ゲーデルと思想まわりの用語について(その2、俯瞰編)

「ゲーデルと思想まわりの用語について」を読んでその後も様々な意見が出ていたので先のものを本編としてtrickenさんのを中心に纏めてみました。誰でも編集可能ですのでご自由に編集してください。
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以下要約:「ゲーデルと思想まわりの用語について」( http://togetter.com/li/17986 )は、カナダ在住の哲学者である @t_hayashi さんが、TL上で見つけた日本の思想用語〈ゲーデル的脱構築〉に疑義を呈したところから始まる。

2010-05-04 06:42:26
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.@t_hayashi さんはその後も一貫して「ゲーデルの完全性定理および不完全性定理/デリダの脱構築」については分けて考えるべきだという姿勢を取っている。「ゲーデル的脱構築」(〈脱構築〉は前期・中期・後期によって定義が若干かわるデリダの術語である)は文脈なしでは意味が取れない。

2010-05-04 06:44:48
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当初議論になったのは、東浩紀『存在論的、郵便的――ジャック・デリダについて』p104の「ゲーデル的脱構築は完全に形式的である」の一文だったのだけれど、実はそうした語用は80年代に柄谷行人が著した『隠喩と建築』『内省と遡行』などにおけるゲーデルへの言及にまで遡れることが共有された。

2010-05-04 06:49:44
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したがって当初は「数学の公理系におけるゲーデルの証明の扱い」と「日本の思想文脈における〈ゲーデル的脱構築〉なる言葉の意味」との齟齬が問題となった。/一方で、ミステリ小説の議論へ柄谷のゲーデル理解を応用した法月綸太郎も見解を寄せている。http://bit.ly/bSbjUk

2010-05-04 06:54:20
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したがって、ゲーデル問題問題の前半は3つの論題が並走している。「〈ゲーデル的脱構築〉という語用は(比喩であることは当然として)数学のdisciplineから見て有効な比喩ではないから控えた方がよい」「現代思想なりの文脈があったはずだ」「そういえばミステリにもそんな話があったね」。

2010-05-04 06:56:30
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これに4つめの「90年代以降は日本でもゲーデルの研究が急激に進んだし、ホフスタッターの『ゲーデル・エッシャー・バッハ(GEB)』とかも流行ったし、今は『数学ガール』の最新作もいいよね」というような指摘もあるが、これは独立した単に建設的な勉学奨励の意見であり、特に問題はない。

2010-05-04 06:58:20
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さて先ほどの3つの論題のうち3つ目の「ミステリ文脈におけるゲーデル」は、法月氏のブログに尽きている。問題は前者2つ。「ゲーデル問題」問題のまとめの大半は、この2つの立場の議論が「噛み合ってない所から、噛み合うまで」の迷走に費やされており、意見交換としてはあまりうまくいっていない。

2010-05-04 07:01:09
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もちろんこの議論をソーカル事件の再反復や90年代の東浩紀批判として読むこともできるが、今回の話はもっと単純な齟齬(not対立)。それは、A.厳密に定義された〈術語〉を応用する際の手つきの問題と、B.手つきはどうあれ別の文脈に載ってしまった単語との間の関係をどう見るか、という話。

2010-05-04 07:07:04
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A.に関する限りでは、 @t_hayashi さんは非の打ち所のない見解を書いている。それは、「ゲーデル理解には数学という公理系での厳密な意味がある。それを無視して〈ゲーデル的脱構築〉と言うのは、α.ナンセンスだが β.あるいは特別な意味づけがしっかりあるのか?」というもの。

2010-05-04 07:10:16
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ここで前提として共有しておく必要があるのは、 @t_hayashi さんがカナダ在住であり、問題となっている柄谷の『隠喩と建築』や東の『郵便的』等を容易には手に取れないという事情。このためt_hayashiさんは「原本を手に取れる人で、推測βを代弁・論証してくれる人」を待った。

2010-05-04 07:12:39
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ところが、この「今自分はそういう状況ではないので、推測βを代弁してくれる国内の現代思想に詳しい人を待つ」という @t_hayashi さんの態度(アカデミックには物凄く効率的であり、社会学D1の僕にもしっくり来るのだが)を「不遜」ないし「怒っている」と取る人も出てしまった。

