金魚の話

金魚の話
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中野善夫 @tolle_et_lege

世界が終わって虚無を漂っていたら近づいてくる金魚が見えて距離が生まれた。「おーい」と呼びかけたが、金魚は丸い躰で長い尾鰭を揺らしながらふよふよふよと泳ぎ去っていった。金魚が視界から消えて距離も消えた。

2021-05-13 19:20:17
中野善夫 @tolle_et_lege

金魚はもう飽きたので今日で終わりです。世界も終わってしまったことだし。

2021-05-12 20:20:33
中野善夫 @tolle_et_lege

夜の散歩に行こうとしたとき、金魚が「この電灯のスイッチの隣にある押しボタンは何?」といった。それは押してはいけない。押すと世界が終わるらしい。前にこの部屋を借りていた住人の置き手紙に書いてあった。「からかわれているのでは。押してみよう!」やめろというのに金魚がボタンを押すと世界は

2021-05-12 20:19:39
中野善夫 @tolle_et_lege

金魚との夜の散歩で夜空をずいぶん這い上がれるようになってきた。どうしても越えられない出っ張りがあって(多分、月光が凝集していたのだ)困っていると金魚が「手を貸してやろう」と引っ張りあげてくれた。今日は優しいな変だなと戸惑った瞬間、金魚がにこりと笑って手を放すと私はそのまま下へ……

2021-05-11 19:50:53
中野善夫 @tolle_et_lege

金魚と夜の散歩に行ったら突然「さあ、今日は夜空を摑んで登って行く練習だ」といいだした。摑みにくい夜空の摑み方を金魚が指導してくれる。今日は60 cmくらい登れるようになった。でも、そもそも登りたいわけでもないのだけどと云ったら「そんなことばかり云っているから駄目なんだ」と怒られた。

2021-05-10 20:03:11
中野善夫 @tolle_et_lege

夢の中で鰐に襲われているところに金魚が出てきて鰐を飲み込んで助けてくれた。「やれやれ助かった」「鰐なんかに襲われているから駄目なんだ。いつもくだらないものに襲われて」「知っているのか!」「いつ見てもあんなこととかこんなこととか恥ずかしいな」「見ないでくれ、助けなくていいから!」

2021-05-09 19:43:36
中野善夫 @tolle_et_lege

金魚が買った本を抱えて嬉しそうに帰って来た。「置く場所ないんだけど」というと「本は買いたいときに買いたいだけ買うものだ。そんなことを云っているから駄目なんだ」怒って積み上げた本の上に買ってきた本を積み上げる。本の塔が倒壊して金魚は埋もれた。あれから3箇月、まだ金魚は出てこない。

2021-05-08 19:25:03
中野善夫 @tolle_et_lege

金魚がもう駄目だこれでお別れだと云って動かなくなった。死んでしまったのかと思い、ごみ箱に捨てようとしたら動き出した。金魚の身体は4つに分裂して、それぞれが独立した金魚になった。「絶対に地球の生き物じゃないね。金魚のくせに喋れるし」といったら一斉にふふっと笑って泳ぎ去っていった。

2021-05-07 20:00:57
中野善夫 @tolle_et_lege

金魚が「この頃朝顔朝顔ってそればかりだけど、私と朝顔のどっちが大事だと思っている?」というので「もちろん朝顔に決まっているじゃないか」と云ったら、そのときは何も云わなかったが翌朝起きてみたら金魚はいなくなっていた。置き手紙には「この種を蒔いてください」そして朝顔の種が一粒あった。

2021-05-06 20:13:11