ロンドン・コーリング #5
ロンドン市街、ソーホー!既に市街心臓部の一角、空の異様な色彩は外周部の比ではなく、かつての歓楽街は不気味な青紫色のネオン霧立ち込める魔界めいたストリートであった。「パンクス……デッド」「オイ……」「フォック……オフ……」拘束具つき革パンツ姿のパンクゾンビ達がヨタヨタと蠢く! 1
2021-12-28 21:18:04「ブラディ・ヘル」デッドアイズは彼らのありさまを窓越しに眺めて顔をしかめた。彼らは安全確保した廃ブティックに入り込み、傷の手当て、弾薬装填を行った。メイはUNIX端末を開き、地図データの更新と周辺の状況確認を行う。サーモグラフィめいて、徘徊ズンビーの高密度地点が赤く染まる。 2
2021-12-28 21:23:25電子戦争以後、ロンドン中心地は地域ごとに隔壁によってセグメント化され、下流市民は物理的に隔離されていたが、その様相はケイムショの破壊と支配を経て、いささか混沌を極めた。隔壁は恣意的に歪められたズンビーの城壁と化し、溢れ・流れ込んだワーキングクラス・ズンビー達が徘徊している。 3
2021-12-28 21:28:36テムズ川の対岸には忌まわしきロンドン・アイが聳え、文字通り睨みを利かせる中、上流市民は早々に田園地帯へ退避し、逃げ遅れた少数は闇に呑まれた。その後、雪崩込んで来たズンビー達によって、あらたな階級社会が形成されていった。頂点はロンドン塔のケイムショ。両性具有の古代ニンジャ。 4
2021-12-28 21:33:31第二の階級が、ケイムショに祝福を受けたパラディン達。セグメント化された街区を荘園に見立てて支配し、領民たるズンビー達を放牧する。いわば闇の貴族達だ。第三の階級とはズンビーであり、闇の力によって生ける死者となった者達、殺されてのち冒涜された者達、生前よりどうでもよかった者達だ。 5
2021-12-28 21:36:48そして最下層は無論、生者である。KOL社の無力な戦士たち、欲にかられた宝探しの愚か者、観光者、社会学者、動画配信者たち。彼らはズンビーにとって、新鮮な獲物であり、温かみをもたらす糧であり、曇った日常を潤す、動く玩具のようなものであった。 6
2021-12-28 21:39:36「大英博物館の周辺のズンビーの動きは、なんだか妙ね」メイは呟いた。「誘蛾灯に群がる虫みたいに」「奴らはゴダ・ニンジャが欲しいんだ」デッドアイズは肩越しに画面を見、語った。「ロンドン塔のケイムショにとって、大英博物館のゴダ・ニンジャは目の上のタンコブだ。あんな目と鼻の先だからな」 7
2021-12-28 21:42:46「市街の中心地にある大英博物館は、にも関わらずズンビーの汚染を免れている……名状しがたい奇妙な力によって」「つまり、その力の正体が、ゴダよ」デッドアイズは答えた。「メガコーポの連中はなかなか認めはせんが」「ゴダ・ニンジャのミイラは出土品、展示物でしょう?」「何かおかしいかね?」 8
2021-12-28 21:46:32デッドアイズは目を光らせた。「出土されしゴダ・ニンジャが滅びておらんというだけの話よ……あわれな皮クズになろうともな。本物ならば、それぐらいはできよう。なにしろゴダは神話時代のニンジャ。ケイムショがロンドンを闇に沈めたのだから、ゴダも建物ひとつ守る事ぐらいは容易かろう」 9
2021-12-28 21:50:53「そういうものかしら。でも、そう考えるのが一番シンプルかもしれないわね」メイは息を吐き、腕組みした。デッドアイズは赤いズンビー集団が大英博物館にじわじわと近づき、離れるさまを指差した。「何にせよ、我ら生者にとって、奴の存在は僥倖。ひとたび博物館に入ってしまえば、外よりは安心だ」10
2021-12-28 21:53:46ズンビー・サーモマーカーの不気味なリアルタイム遷移を映すUNIXモニタの光を受け、四人の顔が不気味に照った。「ルートは二つある」デッドアイズはパンと手を叩いた。「博物館の南側から侵入するか、北側、ロンドン大学を経由して入り込むか。ソーホーは南側経路に近いが、正直、自殺行為だ」 11
2021-12-28 21:58:02「パラディンか」アンブレラが低く言った。デッドアイズは頷く。「然り。いわば大英博物館攻略の任についた強力なズンビーニンジャが陣を敷いておる。寄せては返すズンビーの波の指導者だ。ゆえに、手薄な北側より回り込むようにして侵入するという寸法。異論は如何に?」「ないわ」「ありません」 12
