余郷は以下のような仮説を思いついた。「今から約 6 万年前，現生人類の祖先はアフリカを出てヨーロッパやアジアに向かった。当時ヨーロッパやアジアには、今や地球上から姿を消した旧人類（ネアンデルタール人、デニソワ人など）が生息していた。発掘された太古の人類の骨や歯などに残存する

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遺伝子を抽出し、解析した結果、現生人類の祖先は旧人類と異種交配していたという驚くべきことが発見された。もし現生人類の祖先と旧人類とが異種交配するほど親密に接していたなら、旧人類に感染していたウイルスが現生人類の祖先に伝播することがあったかもしれない。Ⅳ型 BKV がそのようなウイルス

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である可能性が考えられた。」総説５（“尿中JCウイルスから見たアメリカ先住民の起源”）ではアメリカ先住民の起源を扱った。JCVを指標にしてこの問題を解析した最初のグループは、アメリカNIHのG.L. Stonerらだった（Agostiniら、1997）。彼らは、USA内のアメリカ先住民の尿から得たJCV株の塩基配列と