枕草子は史実を合わせてもう一度読んだときにエモい。

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たられば @tarareba722

@utataneko57577 よく知られた話ですが、史実を見ると、『枕草子』は中宮定子と清少納言が政治的な敗者となった頃に書かれたことが分かっています。絶望のなか、二十四歳で夭折した偉大な主・定子の魂を鎮めようとした時、清少納言はその冒頭に「春はあけぼの(がいい)」と、「この世界」を祝福する内容を描きました。

2019-08-16 12:55:00
たられば @tarareba722

四季それぞれの「とびきりの時間」を紹介して世界を祝福する冒頭から始まる『枕草子』。けれどその内容は、史実を調べれば「凋落」や「死」と隣りあわせでの執筆であったことがわかる仕掛けになっています。悲しくてつらい世界が重すぎたからこそ、明るく笑うことで祝福する必要がありました。

2021-07-18 21:28:33
たられば @tarareba722

たとえば『枕草子』三巻本、第九十段「ねたきもの(しゃくにさわるもの)」。この章段は、急ぎの仕立てものを縫わなければならない時に「うまく縫い上げた」と思って針を抜いたら糸の結び玉を作り忘れていたりすること…とあって、そのまま「南の院におはしますころ…」と回想に入る内容です。

2021-07-18 21:29:01
たられば @tarareba722

「中宮定子さまが南の院(東三条院の南院)にいらっしゃる頃、女房たちが総出で急ぎの縫い物を頼まれたことがあります。みんなで裁縫をしていると、自然に誰が一番早いかと競争になって、(年配である)命婦の乳母がずいぶん早く縫い上げたのだけど、仕上がりを見たらまんまと裏表間違えました。」

2021-07-18 21:29:41
たられば @tarareba722

「早く縫い直しなよ、と声をかけたら、この着物は柄物ではなく無地でなんの印もないのだから、この(裏表が逆の)ままでも誰も気づかないのではないか。どうしても縫い直すというなら、私でなくてもいいでしょ。まだ縫ってない人にやらせましょう、と言うことを聞かないので、別の者が直すことに。」

2021-07-18 21:30:30
たられば @tarareba722

「代わりに縫い直すことになった源少納言や中納言の君などは、えらく気が進まなかっただろうし、たいそうしゃくにさわっただろうなあ…。ただ、その縫い直す様子を(気になるのか、張本人の命婦の乳母が)じろじろ眺めていたのはとても滑稽だったけどねー。」 という描写(引用者が現代語訳)。

2021-07-18 21:31:29
たられば @tarareba722

文化祭とかを思い出す「大人数裁縫あるあるネタ」で、最後にきっちりオチもつけた章段なのですが、平安文学研究の大家・萩谷朴氏によると、このシーンは史実での日付がわかっており、中宮定子の父・藤原道隆が亡くなった直後であり、清少納言らが縫っているのは遺族が着る予定の「喪服」だとのこと。

2021-07-18 21:32:48
たられば @tarareba722

清少納言が出仕してから中宮定子が南院を訪れた記録は2回しかなく、そのうち連れている女房たちが急いで縫い物をしなければならない機会は1度だけ。つまりそれが急逝した道隆の葬儀のための列席者の喪服準備であり、喪服だからこそ布がすべて「無地」であり、だからこそ表裏が逆になったのだろうと。

2021-07-18 21:34:04
たられば @tarareba722

道隆の死は、中関白家にとっても中宮定子にとっても最大の転機であり、実際、史実ではこれをきっかけにして坂道を転がるようにして凋落してゆきます。そんなことは書いた清少納言も読む中宮定子もわかっている。わかっていてあえてこの日の記憶を、縫い物の失敗と笑い話として留めているわけです。

2021-07-18 21:35:45
たられば @tarareba722

一部繰り返します。『枕草子』は定子と中関白家の不幸や苦難をあえて書いていません。その「あえて」は、史実を知るほど、より厳しく、絞りこまれた、まるで廃墟の曇り空にかかる美しい虹にのみピントを合わせてシャッターを切った一枚の写真のように、ただ一瞬をすくい上げていることがわかります。

2021-07-18 21:37:24
たられば @tarareba722

だからこそ同時代の紫式部は清少納言に対して「ひどく悲しかったりつまらないときでも、しみじみ感動してみせたり、なにか面白いことはないかと探し回って、誠実でない態度になってゆくのでしょう」と書くことになったんだろうなあ…と思うのでした。ここらへんは以下参照。 twitter.com/tarareba722/st…