2021-12-28 22:00:45「いいか、スマイター=サン、あんたの力は大事だ」デッドアイズは指差した。「ボンズのカラテはズンビーに効く。ありがたい力で、呪われた死者を溶かす事が出来るからな。銃火器やアンブレラ=サンのカラテでは、倒すほどにクズ肉が折り重なって、にっちもさっちもいかなくなる。便利なんだよ」 13
2021-12-28 22:05:52「便利……。どうも引っかかる言い方をされますが、飲み込みましょう。拙僧、鷹揚です」スマイターは立ち上がり、鎖を腕に巻き直した。メイはUNIXを畳んだ。デッドアイズはアンブレラと目配せをかわした。「では休み時間も終わりだ。再び死地に突っ込むぞ。よいな!」 14
2021-12-28 22:09:43「アバー……」「パンクス……デッド」ブティックの外ではズンビーが群れ為し、補強窓やシャッターをガタガタと揺すっていた。立て籠もった生者の気配を感じ取り、集まってきたのだ。その時シャッターが不意に引き上げられ、中からストロボライトめいた強烈な光が発せられた!「「アバーッ!?」」 15
2021-12-28 22:13:30まともに光を受けたズンビーは膝から崩れ、遠巻きの者達は恐れて後ずさった。真っ白に鎖を発光させたスマイターが中腰姿勢でキアイを込めていた。間髪入れず、アンブレラとデッドアイズを乗せた一台目のバイクが中から飛び出す!カラカサ槍突撃!「イヤーッ!」「「アバババーッ!」」 16
2021-12-28 22:17:15ズンビーを貫き、ドリフトしながら振り払い、カサを振り回して薙ぎ倒す!「来い!」タンデムしたデッドアイズが手招きすると、二台目、メイの運転するスクーターが飛び出した!過剰な数のライトを装備した改造ベスパである!「セイヤッサー!」スマイターが後ろにしがみつく!ベスパはライト照射! 17
2021-12-28 22:20:33「「アバーッ!」」パンクズンビー達が光に怯み、カラカサ突撃に打ち払われる!二台のバイクは不安定な蛇行運転の後、並走し、死者の群れを引き離して北上を開始した!「ようし!うまくいった!」デッドアイズは自画自賛した。「水も漏らさぬ突撃作戦よ!」「気は抜けませんよ!」とスマイター。 18
2021-12-28 22:24:49「然り、照らせ照らせ!ありがたいぞ!」デッドアイズは叫んだ。メイの乗るスクーターは道中、市街の骨董二輪店廃墟で調達した代物。電子戦争以前、モッズ族はかような過剰ライト積載スクーターに乗って日夜暴動を繰り返し、薬局店を襲って薬物を盗んでいたものだ!恐るべき光量の源はスマイター! 19
2021-12-28 22:28:29「セイッ!」メイの後ろ、スマイターが額の前で指を立て、キアイすると、聖なるカラテがマシンに流入し、光出力がブースト!行く手を阻むズンビー達はありがたい光に照射されて苦しみながら解けてゆく!「「アババーッ!」」「いいぞ!一気にゆけ!」デッドアイズが叫ぶ!「デカい奴には構うなよ!」20
2021-12-28 22:32:56「デカい?」メイが眉根を寄せた。その時だ。建物の向こう、巨大な影が、ゆっくりと身をもたげた。そして咆哮した。「オオーンンン……」「見るな!構うな!」デッドアイズは叫んだ。「発狂リスクが上がるだけだ!そのまま走れ!」ナムサン……捻れた棒状金属の長い手足を伸ばした異常な姿……! 21
2021-12-28 22:37:44「無論、あれはパラディンだ!名はビーンポール。だがアイサツする必要なし。下手に構えば、待つのは死のみよ!」デッドアイズは前方を指差した。「あの裏路地へ突っ込め!」アンブレラは頷き、速度を上げる!その斜め後方、メイとスマイターは聖なる光でベスパを覆い、追随する! 22
2021-12-28 22:46:03「セイッ!セイヤッサー!」スマイターはベスパに光を注ぎ、押し寄せるズンビーを打ち払った。メイは歯を食いしばった。砕けた石畳に車体が跳ねる。転倒しかかり、怯んだ時、巨大なパラディンは長い足を突き刺して建物を跨ぎ、二人に身を屈めてきた!「マブシイ、ゾ!」振り下ろす螺旋腕! 23
2021-12-28 22:51:39