ヴェルヴェット・ソニック #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンン?」タキは目をすがめた。少女?いや、どこか様子が違う。むしろそれはコトブキに……いや、コトブキとも違う佇まい。だが、オイランドロイドである事は間違いなかった。薄緑がかったブロンドのショートヘアと、黒いボディスーツ。身体つきはシャープで、しなやかだった。タキは緊張した。 0

2021-09-03 21:23:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタは……」タキは何故かその時すぐにわかった。ハッカーの直感というやつだ。彼はツバを飲んだ。その間に、彼女のほうから話しかけてきた。「タキ=サン。物理世界でも元気そうね」「アンタは!」「私は、ナンシー・リン」カウンターに腰掛け、微笑んだ。「ニンジャスレイヤー=サン、居る?」 0

2021-09-03 21:23:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いや、その……」タキが口ごもったので、ナンシーは少し察した。「いないわけか」「ああ、まあな。色々あンだよ、事情がよ。……奴は今、必要な時しか店には戻らねえ。敵にバレるからな」「敵……」「だけどよ、日が落ちてからも連絡のひとつもよこさねえんだよな。コトブキは探しに行ったぜ」 1

2021-09-03 21:29:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「成る程」ナンシーはタキが差し出したヤサシイ・ドリンクの栓を開けた。タキはファット・ジャックに怒鳴った。「おいクソ野郎!閉店だ!そのピザは持って帰って食え」「ええ?おいしいのに」「客人が来たんだよ、客人が!カエレ!」「わかったよォ」ファット・ジャックは尻を掻きながら退店した。 2

2021-09-03 21:32:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシー・リンは扉が閉まるのを確かめ、それからタキを見た。タキは少し挙動不審だった。「それで……アイツに何か用か。立て込んでて悪いンだが……」「そう。私の用事は、その "立て込んでる話" に関係があるの」そして懐からオリガミメールを取り出した。「ストラグル・オブ・カリュドーンの件」 3

2021-09-03 21:37:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ待て。アンタ、なんでその話を……」「手伝ってやってくれッて、急に呼び出されたの」「誰に」タキは訝しんだ。ナンシーはオリガミを開いた。そこには爪サイズの音声デバイスが収まっていた。そしてオリガミには毛筆で送り主の名が書かれている。「サツバツナイト」と。タキはさらに訝しむ。 4

2021-09-03 21:40:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サツバツ……ちょっと待て……あのアイツか?」「良かった。確かに面識はあるようね」「まあ、この店に来た事はねえが……だけど、話が見えねえぞ。あのおっさんがカリュドーンの……それでナンシー=サンを……?」「時間はあまり残されていないみたい。単刀直入に行きましょう。狩りは、今夜」 5

2021-09-03 21:45:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今夜?ああ、なんだ。ビビらすなよ」タキは青い顔で苦笑した。「勝負は昨晩だぜ。カタナ・オブ・リバプールの野郎と戦ってな。一日遅かったな、アンタ」「今、夜、よ」ナンシーは強調し、オリガミを畳み直し、胸元にしまった。「昨晩の狩りはニンジャスレイヤー=サンが勝った。次の狩りが、今夜」 6

2021-09-03 21:48:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「待ってくれ!」タキは身を乗り出した。「そんな無茶な話あるか。昨日の今日だと!?」「ええ、そのようね。儀式の仕組みは道すがら詰め込んで来たけど、要するに、獲物はあくまで獲物。ルールは狩人同士の為のもの。なにか神秘的な日付設定があるんでしょうけど……私達に似た力が介入したのかも」 7

2021-09-03 21:52:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オレ達……」タキは指をホームポジションにした。「ハッキングか……?」「さあね。確かめようがないけど。同業のニオイがするッて話よ」「あ、ああ、そうかもな。オレも感じるかも……」タキはしどろもどろになりながら、「だけど……儀式の件、詳しすぎねえか、アンタ。いや、オレは信じるけど」 8

2021-09-03 21:55:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「国際探偵の調査力、と言っておきましょうか」ナンシーはウインクした。「詳細をすぐに明かしてよいものかどうか、わからない。とにかく、彼からもたらされた情報によれば、狩りは今夜。狩人は『サロウ』……ニューロン攻撃のニンジャ。私とサツバツナイト=サンは、同じタイプの力をよく知ってる」9

2021-09-03 22:01:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「同じタイプ。ニューロン攻撃」タキは繰り返した。「囲まれた時に、頭をいじられそうになったッて話はしてたな。アイツの話は直感的なんだがよ……多分そいつだろう……」「そういうワケで、私はここに来た」ナンシーは髪をかきあげた。「差し迫ったニンジャスレイヤー=サンの危機に助太刀する」 10