2021-07-18 21:39:20
たられば @tarareba722

よく「紫式部は清少納言のことをボロクソに書いていた」なんていう人がいるけど、そういう人はぜひ自分の目で『紫式部日記』を読んでみてほしい。現代語訳にも目を通して、あの日本文学を代表する作家がライバルのことをどう書いたか、ちゃんと確かめたほうがいい。わりと引くくらいのガチ悪口だから。

2018-11-15 16:10:53
たられば @tarareba722

平安文学研究者の藤本宗利氏は、『枕草子』を「定子への鎮魂の書」と書きました。 「あざやかな光り」は、すぐ側に「昏く沈む闇」があるからこそより鮮明に輝く。そういう演出論としても『枕草子』は優れており、また執筆当時の読者にはその「闇」がいまよりずっとリアリティをもって感じられたはず。

2021-07-18 21:38:37
たられば @tarareba722

閑話休題。 他人からどれほど華やかで明るく軽やかに見えていても、重く苦しい現実と戦っている人はたくさんいます。「地獄」はどこにでもあって、誰もが抱えているもので、そうした苦しみがまったくわからない人もいれば、わかっていてなお、さまざまな理由で「だからどうした」と言う人もいます。

2021-07-18 21:40:21
シン・ハルコ💉💉💉 @tamalovepoaro

枕草子、は史実、細かい政治の動き、中関白家を取り巻く動きも合わせて読むと「裏返る」んですよね。キラキラ、どこまでも眩しく鮮やかではないんですよ。暗いから光る星なんですよ…

2021-07-18 23:19:22
シン・ハルコ💉💉💉 @tamalovepoaro

枕草子で「職の御曹司におはしますころ」とか冒頭で前提として、いつ、どこで、どんな「時期」なのか示される短い説明詞。 当時の貴族たち、そして枕草子と史実と照らし合わせた後世の人は「あっ」と息を呑むんですよ。 わからない人たちはただ居場所の解説にすぎないと受け取るのも織り込み済み。 twitter.com/tarareba722/st…

2021-07-18 23:11:11
歴史ナビ @rekinavi

【史実】『枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い』の著者・山本淳子氏に『枕草子』が描かれた背景を聞く >紫式部が「嘘っぱち!」と酷評した『枕草子』、清少納言はなぜキラキラした生活だけを描いたか dot.asahi.com/dot/2017092100…

2017-09-26 17:35:07

だからFGOの宝具もエモい

ヒンメル🏴‍☠️🥐🌽👯‍♀️🌸 @Himmelkei8

FGO、枕草子と清少納言の史実知らないとシナリオの意味わかりづらいだろうな

2020-02-18 20:21:49
三枝零一 @saegusa01

そろそろイベント終わりそうだからネタバレ書いてもいいかなと思って書くけど、非業の死を遂げた中宮定子を弔うために清少納言が美しい思い出だけを書き綴ったのが「枕草子」でそこから生まれる宝具が「世界をキラキラのお花畑で塗りつぶす固有結界」ってすごすぎないですか。#FGO

2020-02-22 20:44:44
ひらこ @ampere6fg

なぎこさん宝具の「なべてこの世は、いとをかし。塗り潰せ、枕草子! 」と「キラキラしきもの、ときめくもの。身は朽ちるとも永遠にあり! 永遠無窮!」が好きすぎてごぼごぼに泣いてしまう。クイック宝具だけど言霊のバスター感。現実がどうであれ、キラキラしたものを忘れずに沢山すくいとりたいね

2020-02-28 00:01:00

逆の意見もある。背景を知らないで読みたい

絢丸 @ayayarya1225

枕草子は、歴史上にあった辛い状況を知ったとしても読む時にはそれを忘れて読みたいとても厄介な作品でもあるとも最近思う(;´д`) 前は「この時この状況だったのか💦なんだか印象が変わる😭」と思ったりもしたけれど、それを説明していない清少納言さんにそう言えるだろうかと考えたら言えない気がして

2021-07-19 11:47:11
絢丸 @ayayarya1225

片渕監督さんの次回作や田辺聖子さんや冲方丁さんの作品のような枕草子から生まれた作品に触れる時は背景を知っていたいけれど、枕草子を読む時は背景をまるっと忘れてしまいたい 切り替えスイッチが欲しい

2021-07-19 11:47:12