男性の性被害とその影響について
最近10年間のうちにトラウマに関連する問題は、精神医学・心理学研究者の関心を集めるようになり、災害によるトラウマだけではなく、様々な虐待による慢性的なトラウマに関する研究も進歩を見せている。
2011-08-08 01:37:02なかでも性的虐待は、「レイプ被害後のPTSD発症率は自然災害後の発症率の約5倍高い」という報告からも明らかなように、トラウマ臨床の重要課題である。
2011-08-08 01:37:39また性被害体験は、自傷や自殺企図などの激しい行動化を呈する境界性パーソナリティ障害の女性患者にも見出されることがあり、一般精神科臨床でも重要である。
2011-08-08 01:37:57このようにして精神医学の文脈のなかで市民権を得た性的虐待であるが、実はそれも女性を被害者とする場合に限られている。事実、女性の性被害が注目を浴びる一方で、男性の性被害に関しては、いまもって議論されること自体がまれである。
2011-08-08 01:38:09ちろん、90年代後半以降、IselyとGehrenbeck-Shim は、レイプ被害者の5~10%が男性であることを報告し、Kesslerら は、レイプ後のPTSD発症率は女性よりも男性の方が高いことを明らかにするなど、次第にこの問題への関心は高まってはいる。
2011-08-08 01:38:32もっとも、精神医学・心理学において男性の性被害体験が取り上げられなかったのには、ある意味、無理からぬ事情もある。というのも、男性の性被害が問題として認識されたのは、医療機関ではなく、司法関連機関においてであったからである。
2011-08-08 01:38:52たとえばJohnsonらは、刑務所の成人男性受刑者の59%に児童期における性的虐待の被害体験が認められたことを報告し、Wolffらは刑務所内における受刑者同士の性加害・被害行動が釈放後に他害的行動に繋がる可能性に警鐘を鳴らしている。
2011-08-08 01:39:14すなわち、レイプ被害を受けた場合、女性はPTSD症状など内在化を示す傾向が見られるのに対し、男性の場合には、性的加害などの性化行動として外在化されやすいというのである。こうした特徴も男性性被害者が司法機関で多く見られる理由なのかもしれない。
2011-08-08 01:39:43おそらく3つの理由が考えられる。第一に、異性との性的接触が制限されている矯正施設内では、男性被収容者による他の男性被収容者に対する性的加害行為が問題となることがあり、結果的に被害体験を持つ者が生じる可能性がある。
2011-08-08 01:42:44第二に、矯正施設被収容者のなかには、虐待や早期からの不適応行動により幼少期を養護施設で過ごした者も少なくないが、すでに指摘されているように28、養護施設内で他児や職員による性被害に遭遇している者がおり、これが性被害体験者の割合を押し上げている可能性がある。
2011-08-08 01:43:00事実、我々の調査では、一般高校生、少年鑑別所、少年院という順に、その非行性・犯罪性・社会逸脱傾向がより深刻な集団ほど性被害の経験率が高いことが確認されている。この事実は、性的虐待と反社会性との関連を推測させる結果といえないであろうか?
2011-08-08 01:43:57