【広島原爆回避電車】熊本電鉄モハ71の今…【買収国電】

そもそもモハ71とはどんな車両なのか？

モハ71は元々、昭和初期に現在のJR西日本 可部線を運営していた当時存在した広島電気という電力会社が、762mm軌間の非電化路線だったこの路線を電化・改軌する際に導入した、広島電気1形で、
可部線を初めて走った電車の1両である。
後に広島電気は鉄道部門を広浜鉄道という私鉄を設立して分社化し、広浜鉄道の車両となった。

そして、広浜鉄道は当時国有鉄道を運営していた鉄道省によって買収、国有化され、可部線となったのである。
当時国有鉄道は多数の私鉄を国有化していたが、その時に買収するのは鉄道施設だけでなく、そこを走っている私鉄の車両も含まれていたのである。
つまり私鉄の車両が国鉄の車両になったのだ。
そして昭和期に買収された元私鉄の電車を『買収国電』と呼んでいる。
買収国電は戦後、国鉄現役時代には私鉄出身でありながら『日本国有鉄道』のプレートを付けていた。

買収国電-Wikipedia

広浜鉄道の電車-Wikipedia

-外様国電-
買収と戦争に翻弄され、徹底的に使い倒され、そして捨てられた買収国電の悲しい歴史

国鉄分割民営化から半世紀以上経過した現在、国電という言葉は忘れられつつあるが、そもそも国鉄にとってこれら元私鉄の電車は標準からかけ離れた仕様であった。
(路線自体も国鉄の標準の1067mm軌間、直流1500V電化、カテナリー式架線などとは違う路線が多かった)
そのため外様電車扱いをされ、電化買収線区へあちこちに配転させられて早期整理の対象となった。
青梅電鉄の車両はその最も嫌われた例であり、早期に整理された。
他にも南武鉄道や鶴見臨港鉄道の車両が遠く離れた可部線や福塩線に飛ばされるなど、廃車まで出身路線で残った例は少ない。
国鉄で廃車された買収国電の多くは私鉄に譲渡された。

広島原爆を逃れた熊本電鉄モハ71の物語

国有化された可部線で使用されていた広浜鉄道1形改め国鉄モハ90形(初代の形式で二代目は称号規定改正前の101系が使用)
は、広浜鉄道時代に増備された他の形式と共に引き続き使われていたが、
1945年8月6日の広島への原爆投下で可部線は壊滅し、そのほとんどが木端微塵となった。
しかし、検査のため県外にいた2両だけは奇跡的に被害を逃れた。この中に後にモハ71となるモハ90005もいたのである。
そして奇跡的に窓ガラスが割れるだけで済んだ1両を加え、戦後は3両だけが残り、1953年に国鉄を廃車となり、
しばらく保管されたのち熊本県の熊本電鉄に譲渡された。同路線ではモハ71形となる。
国鉄時代の転属は一度もなく、最後まで可部線のヌシであった。

強力モーター車 モハ71形

モハ71形は強力な主電動機を搭載しており、小型ながら力が強かったので熊本電鉄では電気機関車のように貨車の牽引にも使われた。
廃車後もモハ71は入れ替え用に残された。

現在の痛んだ姿…

モハ71はその後、動態保存車として国鉄時代の塗装に戻されたのち、2009年に大規模整備が行われた。
しかし、その後はかなり痛んでいる。
一応現在でも動くが、それでもかなり痛々しい。

現存する買収国電はとても少ない

国鉄を廃車となった買収国電はその後、各地の私鉄に譲渡された。
その後は多くが保存されることもなく解体された。
国電の歴史を語る上では地味ながら重要な存在ではあるが、地味だったためかあまり価値を見出されることもなく消えていったのである。
なお動態で残る車両はこのモハ71ただ1両だけである。

熊本電鉄は青ガエルのクラウドファンディングを行ったこともある

熊本電鉄は元東急初代5000形の青ガエルのメンテナンスクラウドファンディングを行ったことがあり、実際に達成した。
モハ71もこのようなクラウドファンディングをしてほしいところである。