『まどかマギカ』の話

その代償の高さを際だたせるための「緩いキャラ(デザイン)」であると考えれば、実にクレバーな組み合わせだと思うのだが、どうだろうか? 小林信行 N.Kobayashi / nyaa_toraneko
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Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

『まどかマギカ』を評するに、「緩いキャラを使ってキツい内容をぶつけてきたから傑作」と言われちゃうと、「いや、その組み合わせって大昔から魔女っ子ものの王道だろ」と言いたくなるんだよね。むしろ、「緩いキャラに文字通り緩い話しか付かなくなった」のって、ごく最近だと思うけどなぁ。

2011-08-28 22:53:37
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

まあ、そう思っちゃう一番の理由は、割と直近にキャラ原案の方の『ひだまりスケッチ』があったからだと思うし、実際放送中にも『血だまりスケッチ』という評はあったけれど、作品を超えたミスリーディングというのは本来、その作品を語るには関係ない要素な訳だしね。さて?

2011-08-28 22:58:49
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

個人的には、可愛いキャラが殺伐な話をしても別にかまわないと思うし、むしろ殺伐な話ならせめて、一服の清涼剤となりうる可愛らしいキャラにやらせたいというのが、日本のコンテンツの特長だったと思うのだが。実際、士郎正宗作品とか元々そうだった訳だし。

2011-08-28 23:03:47
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

個人的に魔法少女もので一番キツかったのは、『ナースエンジェル りりかSOS』だと思う。「奇跡には代償がある」という錬金術以来の魔法モノの原則に則りつつ、ヒロインのけなげさを徹底的に描きあげ、最後に彼女が何を代償として差し出すかを物語の骨子とした。あれほどキツい物語を僕は知らない。

2011-08-28 23:18:57
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

作劇論的な立場から言うと、物語に奇跡を導入できる瞬間というのは2つあって、それは物語の冒頭と最後なんだよね。ただ冒頭に発生する奇跡は、ほとんどの観客が「設定」「世界観」として受け入れてくれるんだけど、物語の最後に起こす奇跡は、観客がそれを望むようにし向けないとご都合主義に見える。

2011-08-28 23:32:38
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

だからストーリーテリングをする人は、客が最後に奇跡が発生することを「期待する」ようにエピソードを配置する。それが最終的にドラマチックストラクチャーを構成するんだけど、これはいわば「キャラが代償を払ってる姿を観客に見せることで最後に奇跡を起こしている」とも言えるんじゃないだろうか。

2011-08-28 23:35:19
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

魔法少女モノというのはその逆で、はじめから奇跡を見せてしまう。それはなんであってもよく、リアル魔法少女ものの『クリィミーマミ』ではアイドルになることだった。それが代償を伴うものとは当然観客は思わない。そこに代償があることを忍び込ませるのが、物語を〆る際のポイントなわけだ。

2011-08-28 23:38:10
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

『クリィミーマミ』の場合には、一番大好きな男の子に自分がマミであることを語れないというのがソレだ。男の子がマミのファンになればなるほど、このヒロインとマミとの乖離が大きくなる。そこに「男の子がマミの正体を知ってしまう」というシークエンスを作る。その時、男の子はどうするのか?

2011-08-28 23:40:45
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

ちなみにこの時の代償は「男の子の記憶」だった。男の子は自分の記憶を一時預けることで、再びヒロインに魔法を与えるのだが、この記憶が段々と戻ってくることが後半の盛り上げにつながるのだ。この構成は実に見事で、TVシリーズだけでなくOVAの『ロンググッドバイ』まで繋がっている。

2011-08-28 23:43:15
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

この「奇跡の先払い/代償の後払い」という見せ方は、「小さな幸せ」を守る為に最大限の犠牲を払ってしまうヒロインを演出するには非常に効果的な見せ方なので、泣きゲーではよく使われる。古くは『Kanon』の月宮あゆがそうだし、近くでは『あの花』のめんまがそうだ。

2011-08-28 23:50:35
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

彼女らが最初に起こす奇跡は「死から復活」だ。特徴的なものとして、物語の序盤もしくは中盤ぐらいで、薄々観客にその事実がわかるようになっている。そこで観客は次のポイントとして、では「彼女らは何のために戻ってきたのか?」というところに興味を持つようになる。

2011-08-28 23:54:45
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

その理由は、「主人公=観客がすでに忘れている昔の約束」みたいに小さなものであるのが大抵なのだが、むしろそのほうが観客にとって感動的なのは、おそらくこの事を思い出させるためだけに、ヒロインが死という大きな代償を払ってまでも主人公=観客の前に復活したという事実があるからなのだろう。

2011-08-29 00:05:04
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

興味深いのは作劇上は「奇跡の先払い/代償の後払い」という構造になっているのに、設定上は逆になっていることか。この世に戻ってくるヒロインは設定上先に「死」という大きな代償を払っているように見える。

2011-08-29 00:34:51
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

興味深いのは作劇上は「奇跡の先払い/代償の後払い」という構造になっているのに、設定上は逆になっていることか。この世に戻ってくるヒロインは設定上先に「死」という大きな代償を払っているように見える。

2011-08-29 00:34:51
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

だがこれに関しても、多くの場合、「一度死んだヒロインはこの世に永遠に居続けることができない」という暗黙の縛りがあり、また観客もそのことを「自明」として引き受けている節があるので、代償を2回払いしているともとることができると思う。

2011-08-29 00:37:27
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

代償もなしに復活してしまう死者はただのゾンビであり、永遠にこの世に存在し続ける死者はバケモノである。月宮あゆやめんまが死から復活した存在であるにもかかわらず、観客にとってただの幽霊ではない「何か」なのは、そういう奇跡の為に代償を払うヒロインであるからなのだろう。

2011-08-29 00:41:21
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

『まどかマギカ』の話に戻ると、おそらくこの物語が従来の魔法少女モノと比べて「間違いなく新しい」のは、その魔法という奇跡に伴う代償を、得られる奇跡以上に高価なものに設定したことにあると思う。

2011-08-29 01:02:32
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

つまり今までの魔法少女は奇跡の代償として高くても命を奪われるぐらいだったのが、『まどかマギカ』の世界では魔法少女としての尊厳までも奪われ、やがては狩られるべき敵にまで堕とされるということだ。その敵のデザインとして犬カレーデザインが使われたのは、実に素晴らしく分かりやすかったと思う

2011-08-29 01:05:11
Nobuyuki Kobayashi @nyaa_toraneko

その代償の高さを際だたせるための「緩いキャラ(デザイン)」であると考えれば、実にクレバーな組み合わせだと思うのだが、どうだろうか?

2011-08-29 01:07:10