【札幌まで】福間健二 #k2fact293

何回やってもまちがえる。北極星を意識しすぎて、サキちゃんの深呼吸する森に入ったことを忘れる。好きだった。酸化しても好きだった。正確には、ある程度までだろう、と言うな。ほら、ここに二十一世紀が寝ころがっている。徘徊は老人だけがするわけではなく、全員当たりだ。(札幌まで1)#k2fact293
2021-05-04 19:41:57
南風がつよい。だれの無意識でもなくぼくが音の中心の、多摩川の岸辺。呼べばよかった。かっこいいサキちゃん。五月の触角を避けないその老後の愉快な仲間たち。切り口の花粉との対話、もうできないとしたら、このバラードは秒針を追うだけになる。九時十分、十一分、十二分。(札幌まで2)#k2fact293
2021-05-05 09:16:05
この犬、サキちゃんの犬だったらどうする。そうでなくても旅立ち前の展開、作戦もなく老いるのでは困る。選んだ卵だとしても、いま降りてくるな。空に戻るのもどうかなってさすがに無能な灰色が居座っている。いつか割れるならいま割れろ。力を入れなくても骨を感じとる。(札幌まで3)#k2fact293
2021-05-06 16:40:30
迷いながら発見する人たち。サキちゃんもそうだったかな。屋根裏になにか隠して、庭では虫たちと遊ぶ。もう少しこのままでいたいと思いながら、青空。チャイムが鳴るまでにすること、いくつもに分離して他動詞では追いつけなくなる。流用の公式、あってもジャマになるだけ。(札幌まで4)#k2fact293
2021-05-07 09:48:53
もう会えないと思っていた人たちがみんないる。サキちゃん、いつのまにどんな取引をしたのか。みんなうまく歳をとって、なんでも奪いたがる時間の奥の美しい飛行機に隠れていた。抱きしめたい。いまそれはできない。離陸までの、大急ぎの情勢判断。反解釈はきのうのオレンジ。(札幌まで5)#k2fact293
2021-05-08 11:34:45
だれが無罪なのだろう。回想も相対化もスムーズにさせない滑走路の風。日付けが変わったことに気づかずにいた。荷物、まず本を減らそう。当事者ではなくても眠らない膝で降りる夜が用意してくれる遺稿集も。踏むな。サキちゃん、踏むな。黒い波をかぶるだけでも大変なのに。(札幌まで6)#k2fact293
2021-05-09 10:35:15
人も馬も空中に飛び散った。ひいおじいちゃんのノモンハン。水の来ない繃帯所の夜。日記を書いた。歌では石川啄木の影響を受け、買ってはいけないものを買い、裏山のカプセルに逃げこんで。目をさませば札幌、豊平川の岸辺。サキちゃん、ペットボトルの水、ありがとう。(札幌まで7)#k2fact293
2021-05-10 10:53:56
いま読むべきもの、なんだろう。降りにくい階段をなんとか降りて新しさなんかどうでもいい男になる。その前に処分すべき未熟な夢がありそうだが、旅先だ。急な川の流れがきのうの判決を忘れさせる。そしてスズラン、まだ蕾。柑橘類できない土地のやさしい歌。わかるしかない。(札幌まで8)#k2fact293
2021-05-11 12:23:04
たとえ話。果実でなくてもオレンジ色であること。質量よりも速度と明るさで、黒い釘をもつどんよりした人たちにも話しかけて、苦悩の廊下、ためらう握手、返しそこなった傘などで構成する午後に拾う歌。だれを殺したいとか言わないことだ。創成川公園。タンポポが咲いている。(札幌まで 9)#k2fact293
2021-05-12 11:21:21
南平岸駅構内「ハッピーフラワー」のまるごとりんごパイ。一五〇円になってた。用事のない息子が運ぶ情報。実は、盗み読みされたサキちゃんの札幌日記。では、無能な参謀たちを生きのびさせるパーティーはどう粉砕するか。「みよしの」のカレーとぎょうざを食べながら考える。(札幌まで10)#k2fact293
2021-05-13 12:22:08