Pfizerの抗新型コロナウイルス薬について

ロックフェラー大学有糸分裂研究者ふなぶきひろのり教授による分析
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Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

Mitosis Researcher @RockefellerUniv, New York, NY. Former backstroker. Choir part: bass. Brined turkey & りゅうひ巻き係。funabikilab.com

rockefeller.edu/our-scientists…

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臨床試験で重症化防止に極めて高い効果を示したPfizerの抗新型コロナウイルス薬であるが、その開発には奥深い科学の叡智が集積された結果であることが最近Science誌で公開された論文で知ることができる。とても勉強になったので少し紹介してみる。1/ science.org/doi/10.1126/sc…

2021-11-07 06:43:44
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薬の標的はウイルスのメインプロテアーゼ(Mpro)。ウイルス増殖に必要な様々なタンパク質は、はじめ前駆体タンパク質(pp1a, pp1b)として結合された状態で作られる。それぞれ個別に機能するためには、タンパク質分解酵素であるMproが図の黒三角の部分を切断する必要がある。2/ pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33507143/ pic.twitter.com/vU7se42Kx4

2021-11-07 06:43:45
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Mproというのは、システインプロテアーゼに分類されるタンパク質分解酵素であり、システインというアミノ酸が触媒となってターゲットのタンパク質を切断する。さらに、Mproは、ターゲットのアミノ酸配列の中でグルタミンの直後を切断するという特徴をもっている。3/

2021-11-07 06:43:45
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人類が持つ遺伝子の中で、グルタミンの直後を切断するシステインプロテアーゼは知られていない。つまりMproは人類固有のプロテアーゼには無い特徴をもっているので、その特徴を狙った阻害剤を見つけ出すことが期待された。4/

2021-11-07 06:43:45
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実際、2002年のSARS流行時、PfizerはコロナウイルスSARS-CoV-1のMproへの阻害剤”1”PF-00835231を見つけていた。ところが、”1”は経口投薬した際の吸収率が極めて悪かった。5/ pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33054210/ pic.twitter.com/afUbz8ukXR

2021-11-07 06:43:46
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薬剤に水素結合供与体が多いと経口からの吸収が悪くなる傾向があることがしられていたので、水素結合供与体であるα-hydroxymethyl ketoneを、システインプロテアーゼ阻害に有効であることが知られていたニトリルとbenzothiazol-2-yl ketonesに変えた”2”と”3”を試してみた。6/ pic.twitter.com/Wy7WsBggVG

2021-11-07 06:43:47
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すると”2”は経口吸収効率は改善されたが、Mpro阻害能が激減してしまった。”3”のMpro阻害能は2”よりもさらに悪かった。”3”はMproの基質結合ポケットのグルタミン189との水素結合が”1”に比べて欠落してしまっていた。"1""3"ともインドール基がポケットからはみ出していたのも改善の余地があった。7/ pic.twitter.com/2VjTCtCCKp

2021-11-07 06:43:48
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そこで、”3”のインドール基をmethanesulfonamideに変えた”4”を合成したところ、”3”に比べてより高いMpro阻害能、培養細胞系でのウイルス増殖阻害能、ラットでの経口吸収効率がみられた。ただ、培養細胞でのウイルス増殖阻害能は”1”に比べまだ大分悪かった。8/ pic.twitter.com/ANntOmTf5E

2021-11-07 06:43:49
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“4” のmethanesulfonamideをtrifluoroacetamideに変えた”5”を試したところ、”4”に比べて劇的に培養細胞でのウイルス増殖阻害能が上昇した。経口吸収効率も極めて高かった。素人目には”5”は素晴らしい薬剤に思えるが、まだ終わらない。9/ pic.twitter.com/0PoEcfhU2L

2021-11-07 06:43:50
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“5”にあったbenzathiazol-2-yl ketoneを”2”で試したニトリル基に変えた”6”を試してみると、ニトリルは活性中心の触媒性システインと可逆性共有結合し、”5”よりも高いMpro阻害能、同等の培養細胞でのウイルス増殖阻害能や経口吸収率をしめした。 10/ pic.twitter.com/XAqlxdZN5Q

2021-11-07 06:43:51
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“5”よりも高い可溶性と化学合成のスケールアップの容易さ等から、”6”( PF-07321332)を臨床実験に使うことにし、動物実験での高い有効性も確認した。さらに様々な薬剤を肝臓で代謝するCYP3A4(シトクロムP450 3A4)によって、PF-07321332が代謝されることを明らかにした。11/

2021-11-07 06:43:51
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CYP3A4はritonavir (RTV)という薬剤によって阻害できることが知られている。PF-07321332(250 mg)服用12時間前、同時、12時間後にritonavirも服用すると、服用12時間後の血漿中PF-07321332濃度は、ウイルス増殖を効果的に抑制できる濃度より十分高かった。12/ pic.twitter.com/F4uRoS4Lx8

2021-11-07 06:43:52
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昨日(11月5日)、ファイザーがプレスリリースで高い効果を報告したPAXLOVIDは、PF-07321332とritonavirの両方が含まれている。PAXLOVIDの効果は非常に期待できるが、ritonavirはヒトのCYP3A4に効くので、副作用も知られていることには注意が必要だろう。13/ nytimes.com/2021/11/05/hea…

2021-11-07 06:43:52
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この2種類の薬を使うPAXLOVIDが、どのような値段で利用できるのかは、今後注視する必要があるだろう。メカニズム的には、ウイルス遺伝子変異を誘導するmolnupiravirよりは、変異型発生の誘導をしにくいと考えられ、不安が少ないように感じられるが、これも今後の研究が待たれる。

2021-11-07 06:43:52
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

以上、この治療薬を見つけるためのロジックに焦点をあてて紹介してみた。現代の科学では、過去の膨大な知識の積み重ねにより、目的のターゲットに特異的な薬剤をより早く作成できつつあることを実感できたし、とても勉強になった。これも論文で発表してくれたおかげである。15/

2021-11-07 06:43:53