「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

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GMBO2008 @GMBO2008

それでもウルリッヒ・ベックが指摘したように、予測不可能なリスク社会の到来は世界性を回復するきっかけになるだろう。ベックはカントの世界市民論に回帰しながら、次のパラドックスを強調している。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 17:52:22
GMBO2008 @GMBO2008

パラドックスになっている原則が、以下のように適用されます。諸国家は、国家の利害から、脱国家化しなくてはいけないし、超国家化しなくてはいけません。 「世界リスク社会論」 ウルリッヒ・ベック

2021-12-30 17:52:22
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つまり、グローバル化された世界において自分のナショナルな問題を解決するために、自己決定権のいくつかの部分を放棄しなくてはいけないのです。 「世界リスク社会論」 ウルリッヒ・ベック

2021-12-30 17:52:23
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余はこの精神革命を論じるにあたり、かつてカール・ヤスパースが『歴史の起源と目標』で唱えた「枢軸時代」(Axial Age)のテーマを再考した。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 18:08:25
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ヤスパースは紀元前500年を中心とする前後1世紀ほどの間に、中国の諸子百家、ギリシアのソクラテスやプラトン、インドの仏教やウパニシャッド哲学等が相次いで現れたことに注目し、この同時並行的な人類の精神的目覚めについて究明しようとした。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 18:08:25
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ヤスパースにとって、この時代を特徴づけるのは超越の発明である。余が言うように「枢軸時代のいちばん顕著な特徴は、超越世界の出現である。それは現実世界と鮮明な対比をなしている。ヤスパースはその歴史理論において「超越」という観念に中心的な位置を与えた」。 「ハロー、ユーラシア」

2021-12-30 18:08:26
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しかも、この「超越」のあり方は文明によってそれぞれに異なっている。余は枢軸時代に生じた思想のブレイクスルーの前史に注目することで、その差異を解き明かそうとした。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 18:08:27
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牟や余英時は、西洋哲学との対峙のなかで《中国哲学》を再創造した。だからこそ、余であれば枢軸時代における超越のタイプの比較が、牟であれば西洋哲学と中国哲学のあいだの主体や知の差異が、それぞれ大きな課題になったのである。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 11:56:40
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私にはこの思想の歩みは(全面的に同意できるかは別にして)切実さを伴ったものと思える。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 11:56:41
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逆に、超汀陽、強世功、蒋慶らは、中国思想のオリジナリティや絶対的優位性を堂々と主張する。彼らにとって、天や天下は主体(心)も国家も含めてすべてのものを包摂し、いかなる欠陥ももたない完全無欠のコスモロジカルなシステムである。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 11:56:41
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この超越的かつ普遍的な天は、国民国家の限界を超えた文明型国家としての《中国》とのみ一致する。超越を問う思考が主体の問題を押しのけ、中国を絶対化する政治思想へと傾いていくーー、それが天朝主義の一つの帰結なのである。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 11:56:42
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私はこの混血の歴史を「ユーラシア的」と形容しておきたい。東洋史家の岩村忍によれば、Eurasianはもともとポルトガル人の男とインド人の女の混血児を指す言葉であった。 「ハロー、ユーラシア 福嶋亮大

2021-12-30 18:16:57
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16世紀にポルトガル人がイギリス人に先立ってインドの沿岸部を占領し、現地女性と結婚して生まれた子供たちが「ユーラシアン」と呼ばれた。その意味でEuropeとAsiaを合成した概念であるユーラシアという言葉そのものに、近代の植民地主義の歴史が刻み込まれている。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 18:16:57
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ともあれ、世界との多面的な接続や歴史の再創造がなければ、辺境の小さな島は生き延びられない。台湾も香港も、対外的には国家として認識されていない。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 18:23:26
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したがって、歴史観やアイデンティティの闘争を積極的に仕掛けなければ、あっという間に存在しないことになってしまうだろう。この緊迫した状態は、東アジアの「戦後」のパラダイムが大きな節目を迎えていることを示唆している。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-30 18:23:26
GMBO2008 @GMBO2008

2014年の雨傘運動から19年の反送中運動を経て、国家安全法施行に到った香港では、確かに通常では考えられないようなスピードで「雪解け」が進展してきた。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 12:12:51
GMBO2008 @GMBO2008

香港市民はこの間に高濃度の歴史の作り手にして目撃者になったが、なぜこれほどまでに変化が激しいのかは、当事者にも社会科学者にもジャーナリストにも解明できそうにない。香港の現状を10年前に予測できた専門家は、恐らく皆無だろう。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 12:12:52
GMBO2008 @GMBO2008

かといって、中国政府がここまで急速な変化をすべて予定していたかと言えば、そうではない。変化の主役は市民でも共産党でもなく、変化そのものなのである。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 12:12:52
GMBO2008 @GMBO2008

アメリカの波止場の思索家エリック・ホッファーは半世紀以上前に、広範な社会的変化の欲求がどういうひとびとから来るかを考察し、new poorとabout-to-be richを挙げた。大衆運動はスラム街で長く沈潜している貧困層からは、かえって生まれない。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 13:27:35
GMBO2008 @GMBO2008

むしろそれまでの財産や身分を急速に失ったnew poorが、変革の動きに対していちばん敏感に反応する。その一方、長い停滞から抜け出したばかりのabout-to-be richも、目指すべき富の場所がようやく見え始めたことで、ダイナミックな変革への意志を強く持つことができる。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋

2021-12-31 13:27:35
GMBO2008 @GMBO2008

ホッファーの考えでは、社会的な不満は下降し始めた層と上昇し始めた層にこそ蓄積し、そこから変革のモチベーションが生じる。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 13:27:36
GMBO2008 @GMBO2008

かつて丸山眞男はこの議論を踏まえて、幕末明治のnew poorであった在野の「不平士族」、さらには平民でありながら財を蓄えたnew richとしての地方の豪農、この双方が「ダイナミックな中間層」となって自由民権運動を牽引したと論じた。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 13:27:36
GMBO2008 @GMBO2008

丸山によれば、彼らは社会的な流動化の最前線に立っていたからこそ、新興の政府と渡りあえるだけの知性と気力を発揮することができた。 今の香港の若者は幕末明治の不平士族と似ている。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 13:27:37
GMBO2008 @GMBO2008

がけっぷちの香港では、この「ありそうもないこと」は容赦のない圧政として現れている。仮に中国共産党が香港の実権を完全に握ることになれば、そこには中国への《協力者》と香港からドロップアウトする《亡命者》が生まれるだろうし、場合によっては異郷で思索する《哲学者》も出てくるだろう。

2021-12-31 13:36:35
GMBO2008 @GMBO2008

つまり、これまで移民や難民を受け入れ、故郷喪失にまつわる情念も蓄えてきた香港から、今度は21世紀の遺民が生まれるだろう。ただ、異郷の《哲学者》の残した「花果飄零、霊根自殖」という暗号が生き続けていることだけは確かである。 「ハロー、ユーラシア」 福嶋亮大

2021-12-31 13:36:35