ストレイトロード:ルート140(58周目)
- Rista_Bakeya
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本編
走行中の小さな異音に気づき、車を路肩に止めて調べると、交換したばかりの部品が不具合を起こしていた。「つけ方間違えたんじゃない?」いかにも興味がなさそうな意見は助手席でくつろぐ藍の声だ。実際には使い方も正しかった。仕様通りなのに相性が悪いなら、とりあえず町までの無事を祈るしかない。
2021-07-11 19:59:59古い集落同士が境界線を巡り争っていた。いがみ合いの原因は単純な陣取りではなく、外部の人間が生んでいた。「地図によって書いてあることが違うって言うの」私達が判定を任されたのは、有名な魔女なら発行元に門前払いされないからという。「誰がウソついてると思う?」藍の目は依頼者を疑っている。
2021-07-12 22:18:25「裏切り者に話すことなんかない」藍は背を向けたまま、さらに羽毛布団を被った。数時間前、彼女は嫌な記者をはぐらかして逃げるはずが、私が口裏を合わせなかったために失敗したのだ。事情を知らなかったとはいえ、もしおかしな記事を書かれでもしたら。対策すべく相手の連絡先を尋ねたが無視された。
2021-07-13 21:10:01次こそは有力な手がかりを。実家の端末で証言者候補を探す藍を、担任が訪ねてきた。「わたしだけ特別扱いして、えこひいきって言われない?」暗に帰るよう求めているが、先生には伝わらなかった。「あなただけ学びのチャンスを逃すのはもったいないじゃない」むしろ生徒達の本音こそ聞いてみたくなる。
2021-07-14 19:19:37「もしもの話よ」藍は端末をベッドの端に放り投げ、中央に寝転がった。「あなたの幼なじみがわたしの立場だったら。魔法みたいな力のことじゃなくて」厄介な大人を敵に回す事態を作ったら、と。説明しなくても解った。私は肩をすくめた。「止めたくても難しかったかと」私にそんな勇敢な友人はいない。
2021-07-15 19:29:15「あんなにキラキラした子は初めて見たんだ」車に忍び込んでいた少年は行動の動機として藍を指した。今は片想いに終わるだろう。何しろ彼女の眼中にも入っていない。だが心の震えや痛みの記憶はいずれ何かに活きる。「よくわかんない」私の言葉では難しすぎたか。うなだれる少年の背中を優しく撫でた。
2021-07-16 19:03:53怪物に荒らされ放棄された街に人がいた。草木に覆われた廃墟ばかりの場所で、彼らの小屋だけは原形を留め、畑では野菜が育っている。「本当に役人じゃないの」親を失った兄弟と、他所から流れ着いた子供達が、大人の助けを拒絶し身を寄せ合う生活。藍がいても私を警戒するあたり不信の根は深いようだ。
2021-07-17 20:42:03夜中に物音がするという廃屋を調べると、二人組の囚人が隠れていた。「仲間?」「ただの腐れ縁」彼らは別の罪で裁きを受け、別の刑罰を受けるはずが、同じ怪物の襲撃に遭って逃げてきたという。「お嬢さんはこうなるなよ。悪人との繋がりなんかさっさと切っとけ」「簡単に切れるの?」藍は首を傾げた。
2021-07-18 19:48:21静かな農村と聞いていたが、森を抜けてまず見えたものは想像と全く違った。大きな屋根は明らかに新しい。一帯の所有者が深紅の慈善家に傾倒して様々な福祉施設を造り、雇用と需要が人を集めたようだ。「ひと休みどころかすぐ逃げた方がよさそうな気がしてきた」赤いポスターを見上げた藍が声を潜めた。
2021-07-19 20:51:23仕事熱心な警官から職務質問を受けた。「雇われてる?この子に?条件は?」藍に付き添う私を怪しむ人は時折いるが、雇用契約の内容までも問題視して詰め寄る相手は初めてだ。藍の親に確認するよう求めると本当にその場で電話をかけた。疑われ慣れた藍は絵に描いたような直立不動を端末で撮影し始めた。
2021-07-20 18:51:35旅した土地の写真を子供達に見せていると、その一人が急に泣き出した。以前住んでいた場所に似た風景だと。両親を怪物に奪われたという大きな傷。安全な土地に移っても、里親との穏やかな日々より失われた幸福の方がまだ多いか。「隣に誰かいても、さびしいときはさびしいのよ」藍が子供の髪を撫でる。
2021-07-21 19:07:04車の部品が破損した。日数をかけてでも取り寄せるかを悩んでいると、隣の工場の職人が作ると言い出した。「人間が作った物を俺が作れないはずがない!」「いや普通にあるでしょ」師弟の口喧嘩が止まない。工作機械も止まらない。「息が合っていますね」「どこが?」藍には何の作業かも判らないだろう。
2021-07-22 20:25:28