ブレヒト『アンティゴネ』の邦訳について
- MasahiroKitano
- 2008
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自分自身の翻訳へのリンクを追加しました
ハッシュタグが変だったので再投稿 二年にわたって、#ブレヒト の #アンティゴネ の翻訳を行なって紀要に掲載してきたのだけれど、ようやく印刷されたので自分のGoogleドライブでも公開 訳と注1 bit.ly/3pY43zL 訳と注2 bit.ly/3w1jLOn
2022-03-12 23:51:07↓からが翻訳のためにツイートしたもの。まずは前半部分
でも今回のブレヒトに関しては、既訳は結構参考にした。私そんなにドイツ語できないし。ただし、谷川訳と岩渕訳しか見ていない。谷川訳が最初だし、岩渕訳は一番ブレヒトの専門家の訳だし。 谷川・岩渕両訳が同じ解釈をしてて、私がそれに納得できなかったところをいくつかここからのリプライであげる
2021-01-06 21:59:47まずは笑えるものから BはブレヒトIは岩渕訳、Tは谷川訳、Kは私訳。 序劇B36 (ベルリン:姉妹の朝食後) Und meine Schwester nahm das Eßgeshirr 「そしたら妹のあんたが飯盒を持ってきた」(I) 「それから妹が皿を片付けて」(K) 飯盒()
2021-01-07 12:51:22本編10-12 denn anderes andrem Bescheidet der Schlachtgeist, wenn der hart Anregend einem mit dem Rechten die Hand erschüttert. T「戦さの神は、正しい者には手をさしのべ、奮い立たせるけれど、そうでない者には別様にふるまうもの」 K「強く興奮した戦さの神が右手で激しく揺さぶるとき」
2021-01-10 23:33:09これは明らかに私が間違いに見えるのだけれど、実際のところはコロスの登場歌の「他の者ども(カパネウス以外のアルゴスの兵)は、頼りとなる助け、偉大なるアレス様がうちのめし、それぞれに違う死の定めをあたえたもうた」(138-9)のヘルダーリン訳をそのまま利用した。
2021-01-10 23:40:22なので、mit dem Rechtenは、ヘルダーリンでは、ギリシア語のδεξιόσειρος(右から⇨強力に)の翻訳。ヘルダーリンはこの言葉を右+揺り動かすの合成語と誤解したというのが通説。私はδεξιόχειροςって読んだ可能性もあると思うけれど、いずれにせよRechtはヘルダーリンでは「右」。
2021-01-10 23:49:55またhart anregendなのはアレスで、アレスに揺さぶられているのはソフォクレスとヘルダーリンではアルゴス兵で、ブレヒトではポリュネイケスとエテオクレスなので、「正しいものを奮い立たせる」は文脈と合わない。dem Rechten die Handってあるから「右手」にはしにくい。
2021-01-11 00:00:18いつも頼りになるConstantの英訳ではwith his just deserts and smashes his handsと、Rechtは(アレスの)正しい報いを示している。Malina は with his rightで曖昧。ソフォクレスのこの箇所のってのがなければ「正しき報いで手を打ち砕き」で良いと思うの。
2021-01-11 00:09:37次は簡単 イスメネの最初の台詞 Nicht ein Wort kam zu mir von Lieben mehr Nicht ein liebliches und auch kein trauriges T「親しかった人たちでさえ、もう誰も言葉なんぞかけてくれはしない」 イスメネ別にこの時点で「親しかった人たち」に嫌われている設定ではない。
2021-01-11 01:34:50K「愛しい人たちについてそれ(アンティゴネが話したこと)以上の言葉は聞いていない。」Nicht ... mehrはここは「もう~ない」ではない。広場に行ってないから「嬉しい言葉も悲しい言葉も何一つ聞いていない」とイスメネは説明している。
2021-01-11 01:40:02B80 Antigone, wilde Schande zu leiden ist bitter, T「アンティゴネ、ひどい人。辱めに耐えるのは辛いことです。」 K「アンティゴネ姉様、ひどい恥辱を耐えるのはたしかに辛いこと。」 wildeの後に句読点がない。 「たしかに」は語調で補った。 タグつけとこ。 #ブレヒト #アンティゴネ
2021-01-11 11:21:42B90-2 Zeigst du mir Schamlos die löchrige Schürze mit deines Jammers schwindendem Vorrat? I「あなたの嘆きを消してくれる穴だらけの前掛け」T「お前の嘆きを次々と掻き消してしまう穴だらけの前掛け」 エプロンが嘆きを掻き消すの?
