がん細胞の確率論的形質遷移とマルコフモデル（がん幹細胞とは？）

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

才人E. Landerががん幹細胞についてマルコフモデルを使って検討した論文。試験管内ではがん幹細胞であろうがなかろうが培養しているうちに平衡に達し、差がなくなるのは既に複数報告がある。その理論的裏付けをしたことに意義があると思われる。http://t.co/nzRveJi

田口善弘 @Yh_Taguchi

@jyasuda1 こんな「浮世離れ」した論文がCellに載るんならちょっと方針を考え直したほうがいいかもしれません。どっちかというとこういう方が今やっていることよりよっぽど「得意」なんですよね、本当は。また今度議論しましょう。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@Yh_Taguchi 私たちがんの研究者からすると、平衡に到達する条件を分子の言葉でいかに表現できるかとか、このモデルに織り込まれていないが平衡確立に貢献している前提などに興味があります。でも培養細胞の分化の平衡状態以上にマルコフモデルが役立つ系って、手近にあるのかなあ。

田口善弘 @Yh_Taguchi

まさにそれが問題なんでしょうね。だから、まあ、こういう論文は「滅多に成功しない」。逆に言えばだからこそ、載っていて驚いた（笑）。他にネタがないなら、やっぱりと思うだけ。RT @jyasuda1: でも培養細胞の分化の平衡状態以上にマルコフモデルが役立つ系って、手近にあるのかなあ。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@Yh_Taguchi 論文にもちらっと書いてありますが、細胞間相互作用を想定しなくとも平衡に達する云々とありますから、がん細胞の特質である「自律性」がモデルの前提となっているのか、培養条件の画一性が相互作用を見えなくしているのかは実験のネタにはなると思います。

田口善弘 @Yh_Taguchi

そっちだと僕は貢献できないですね（笑）。RT @jyasuda1: 実験のネタにはなると思います。

田口善弘 @Yh_Taguchi

しかし、Cellに「Theory」なんてカテゴリーがあるのか。知らなかった。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@Yh_Taguchi 銅鉄実験ということになりますが、いろいろな細胞株でどの程度類似の解析ができるか、その結果を比較してパラメータの差が細胞の差になるのか、まだまだ面白そうなことはできると思います。もう一つの方向性はこの平衡関係を動かすにはどうするか、ですか。

田口善弘 @Yh_Taguchi

前回は６／１０みたい＞Theory in Cell誌。やっぱり、狭き門なんだな。当たり前か。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@Yh_Taguchi そろそろ本当に論文を読まないと真に面白いことは言えない感じになっています。私なりの理解などもtweetします。それらもtogetterなどでまとめてみましょう。

田口善弘 @Yh_Taguchi

@jyasuda1 実際は「実験による検証」がメインの論文ですよね。これを「Theory」の論文にカテゴライズされるのは僕にはとても違和感があります。カテゴリーなんてまあどうでもいいことなんでしょうけど。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@Yh_Taguchi まあ、前にも似たような論文はたくさんあったのですが、統計学的技術を駆使して「理論的に」解析したところにのみnew findingsがある、ということなのでしょう。細胞集団中の遺伝子発現のブレなどは先週大阪で聞いた松田先生の話ともかぶっていますし。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@Yh_Taguchi 類似の論文といえばいえるのですが、http://t.co/7jZdS1nも今回の論文と似たようなテーマを扱っています。Weinbergのこの論文は、以前日本の癌学会で話していた内容だと思う… (cont) http://t.co/dSjtPjw

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@jyasuda1 先ほどのLanderの論文では、私が類似していると指摘した論文は引用されていない。一方は幹細胞でのSca1の発現の高低であり、もう一つはもろにがん幹細胞の話なのに。よくあることですが。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

Landerの論文はシンプルだが、数学の議論が素人にはとても歯が立たない。だけれども明日の夕方くらいには久しぶりに連続ツイート出来るように頑張るつもり。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

@jyasuda1 詳細は明日に譲るが、今回の研究で最もインパクトがあるのは、培養細胞が時間経過とともに分化状態が平衡状態に達するという現象は、数学の基本的な定理である、有限状態マルコフ連鎖についてのペロン‐フロベニウスの定理で説明できることを示した点であるとし理解した。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

金曜日に予告していたように、CELL誌に掲載されたE. Landerらの論文について連続tweetします。がん細胞の多様な形質分布の平衡へ進化しうるかを予測する形質間の遷移についての定量的マルコフモデルの確立とその評価が主題です。リンクはhttp://t.co/nzRveJi

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文１）まず、抄録の抜粋。各腫瘍組織内のがん細胞は、しばしば機能的特徴の異なる形質状態に区分され、平衡状態にある。各がん組織は異なった平衡状態を示す一方、平衡に至る分子機構は不明である。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文２）培養細胞 のうち、特定の形質をもつもののみを単離しても、ある程度培養を続けると元の培養細胞と同じ状態に至る。この現象は細胞の複数の状態間で、確率論的に（ストカスティックに）遷移する際のマルコフモデルによって説明可能であることを示す。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文3）このモデルから、与えられた特定の条件においてはいかなる下集団からもある程度培養を続けると平衡状態に至ることと、乳がん幹細胞様の細胞は非幹細胞様細胞から自然発生的に発生することが予測できる。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文４）この論文の背景として、がんにおいて腫瘍細胞の播種性や薬剤抵抗性の上昇を示す幹細胞様のがん細胞が周囲の腫瘍細胞と異なる細胞として様々な腫瘍で同定されていることから、様々な状態のがん細胞が腫瘍組織の中で共存し進化すると思われる。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文５）生体内でも、試験管内培養細胞でも細胞の状態の分布（プロポーション）の平衡状態を細胞の形質と考え得る。固定された条件下では、正常細胞もがん細胞も培養されているときは、例えば幹細胞様、基底細胞様、管腔細胞様の細胞のプロポーションはそれぞれ一定である。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文６）細胞種の比率が一定になる機構として1）形質は変化せず、細胞種ごとに細胞間シグナルによって増殖効率が調節され、分布が維持される2） 各細胞の増殖率は等しいが、がん細胞は各状態の平衡状態が維持されるようなやり方で各状態間を遷移する、という2通りが考えられる。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文７）幹様細胞、基底様細胞、管腔様細胞の細胞の分離・同定はFACSを用い、ヒト乳がん原発巣2例から細胞（SUM149, SUM159）をえた。FACSで分けた後遺伝子発現を解析しGSEA解析をしたところ、各分画とも確かにその性格を反映した遺伝子発現を示した。

Ｊｕｎ　Ｙａｓｕｄａ @jyasuda1

（Lander論文８）SUM159は基底様細胞が主で97.3％、幹様細胞が1.9％、管腔様細胞が0.62％であった。一方SUM149はそれぞれ3.3％、3.9％、92.8％と管腔様細胞が主であった。←こういううまい具合に対照的な細胞系を見つけるのはすごく難しい。