ライスのアニメ感想:#101 コクリコ坂から(製作:スタジオジブリ、2011年)
- terry_rice88
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前回の予告の通り、「コクリコ坂から」の感想を呟いていこうと思います。「ゲド戦記」以来5年ぶりの宮崎吾朗監督作品です。前回は成功としたとはいいがたい作品でしたが、今回はどうだったのか。一言で言えば、「評価の難しい」作品だなあという印象です。
2011-08-13 16:45:35一方で、絶賛の評価があるのも分かるし、片や批判の声が上がっているのもわかる作品でした。珍しいと思ったのは一般の人だけでなく、業界人の間でも評価が分かれているという点。結構リトマス試験紙的な作品だったんじゃないかなあと。
2011-08-13 16:48:49時代背景が東京オリンピック前夜の横浜が舞台と言う事で1960年代初頭が舞台なのですが、60年代や高度成長気の日本が少しでも記憶のある人にとっては違和感が少なからず出そうだし、それらの記憶がない若い人にとって見れば、ファンタジーとして見られると言う印象。
2011-08-13 16:52:01いわゆる「美化された60年代の日本」といった印象は拭いきれないかなあと。週刊コミックモーニングで「僕はビートルズ」という漫画が現在連載中ですが、これと同傾向の雰囲気を感じましたねえ。ファンタジー化された1960年代というのがこの作品の特徴でもあり欠点でもあります。
2011-08-13 16:54:52だから学生運動や学生たちの活動に理解のある大人たちというのは当然美化された「昭和の人間たち」であるんですよね。歴史的には正しくない、けどエンターテイメントとして、心地いい物を見せると言う点においては正しいと言えるはず。
2011-08-13 16:58:15「ALWAYS 三丁目の夕日」がなぜヒットしたのかを考えると、そういう点では明白なのかなあと。映画を、むしろアニメを楽しむ、楽しませるためにはオミットせざるを得なかったのかもしれません。
2011-08-13 17:00:40漫画「味いちもんめ」でも「過去の味をただ再現するのではなく、その人が美化した記憶も含めて、料理に味付けをしなくてはならない」というエピソードがありましたけど、まさにそれなワケで。エンターテイメントと言うものを考えると仕方がなかったのかなあと言う気がします。
2011-08-13 17:01:57ですから、その「美化された世界」に嫌悪を抱く人は当然出てくるわけですね。あんまりにもきれいに整いすぎてしまっているから。一昔、二昔前だったら、カルチェラタンは学生の意見が通らず、そのまま取り壊しにと言う流れになって悔しがる学生たちの姿が画面上にあったんじゃないんでしょうか。
2011-08-13 17:05:14この「コクリコ坂から」の評価が難しいとした点についてはこれからを生きる人間の視点と老境に差し掛かって、達観した人間の視点が混在してて、フォーカスできていないと言う問題点が浮き彫りになっているんじゃないのかなあという気がしたからです。
2011-08-13 17:08:20今まで語ってきたことって言うのは、あの時代を生きてきた人間が過去を振り返って、「あの頃は良かった」と美化した記憶を押し付けてこのように生きろと指図してると言う風にも取れるかなあと、「もっと生きろ!もっと躍動を!」というのがメッセージ。
2011-08-13 17:12:04対して、「分かりました、あなた方の記憶はきちんと尊重しますから。あなた方の生き方とは違いますが、僕らの生き方をちゃんと見てください」という風に言い返したのが今回の主人公だった海と俊だったんじゃないんでしょうか。
2011-08-13 17:15:22個人的にはこの作品、時代背景とかは全く関係がなくて、人間、あるいはキャラクターに焦点を当てた作品だったんじゃないかなあと言う気がしました。ストレートに主要キャラクターのエピソードだけを見ていくと、割と面白いストーリーだったんではないのかなあと。少女漫画の文法をなぞったアニメとして
2011-08-13 17:18:42なので心理描写をあえて語らず、キャラクターの生活の営みを克明に描いたおかげでキャラの話に説得力が出たようにも感じたなあ。なので描写の割き方には吾朗監督らしさの片鱗がちょっとだけ垣間見えたようにも感じました。