2021-01-11 11:29:56これは、嘆きを穴だらけのエプロンのポケットに詰め込んで、どんどん溢れて減っていくのを見せつけるってことちゃうかしら。イスメネの直前の台詞はそういうことやから。 一応K「穴だらけのエプロンに悲しみをしまい込んで、減ってゆくのを恥ずかしげもなく…」Vorratは「しまい込んで」で含意。
2021-01-11 11:36:18B100-1 Laß aber mich das Mind'ste tun und Meines ehren Wo's mir geschändet. T「どんな辱めにあおうとも、私の名誉は守らせて」 I「傷つけられた私の名誉を清めさせて」 この時点で特に #アンティゴネ の名誉は傷けられていない。 Meinesは「私のものの」⇨「私の身内の」やろね。 #ブレヒト
2021-01-11 11:48:24Constantineは honour what is mine Malinaはhonor those of us who have been shamed で両者ともMeinesを名詞的に理解している。私は、「身内が名誉を汚されたとき、私は少しでもできることをしてそれを守る(だからそれを邪魔しないで)」と考えた。
2021-01-11 11:54:34つぎはTとIで解釈が違うところ。 B101-3 Ich bin überall Nicht so empfindsam, hoff ich, daß ich nicht könnt Unschönen Todes sterben. T「私はいつも、お前ほど感じ易くはない。だから醜い死にも耐えられると思うの」 I「私はどんな時でも弱くはなれないから、醜い死に様はできないわ」
2021-01-11 11:58:53ここはインターテクスチュアリティの面白いところ。S「美しく死ねないほどひどい目には合わないでしょう」の経験を意味する動詞πείσομαι(パトスの語源)をHが「見苦しい死を迎えるほどに感傷的empfindsamではない」と訳した。この語はsentimentalの訳語で、経験のあり方が感情のそれに変わった。
2021-01-11 12:03:43Bは「迎えることになるsoll」を「迎えることができないnicht könnt」に変更。「(望むらくは自分が)醜い死に様が耐えられないほど感傷的ではない」とした。そこはTが正解だと思う。Tが「お前ほど」を加えているのはよくわからない。普通にso...daßの構文だと思うのだけれど。
2021-01-11 12:12:45Constantineは例によって直訳的に正確。I am in all things Not so delicate, I hope, that I could not Die an unlovely death.
2021-01-11 12:14:13überallは「いつも」というよりもやや比喩的に「なにごとにつけ」か、あるいは方言でüberhaupt(そもそも)かしらね。
2021-01-11 12:17:13ソフォクレスではアンティゴネの「美しく死ねぬこともできないほどのひどい目には遭わないでしょう」は伏線になっていて、アンティゴネ「石打ち」の死刑は自分にとって「美しい死」に含まれていた。 クレインの物語プログラムはアンティゴネに「美しい死」を迎えさせないことである。
2021-01-11 12:24:11ちょっと序劇にもどって 19-20 Und schnitten in den Speck und aßen von dem Brot Das er gebracht für unsres Leibes Not. I 「そして(兄さんが)ベーコンを切って、パンを食べたのだとしたら。それを私たち家族にも、持ってきてくれたのだったら」 食べたのは当然姉妹で仮定でもない。
2021-01-16 17:53:01