2021-09-03 22:07:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタは……フーッ……」タキは目を閉じて深呼吸し、ナンシーをあらためて見つめた。「コトダマ空間でイメージしてたのと、だいぶ違うな、アンタ」「でしょ?」ナンシーは自分の身体を見下ろした。「気分一新、と言いたいところだけど、正直私も馴れない。私の肉体は別の場所にある」「遠隔か」 11

2021-09-03 22:15:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういうこと」「どうして名前が違うんだ、リン=サン」「この身体に私の自我が引っ張られる。混ざり合わないように、名前を切り分けたの。本来の名は、ここでは使えないわ」「まあ、なんとなくわかるよ」タキは頷いた。ナンシー・リンは手を差し出す。握手だ。「反応速度にあまり期待しないでね」12

2021-09-03 22:19:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキは握り返した。「ヤバイ級ハッカーじゃないのか?」「この身体への同期にニューロン負荷がかかってる」ナンシーは微細なモーター音を聴かせた。網膜が拡大・縮小する。「貴方が居ればなんとかなるわ、テンサイ・ハッカー=サン。ネザーキョウでやってみたいにね」「ンンン」タキは咳払いした。13

2021-09-03 22:25:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「助太刀はありがてえけど、貸し借りの話はできねえぞ」「ダークカラテエンパイアはサツバツナイト=サンや私にとっても重大な警戒対象。今回の戦いを通して、奴らに関する情報を共有させてもらう。まずは、それで充分」「……まあ、いいぜ」二人は握手した腕を二度振り、手を離した。「決まりだ」 14

2021-09-03 22:29:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはタキと共に店の奥に進んだ。隠し扉の奥のハシゴを降りながら、タキが話す。「マジでニンジャスレイヤー=サンの居場所は不明。接触を最小限にしてンのは、狩りのクソ野郎どもにここが知れるとヤバイからだ。前回の奴はウチを突き止めたが、どう考えても他の奴には教えてねえ。当然だがな」15

2021-09-03 22:35:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ハシゴを下りると、地下四階。「ウシゴームのアンタのアジトに負けてねえだろ?オレの城だ。壊されかけたンだが、全部元通りにした。オレはシンプルにする気はねえ」「なかなかバッドアスよ」ナンシーはガラクタの隙間から生えたスプリング人形を指で揺すった。タキは椅子を引いた。「ドーゾ」 16

2021-09-03 22:38:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

UNIXが明滅し、文字列が凄まじい速度で流れ落ちる。ナンシーはLAN直結。タキはサブ・キーボードを引きずり出し、コトブキへのIRC通信を試みる。「コトブキ、どこ行った?あの野郎は見つかったか?」『マダデス』と端的な文字が返る。ネオサイタマ縮小街路図を移動する光点がコトブキだ。 17

2021-09-03 22:42:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ええと、なるべく頑張って探してくれ。急いでコンタクトしてえんだ」『ハイ、そのつもりです。でも……タキ=サン、様子が違いますか?』「何が?いつものオレだ。それより、あのな……次の狩りが今夜なんだ。もう何時間もねえんだよ」『なんですって!?』『ナンデスッテ!?』の文字が光った。 18

2021-09-03 22:46:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あの野郎、どうして連絡して来ねえんだ?こういう事があッから、とにかく通信だけでもよこせッて言ってンのによ……!」『そこなのです。やはり負傷が重篤なのではないでしょうか。とても心配です……!』コトブキの周辺地域をタキが探る一方、ナンシーはその横で別のアプローチを試みていた。 19

2021-09-03 22:49:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

論理タイピングを加速しながら、ナンシーの視界はネオサイタマ市街の高所を次々にジャンプしていた。監視カメラ網を芋づる式にハックし、辿っているのだ。「カメラ?やっぱヤバイ速度だぜアンタ。メガコーポのシステムを……」タキは驚嘆した。ナンシーは首を振った。「違う。タダ乗りしてるだけ」 20

2021-09-03 22:53:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「タダ乗り?」「そう。真新しいハッキング痕跡を見つけた。鍵の壊れたドアを後から開けて、後ろを辿ってる」「無茶しないでくれよ」「南極の旧世紀プロキシを経由しているから平気よ。それにしても、信じられない論理タイピング速度……。そして、ニンジャのクセがある。只事じゃない……」 21

2021-09-03 22:56:33