藤原辰史『農の原理の史的研究』読書メモ集

藤原辰史『農の原理の史的研究―—「農学栄えて農業亡ぶ」再考』(創元社、2021)の読書メモをまとめました。
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荒木優太 @arishima_takeo

田村真太郎は、東京大学農学部農芸化学科を卒業し、農林省の食糧研究所を経て、農林省んの企画連絡室長の経歴を持つ。その田村が執筆した『ユートピアと食生活』(一九八一年)という書物は、そのような堅実な経歴を吹き飛ばすほどのパンクなインパクトを持つ。by藤原辰史『農の原理の史的研究』

2021-05-23 12:15:22
荒木優太 @arishima_takeo

インパンクなわけですな。

2021-05-23 12:15:34
荒木優太 @arishima_takeo

農学とは、農業固有の価値を否定もしくは軽視してはじめて、みずからが登場する環境を整えたものであった。農学は、その豊穣な成果を、生命科学へと、そして経済学へと分割しつつある。農学の存在根拠がいまこれだけ問われるのは、そのためである。by藤原辰史『農の原理の史的研究』30

2021-05-23 12:17:47
荒木優太 @arishima_takeo

「権藤成卿と橘孝三郎など、大学では生み出せないような独立研究者の蠱惑的な言葉に心を奪われる前に、大学で研究する者にはやるべきことがないだろうか」(藤原辰史『農の原理の史的研究』41)。ほへー。

2021-05-23 12:20:15
荒木優太 @arishima_takeo

藤原辰史『農の原理の史的研究』62。日本農学の祖、横井時敬のユートピア小説『模範町村』では「労作歌」が禁じられている。農業の近代化は唄と労働を分割させる。あたかも、セイレーンの歌を聞くオデュッセイと舟を漕ぐ奴隷たちの分離のように。

2021-05-23 17:23:21
荒木優太 @arishima_takeo

「農本主義」という言葉を発明したのが横井時敬。メモ。

2021-05-24 19:02:10
荒木優太 @arishima_takeo

襟巻をせず寒風に耐えよ、仕事中に歌を唄うなという精神主義は、実は横井時敬が批判してやまなかった農業の工業化、つまり、黙々と、無駄に労力を使わず、集中して働くべしというアメリカ由来のテイラー主義や労働者の理論に通ずる。by藤原辰史『農の原理の史的研究』101

2021-05-26 19:02:24
荒木優太 @arishima_takeo

藤原辰史『農の原理の史的研究』114。横井時敬『小農に関する研究』では、クロポトキンの『田園・工場・仕事場』が参照されている。横井の農本論はアナキズムに通じる。ただし、地主と小作人の階級的支配関係を衝くクロポトキンと違って、横井はその友情を説く。ここ面白い。

2021-05-26 19:06:20
荒木優太 @arishima_takeo

参考文献にも記載があるが、クロポトキン『田園・工場・仕事場』は、『アナキズム民俗学』でも論じられた柳田国男お気にの一冊。『相互扶助論』や『パンの略取』のイメージが強いクロポトキンだが、戦前これは意外と大きな重みをもっていたようだ。

2021-05-26 19:09:50
荒木優太 @arishima_takeo

本にも書いたことだが…っていうかここでも何度か書いた気がするが、『田園・工場・仕事場』は有島武郎がクロポトキンを訪問したさい直接献本された作品でもある。この本の受容だけで一つ論文が書けそうなもんだが。

2021-05-26 19:11:50
荒木優太 @arishima_takeo

他方、あの本がクロポトキン著作中で特別面白いかと問われれば、まあ、苦笑いなんですけどね。

2021-05-26 19:15:38
荒木優太 @arishima_takeo

藤原辰史『農の原理の史的研究』227。ナチス時代の文書には「ドクター~」や「プロフェッサー~」に並んで「バウアー~」(農民~)という表記が出てくるそうで、これは「血と土」をスローガンにしたナチスがドクターに匹敵する称号にまで高めたためだそうだ。へぇー。

2021-06-18 15:46:38
荒木優太 @arishima_takeo

なお、当時の日本の農林省は「バウアー」を「純農民」と訳しているらしい。へぇー×2。

2021-06-18 15:47:54
荒木優太 @arishima_takeo

「ナチスは国民社会主義の理念に反する芸術を「アスファルト芸術」と呼び、「血と土の芸術」の敵とした」(藤原辰史『農の原理の史的研究』237)。アスファルトに咲く花のように♪

2021-06-18 15:57:19
荒木優太 @arishima_takeo

「農業を中心とする生命現象をダイナミックに論じようとして、各学問分野を統合しようとする横井と吉岡の共通のトラップは、大きな権威から自分を振り払うことの難しさであった」(藤原辰史『農の原理の史的研究』297)。横井時敬の場合は国家主義、吉岡金市の場合はスターリニズム。なるほど。

2021-06-18 18:06:32
荒木優太 @arishima_takeo

藤原辰史『農の原理の史的研究』読了。途中急を要する仕事をやってたせいで、第四章あたりの論旨を微妙に忘れているのだが、たいへん面白かった。人文書として、考え得る限り最高のものと言いたい気さえする。少なくとも今年のベストは固い。

2021-06-18 18:17:12
荒木優太 @arishima_takeo

外見からは分からないかもしれないが、チャチャーノフと横井時敬のユートピア小説の比較から始まっていくところからしても、これは文学研究として評価すべき書物でもある。こんなのが書けたら気持ちがいいことだろう。

2021-06-18 18:21:11
荒木優太 @arishima_takeo

「チャチャーノフ」は間違えで、正しくは「チャヤーノフ」でした。失礼。

2021-06-18 18:32:08
荒木優太 @arishima_takeo

創元社の「叢書パルマコン」というシリーズの一つのようだが、「農の原理」がまさしくパルマコン(毒/薬)としてある点も粋だ。農業と農学のあいだを行き来することは勿論、煎じ詰めていえばそれは自然科学と社会科学、リアリズムとロマンティシズムの対立のなかで揺れ動くものとしてある。

2021-06-18 18:27:55
荒木優太 @arishima_takeo

隠れテーマが、権威主義(アカデミズム=農「学」は現場から離れた役立たず?)であることも在野研究者として多くの示唆をもらった気がする。

2021-06-18 18:30:00