年末とくべつ読み切り【発狂頭巾アトミック~師走狂化スペシャル:首無し死体の謎~】
- suzumeninja
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年末とくべつ読み切り【発狂頭巾アトミック~師走狂化スペシャル:首無し死体の謎~】 (感想とかは #発狂頭巾アトミック でツイートしてもらえると拾えるので嬉しいです)
2021-12-07 21:05:32(これまでのあらすじ:原子力江戸歴XXXX年。先の原子力奉行、吉貝狂四郎は不慮の事故によって命を落とす。だが、時の平賀アトミック源内と杉田バイオ玄白の手によって体内に小型原子炉を埋め込まれて息を吹き返す。かくして、夜な夜な世が裁けぬ悪を裁く発狂頭巾アトミックとなったのだ。)
2021-12-07 21:06:01今日も今日とて平和な原子力江戸の町を歩くハチ。だが、いつもと少しだけ様子が違った。顔にひょっとこの面をかぶっているのだ。 「あ、吉貝の旦那!」 ハチは独特の歩法でゆらりゆらりと歩く吉貝を見つけて駆け寄る。 「おお、ハチ、よくわかったな」 吉貝もいつもと違い、翁の面をかぶっていた。
2021-12-07 21:09:16いつもはかぶらない面を付けているのは、なにもハチと吉貝の二人だけではない。原子力江戸の町を見渡せば、老若男女あらゆる原子力江戸っ子が思い思いの面をかぶっているのだ。 「しかし旦那、この面いつまでかぶってりゃいいんですかね」
2021-12-07 21:11:34「うむ。源内先制は核風邪が過ぎ去るまであと半月ほどといっておった。なあに、今日始まったわけでもないではないか。そろそろ面にも慣れたらどうだ」 翁の面で表情は読めないが、いつもどおりあっけらかんとした吉貝の声にハチは安心したような気が抜けたような気持ちになる。
2021-12-07 21:13:42数日前、ときの原子力奉行である平賀アトミック源内がはじき出した計算により、例年より激しい季節風が過剰なアトミック成分を原子力江戸に運んでくるということが判明した。いかに原子力江戸っ子といえど、過剰なアトミック摂取は健康被害に直結する。
2021-12-07 21:15:16そこで平賀アトミック源内は緊急事態宣言を発行し、外を出歩く全ての原子力江戸っ子に防アトミックマスクの着用を義務付けたのだ。防アトミックマスクは顔全面を覆うことになるため、粋な原子力江戸っ子たちはこぞって趣向を凝らした面を選んで身につけるようになった。
2021-12-07 21:17:40今更だけど原子力江戸っ子って 核エネルギーに適応した江戸っ子的な何か… でいいのか(ぼんやり) #発狂頭巾アトミック
2021-12-07 21:19:00「いやね、あっしは自分が面を付けるのは気にならねえんですが、まだ顔と面が一致しなくて見間違えることがありやして……」 ハチの表情はひょっとこ面で見えないが、面の下でも笑っているに違いない。 「ハチ、まだまだ人をよく見る目を鍛えなければならんぞ」 吉貝はどこか遠くを見る。
2021-12-07 21:20:19吉貝は時折、なんの前触れもなく立ち止まりどこか遠くを見ることがある。体内に埋め込まれた小型原子炉の影響か、なんらかしらの“ゆらぎ”を観測するのか、原因は定かではない。ただ、吉貝がそういった行動を取る時は、決まってよくない事件が起こるのだが……。
2021-12-07 21:22:19ぼんやりとした吉貝と、それを見上げるハチ。真とした空間を切り裂いたのは、岡っ引きの声だった。 「た、大変だ!人殺しだ!」 「人殺しだって!?旦那!すぐに行きやしょう!」 「……うむ!」 幻視から戻って来た吉貝は力強く返事をし、ハチとともに走り出した。
2021-12-07 21:24:52……吉貝たちが駆けつけたのは、町からかなり外れた雑木林の中だ。すでに何人かの同心が現場検証を行っており、岡っ引きによって人払いが行われていた。 「げーっ!こいつぁ……」 死体を見たハチは思わず叫び、さらに息を呑む。 「く、首が無え!首なしだあ!」
2021-12-07 21:27:12死体の首は見事に一刀で斬首されていた。これでは人相で身元を判断することができない。 「そうなんだよ。しかも、いくら探しても首が出てこねえってんで、ほとほと困ってんだ」 先んじて現場検証を行っていた同心も、猿の面の下で困った顔をしているように見える。
2021-12-07 21:30:07「む、この面は?」 首無し死体を眺めていた吉貝が、直ぐ側に落ちていた狐の面を指差す。 「ああ、そいつぁたぶん、斬られたやつがかぶっていた面だろう。よくある面だが、調べりゃあ身元がわかるかもしれねえな」 面が被るのは粋ではないという原子力江戸っ子の心意気により、かすかに進展が見えた。
2021-12-07 21:33:29「あ!旦那!こいつ懐に手紙がありやすぜ!」 ハチは死体の懐の手紙に気がついた。首無し死体の胴体は血に塗れており、胴体を斬られた後にわざわざ首を斬って隠したような痕跡がある。しかしとにかく、今は手紙の内容が重要だ。 「どうれ……」 吉貝は血塗れの手紙を開く。
2021-12-07 21:35:51「これはどうにも……読みにくいな……」 血塗れの手紙は大部分の文字が完全に血に塗りつぶされており、判読は困難であった。それでも吉貝は原子力江戸の町を守る同心である。むろん、他の同心も同じだ。玄人の誇りにかけてあれやこれやと意見を交わしながら、一部は判読することができた。
2021-12-07 21:38:02「要約するとこうだな。『この者、某藩の咎人であり、逃亡した某である。首を持ち帰るため、我某が手打ちにした。許せ』といったところか」 肝心の死体の名前と下手人の名前はわからなかったが、おおよその方向性は見えてきた。
2021-12-07 21:41:40吉貝は手紙と首無し死体をじっと見つめる。だが、ハチはそんなことより面の方に意識を向けていた。 「旦那、この面を平賀先生のところに持っていきましょうや。先生自慢のアトミック演算器なら、なにか分かるかもしれませんぜ」
2021-12-07 21:43:19「……うむ。それもそうだな。俺たちは面の方から調べてみる」 「おう。任せたぜ。吉貝の旦那」 他の同心たちの了承をえた吉貝は狐の面を拾い上げ、ハチと共に原子力江戸城へと向かった。
2021-12-07 21:44:58……場所は変わって原子力江戸城地下奥深くの研究室。青いの核御紋が淡く光るフスマを開けて吉貝とハチが入室する。 「ん?どうした吉貝?体内原子炉の調子でも悪くなったか?」 二人を出迎えるのは、白髪メガネのジジイ、アトミック奉行の平賀アトミック源内だ。
2021-12-07 21:46:47