【闇と光】福間健二 #k2fact309
叫んでいた。義足だった。まわる台の上でしっかり立とうとした。強くて健康な体があれば。ショパン、きみの言葉だ。投げつけられたお金。拾えなかったお金。その行方を気にしないふりができただろうか。どの死者もいまがいつなのかわからない。どの死者もそれが我慢できない。(闇と光1)#k2fact309
2021-10-11 14:48:48遠くの山のその遠さ。風が運ぶ魔物の声の粒子。近くなら、中継された物語に退屈する十二本の木。病んだ茶色と同じだけ濡れる緑と犬や馬のやさしい目。そういうもので心の落ち着く光を確保してお昼の用意だ。死者の言葉を引用しに来た人、魚の塩辛のパスタ食べたことありますか。(闇と光2)#k2fact309
2021-10-12 13:28:03となりの国の濃厚。子どものころ、いい子すぎて、その反動で複雑にした秘密の闇を、犬と飼い主の通る道をひとりでたどるように。だれでも入れる部屋。人の死をめぐってそばにいる者がためらって語らずにいることをあれこれ詮索するバカでもか。落胆した。もうすぐ三十五だった。(闇と光3)#k2fact309
2021-10-13 13:18:17奥まで鮮明に見えている風景の、閉まりきらないドアからはみだしている緑の袖。落胆するその袖口のポール・モーリアも、恋はみずいろから涙のトッカータだ。いくら注意していても水が出るということ。裸の死者と石。声が欲しい。歌う声。体も魂も入らないドアの中まで届きたい。(闇と光4)#k2fact309
2021-10-14 11:00:15葡萄パン。いつもは話しにくい人と食べた。昨夜のロッテ、佐々木朗希の左脚からの光がどこまで届くか。闇に向かうときの、いやがる部位にむしろ乗るようにしてまわりこむ角度の、伝える力を思った。伝えたいことがあったわけじゃないけど、当事者を装う甘い芸には勝ちたかった。(闇と光5)#k2fact309
2021-10-15 11:13:55何をするのでもジャマする力を自分でどう作るかだ。青い闇のレッスン。それを破ればもうジャマするものなどないというように。きのうはそこまで。きょうはもうひとつ。破って出ていくときに自分を引き裂いて残る部分をおく。押す力に連絡して、帰ってくれば笑顔で迎えてくれる。(闇と光6)#k2fact309
2021-10-16 10:13:17見たいのにまだ見ていない鳥のいる場所に入りかけてためらう。飛ぶ鳥ではなく飛ばされる自分の影に気づくと同時に闇に塗りつぶされた空を飛んでいた。思い出した。タバコを吸う。生意気な男の自信をぐらつかせる作戦を練る。勃起する。咳をする。味方がいない。地を走っていた。(闇と光7)#k2fact309
2021-10-17 09:52:59終点の先の闇。急に寒くなった。さわる。ふれる。ちがうことなのだ。分類を要求する死者のふれる手をすりぬけて盗んだ距離を翻訳する。生まれる前からの、濡れた砂。ざらざらイヤじゃない不機嫌さん、また会ったね。逃げ腰にならないように舌位をあげて歌った。最後は投げる。(闇と光8)#k2fact309
2021-10-18 13:36:21まちがっている日付。精神を壊すもの。壊して別人の裸にする一瞬の閃光だろうか。まちがって動いてきた皿になにか置けと言うなら。ある土地の、ある季節の、斜めに重ねたケースから脱落する数字と探る指など。どうでもいいとするな。最後のページで人間を殺すものに慣れるな。(闇と光9)#k2fact309
2021-10-19 12:50:22なにか言って。アーとしか言えなかった。すべて終わったあとのコスモス区。光が揺れた。アーでよかったのか。ぎりぎり、セーフ。余裕があるよりいいこともある。忘れ物をするのは生きているぼくたちだ。階段をのぼる。闇を入れた袋が振動する。同時に降りている必要があるのだ。(闇と光10)#k2fact309
2021-10-20 11:33:11忘れ物をするのは生きているぼくたちだ。 韓国のイワシの塩辛を使ったパスタ二点。 #k2fact309 pic.twitter.com/Xs6jXaphG2
2021-10-21 11:29:08