Prof.@ Lab. for Q-Bio@Institute of Industrial Science, UTokyo 発言は個人のもので所属組織とは関係ありません Also at https://t.co/FEQuedfJ4r
生物哲学は自分もポスドクの時に読んで参考になったし、学生にも一度は読んどくのが良いよとは薦めている。進化とか種とか免疫とか発生とか、色々考えるのに参考になる。
2021-08-01 23:34:14なお私は複雑系科学も半分哲学だと思っていて、ちゃんと追うと色々大事な問題を提起している。解けなかった問題ばかりなので急速に廃れてしまったが。学生にも一部の本を読むように薦めている。
2021-08-01 23:37:58昔の金子さんや津田さん、池上さん、大野さんの話も好きだが、密かに郡司さんファンでもある。
2021-08-01 23:47:38質問があったので、複雑系が廃れた理由についてもう少し書いてみます。なお自分は複雑系ブームのピークが過ぎた2000年に修士1年で、複雑系の薄暮を学生として見つつ、別分野(システム生物学)などに取り組んだ世代なのを明記しておきます。1/n
2021-08-02 14:56:51複雑系が廃れた理由は複数あると考えています。少なくとも、 (1) 風呂敷を広げすぎて有象無象が群がりバズワードとして消費された (2) 重要な問題は多く提起したが、複雑系として解けた結果や or 体系化できた結果が少なかった (3) 当時の他の分野のブームで相対的に縮小した があると思ってます。2/n
2021-08-02 14:57:52他の分野のブームとは2000年ごろから台頭してきた例えば、機械学習、システム生物、ゲノム、ネットワーク科学 などです。3/n
2021-08-02 14:58:34(1) の理由がまず一番大きくて、カオスや自己組織化の流れをくみ、数理や物理を基礎に活動してい初期の研究者に対して、後半は色々な分野の人が「何でもかんでも複雑系」のノリで言葉(だけ)を使い始めてしまいました。4/n
2021-08-02 15:00:40自然科学から社会まですべてが複雑系みたいに大風呂敷をひろがたのがいけなかったのだと思います。結果として胡散臭い分野という雰囲気も残念ながら醸造されてしまったかと思います。5/n
2021-08-02 15:01:06一方、複雑系(と関連トピック)が立ち上がって10年ほど後に学生になった我々のような世代には、(2)の特に学問として体系化できていなかったという点も複雑系に取り組まなかった理由として重要です。6/n
2021-08-02 15:03:33複雑系に先行して発展し、後に複雑系の一部として(少なくとも一時的には)扱われたトピックとして、低次元カオス、自己組織化、分岐、同期、非平衡物理、非線形物理などがあります。これらは学生として学べる(先人の努力が情報として圧縮された)結果や教科書がある程度ありました。7/n
2021-08-02 15:07:04しかし複雑系として中心的に議論されていた高次元カオスや複雑適応系などはシミュレーションが主で理論がなく、参入するには先人が行ったシミュレーションを追体験するしかありませんでした。パラメータ空間も膨大で、興味を持った学生が独自に結果を再現をするのも簡単ではなかったと思います。8/n
2021-08-02 15:09:33さらにシミュレーションから重要な部分を切り出すところで言語化できない「カン」みたいなものは確実にあり、その研究を行ってきた実績と経験のある研究室以外で、ちゃんと研究を成立させるのが難しかったとも思います(このあたりは結構実験科学にも似ているかも)。9/n
2021-08-02 15:11:08学問とは、先人が10年かけて見出したものを、後から学ぶ学生や新規参入者は数ヶ月学ぶだけで最先端に追いつける、という情報圧縮性が重要だと思います。複雑系に関してはこれが成立しなかったと思います(なので次世代につながらなかった)。10/n
2021-08-02 15:11:51なお、情報圧縮性は学問として確立するのには重要ですが、情報圧縮性が無い(or なかった)研究自体が無意味かというとそういうことは無いと思います。複雑系の問題に全うな形で取り組んでいた研究自体は価値があるものです。11/n
2021-08-02 15:12:16複雑系の問題(1, 2)と並行して新たな分野(3)が台頭してきたので、複雑系研究室に所属していた人材はそちらに流れたと思います。また同期現象・自己組織化・非平衡物理など、一旦複雑系に取り込まれたがそれ自体で基礎を確立していたトピックは、複雑系と袂を分かち継続して発展を続けています。12/n
2021-08-02 15:14:37結局「複雑系」という言葉が大風呂敷として消費されたのが学問として一番残念なところなのですが、2000年あたりはこういう言葉作りが予算獲得のために流行っていた気がします。システム生物学も色々な分野の予算取りのキーワードとして消費されました。今だと「AI」とかもそんな感じでしょうか。13/n
2021-08-02 15:15:55結局、予算取りとして研究分野が利用され(流行っているように見えること)と、実際に分野が活気を帯びて世代を超えて研究が継続する、というのは大きく違うという当たり前のことなんだと思います。14/n
2021-08-02 15:17:23なお、分野が活気を帯びるには若い学生や研究者が参入し、新しいアイディアで研究に取り組めることが最も大事だと思います。そのために、学生が半年・1年勉強するだけで(比較的簡単に)最先端に追いつける、という状況を成立させることが分野として不可欠であり、教科書とか教育の整備も重要です。15/n
2021-08-02 15:18:58そのため学問的に重要であっても、(革新的な突破口がなく)技術的に難しくなりすぎて新しい研究をするのに何年もの勉強をする必要となる分野はどうしても衰退していきます。分子生物学勃興直前の定量生物学はまさにこのような状況で衰退したと思います。16/n
2021-08-02 15:19:24閉塞した分野の横で、技術的ブレイクスルーなどを背景に学生でも新参者でも今ならやれることがいっぱいある、という分野ができるとそちらが流行りますし、それがアカデミア全体での健全な新陳代謝だと思います。初期の分子生物学や機械学習、システム生物などもそうして萌芽し成長してきました17/n
2021-08-02 15:21:35なお、閉塞した分野が意味が無いかというとそんなことは無いです。新しい分野に若手が参入するにしても、なにかをするにはなんらか基礎が必要です。多くの場合、それらは閉塞したがその分研究の難易度は上がっている分野で鍛えられたものだったりします。18/n
2021-08-02 15:22:43また、衰退した分野は重要ではないから衰退したわけでは無いので、そこで醸造された問題を、10年、20年後に別分野などで発展した新たな技術や手法をもとに振り返ると、今の技術で解けるようになっている問題も現れたりします。19/n
2021-08-02 15:24:06個人的にはそろそろ、カオス・複雑系あたりで新しいリバイバルの流れが起きるんじゃないかな(起きてほしいな)、と思っていたりします。おしまい。20/n
2021-08-02 15:24:40