「人外」 松浦寿輝

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瀬尾多恵 @mirukikuyomu

松浦寿輝『人外』。「コトバそれじたいが意識になり意識それ自体がコトバになり」「最後の最後になって(…)ああ、踊りたいな、というため息まじりのつぶやき」が音楽となり宇宙のダンスとなりそれもほどなく…著者が時折引く「小説に必要なのは『飢えた心と想像力』」だという中上健次の断言が蘇る。 pic.twitter.com/pBvFgyfg1U

2019-04-10 22:21:17
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GMBO2008 @GMBO2008

世界のうちにあってだれかをわかりたい、だれかにわかってもらいたい、誰かとわかり合いなぐさめ合いしたしく交わりたい、そんな気持ちがまったく持てないつめたいと言えばつめたい生きものが人外だった。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-12 23:48:00
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そんな人外にひたひたと染みこんでくるさびしさとは、世界のうちにとどまりながらもたえずそのそとになかばはみ出して生きていかざるをえないものに固有のよるべなさであるようにおもわれた。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-12 23:48:00
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世界と世界ならざるものとの境界に身を置きその両方に魅了され引っ張られ、しかしどちら側にも身を落ち着けられずにいるものだけが知るせつなさでありやるせなさであるようにおもわれた。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-12 23:48:01
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だからさびしさになれてゆくとはこのさびしさからはいつになろうとどこへ行こうとけっして逃れられないとおもい知らされてゆく過程であった。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-12 23:48:03
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生きるというのは対数らせんをくだってゆくように、あるいはのぼってゆくように時間の経過を耐えることなんじゃないのかな、と言ってみた。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-12 23:52:23
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なあ、人間であることに倦んでしまった者はどうしたらいい? と男は言った。けだものたらんとするか、神たらんとするか、そのどちらかだろうな。ふたつの方途がある。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-13 00:00:23
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ところがな、第三の方途がある。わかるか? それはだな、けだものとなり、かつまた神となることでもある。そういう方途さ。神にしてけだものーーそして、哲学者とはまさにそれなんだ。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-13 00:00:23
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そんなことは知らない、人外はもういちどきっぱり言った。すべてがうつろう。そして、それがわたしたちだ。うつろいという名の者、それがわたしたち。うつろうために、ただそれだけのためにわたしたちがいる。いまこの瞬間もすべてがうつろってゆく。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-14 22:33:34
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列車は走り、稲妻がひらめき、闇が刻々その濃さを変え、死者の肉はくさってゆき、生者の肉はあたらしい細胞とともに生まれかわってゆく。それがうつろいだ。存在であり時間であり意識だ。そしてそれがわたしたちだ。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-14 22:33:34
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そのとき、エレベーター!というクルピエの叫び声がいまや大混乱におちいった広間の喧噪をつらぬいて人外の耳にとどいた。ふりかえると、人垣のあいだから、両手をうち鳴らして大笑いをしているクルピエと目が合った。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-14 22:49:17
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じぶんにつめよってわめき立てている客たちにはいっさいとりあわず、背をそらせたりからだをかがめたり、じぶんの太ももをはたいたり足を踏み鳴らしたりしながらかれは笑って、笑って、笑って、それでもおさまらない笑いで息を切らせながら、あえぎながら、とぎれとぎれに、 「人外」 松浦寿輝

2021-08-14 22:49:17
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人外にむかってあのよくひびくバスの声を押しだしているのだった。エレベーター!……エレベーターだ……地上にもどりたければ….エレベーターに乗れ……カジノを出て左……それからもういちど左……突きあたりまで行って……。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-14 22:49:18
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人外もごろんとからだをよこたえ、だんだん濃くなってゆく闇のかなたに目をこらし、あたりを見まわしながら、平面だ、やっぱり平面なんだな、とかんがえていた。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-15 21:52:56
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すべてが平面になってゆく、都市もコトバも、ニンゲンの文明それじたいも、あらがいようもなく、とかんがえ、残酷なよろこびがからだのそこからひそかにわきあがってくるのを感じた。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-15 21:52:56
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えらばれなかっものはえらばれなかったもの、捨てたものは捨てたもので、もしそっちを採っていたらという仮定は意味をなさない。えらばれなかったものの分岐点のさきにはいかなる未来もないのだから。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-15 21:59:43
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人外はひとでなしの冷酷さでそうかんがえ、この司書の女の感傷癖は彼女の命がもうすでに尽きかけていることのしるしではないかと突きはなすようにふとおもった。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-15 21:59:43
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ここからまたじふんの旅を再開する.かれのゆくえを相変わらずさがしつづけてもちろんいい。しかしそれはもはやじぶんの旅の唯一の目的ではない。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-15 22:08:58
GMBO2008 @GMBO2008

それいがいにどんな目的があるのか、いまは即座には言えないけれど、旅とはそれが旅することの目的じたいをさがす旅であってもいっこうかまわないではないか。 「人外」 松浦寿輝

2021-08-15 22:08:58
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『ディラン・トーマス あの良き夜に優しく入ってはいけない 自作の朗読』 ⇒ ameblo.jp/poe-262/entry-… #アメブロ @ameba_officialより

2021-08-15 22:40:50