2011-08-13 17:21:53今まで、ジブリ作品の多くは割りとキャラの行動が気持ちを示すと言う描写で話を詰めてきたわけですが、そこら辺の掟破りがあったんじゃないのかなあと思ったのが後半の海の夢の描写だったのではないかなあと。ああいったキャラの精神内部に踏み入ろうとする描写はあんまりなかったように思いました。
2011-08-13 17:25:03あと目を見張ったのは、俊と生徒会長の水沼のトイレのシーンとか授乳シーンなど、人間の生理現象を行うシーンが見れたのも新鮮と言えば新鮮だったように思うかなあ。あとは建物の描写、とくにカルチェラタンの修繕などは元建築家だった吾朗監督のこだわりが見えたように思いました。
2011-08-13 17:28:21今回のコクリコ坂で父親の駿監督とは違った味わいが出てきたかなあと素直に感じられたのはこの作品の評価していいところだとは思いますね。ただ父親のような天才肌じゃなくて、わりと実務派っぽくはあるのでトップダウンと言うか、ボトムアップで作られた作品だったと言う気はします。
2011-08-13 17:41:37所以、そこがジブリブランドと言う点で頭がすげ変わろうともスタジオジブリである事は変わりないという強みがやっぱりそここにあった印象。けれど、やはり画面の切り取り方とか、カメラワーク、演出にほんの少しずつ差異はあった印象がします。
2011-08-13 17:44:39でまあ、その吾朗監督らしさの背後には駿監督や高畑監督、押井監督の影がちらほらと見え隠れしていたようにも感じましたねえ。今回、「人生で初めて必死になった」ともパンフレットで語ったように自分の内を必死になって探ったような感じはすごくあるかなあ。
2011-08-13 17:49:30比較的にあっさりした(ドライな?)描写や演出は高畑監督、キャラの内側に探りを入れるような描写や長台詞などは押井監督っぽくあったような気もしますし、今までになく音楽を多用してたのは吾朗監督の見てきた80年代以降のアニメの影響でもあったんじゃないのかなあと言う風に見て取れましたね。
2011-08-13 17:52:35どれもオリジナルには一歩どころか二歩、三歩及んでない感じではありましたし(押井監督のダメだし評価もそこら辺が原因かも)、ジブリブランドに引っ張られすぎな所もあったかとは思いますが「らしさ」は少しずつ見えてきたようにも感じました。それがジブリの未来を支えるかどうかは別ですけども。
2011-08-13 17:56:04ただゲド戦記興行成績失敗の禊は無事終えられたかなと言う印象。吾朗監督にはもうすこし別の課題で監督作を手がけて欲しいなあと思いました。今のところ特徴があるのはキャラの描写と建物のこだわりなのでどちらかと言うと現代劇でしょうねえ。個人的には人間の精神内部を探るような題材がいいかと。
2011-08-13 18:02:59これは恐らくですが、吾朗監督は設計図は作れる人で全体の統括者であると言う事なんでしょうね、文字通りの「監督」であると。適材適所に人材を配置して、合議しながら全体を見据える。天才じゃないからこそ、陣頭指揮をとるということをわかっていそう。だから無理に出しゃばらないのかもしれません。
2011-08-13 18:08:11牽引者ではない、というのが吾朗監督の強みなんではないかと。そう考えるとカルチェラタン修繕のシーンは興味深くもありますよね。あと海は吾朗監督にとってのナウシカであり、俊は吾朗監督の投影でもありアシタカでもあるのかなとも。両方宮崎駿の「子」として、「親」に抵抗した結果がコクリコ坂だと
2011-08-13 18:14:29そう考えると、評価は難しいけど興味深くもあり意義深くもある作品だったのではないでしょうか。というわけでコクリコ坂からの感想を締めたいと思います。ありがとうございました。
2011-08-13 18:16:13追記:そういえばコクリコ坂からの音楽について語るの忘れてましたw 手蔦葵の歌が目立っていたけど、どちらかと言うと当時の歌謡曲の曲調をなぞった上で、ポップスとして再生産してる感じがありましたねえ。後に山下達郎のシュガーベイブや荒井(松任谷)由実が登場した頃の懐かしい感じの。
2011-08-13 22:12:17