2010-05-04 07:15:10
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で、特に5月2日以降は、t_hayashiさんからリプライを貰った人のうち、「林さんは怒っている」と取ってしまった人が、「文脈を無視して数学の術語に拘るのは不当である」という見解を発表。ポール・グレアムの言う〈反論ヒエラルキー〉がDH3以下になってしまった事態となる。

2010-05-04 07:17:54
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反論ヒエラルキーについてはここを参照:http://d.hatena.ne.jp/thalion/20090709/p1 僕はこのグレアムのDHを好んで適用する。特に、DH4以下同士で議論の応酬が始まったら、その議論は早々に打ち切った方がよい。なお、林さんはDH6を堅持している。

2010-05-04 07:19:23
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ようするに、アカデミックには効率的なt_hayashiさんの状況的限界を踏まえた上での主張(DH6)が、ある人にとっては「原典の文脈を理解しない不遜な態度(DH2)」と誤読されてしまった結果、まとめ内の大半の林さんへの批判(現代思想擁護)がDH4以下になってしまった。

2010-05-04 07:21:09
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しかし、林さんが求めていたのは単なる擁護ではなく、あくまで「なぜゲーデルの完全性定理、不完全性定理の業績にデリダの〈脱構築〉をくっつける必要があるのか? 日本の思想(例:『存在論的、郵便的』)にそんな文脈はあったのか?)」。それに答えない再反論は何のダメージにもならなかった。

2010-05-04 07:23:48
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しかしそのうち、「林さんは怒っているわけではない」と状況が共有されてきたことで(笑)、再びその問題について論じる基盤が出来た(ここまででまとめの9割)。 @t_hayashi さんは、他の人から聴きたかった「ゲーデル理解とデリダの脱構築の接合」を予測を、自前で部分的に組み立てる。

2010-05-04 07:26:06
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もっとも、これはあくまで予測である。実際には「東浩紀は『存在論的、郵便的』の中で、〈ゲーデル的脱構築〉をどんな文脈で使ったのか?(そのレトリックの妥当性はその本および思想文脈においてどのようなかたちで確保されているのか?)」に、今原典に当れる人が応えることが望まれる。←イマココ!

2010-05-04 07:28:55
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ちなみに、@t_hayashi さんに対してその役目を負おうとしたのは @tubuyakukj さんであるが、実際のところは(原著に当る必要がないと言えるほどには)〈ゲーデル的脱構築〉という語彙についての解説を加えてくれていないので、その後の議論を推進させるには至っていない。

2010-05-04 07:31:21
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しかし、カナダ在住の t_hayashi さんに「日本語の書籍を入手してください」というのは忍びない。代理で林さんの提示する疑問にDH6の水準で答える人が居ない限りは、このまま立ち消えとなりそうな気もする。(以上、状況説明)

2010-05-04 07:33:15
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(以下、僕の見解)以上にみてきたように、この「『ゲーデル問題』問題」とTL上で約めて言われる論争は、「元の術語の厳密な解釈とその適用を前提とするコミュニティ」と、「その術語の意味が(ある面において)無視されるコミュニティ」との間の緊張関係として見るべき。

2010-05-04 07:38:36
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たとえば「精神分析」という語用などもそうなのだけれども、psychoanalysisというtermは、元の定義と使用を超えて色んな文脈に使われてきた。その意味の変遷について、フロイトの定義を言ってもしょうがない。(社会科学の「言説分析」は、こういう伝播・変遷を見る時に使います)。

2010-05-04 07:41:04
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今回のゲーデルの場合は、彼の業績が厳密な公理系に沿った論(というか「証明」)であるだけに、自然言語での思考に移植しようとするだけで「別の系(system)にむりやり乗せてしまう、ということになってしまう。つまり「ゲーデル的」と言うだけで、数学独自の系を無視することは避けられない。

2010-05-04 07:46:36
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しかし、 現代思想には現代思想なりの術語同士による系があるとすれば、(結局レトリックとしては無理やりであるとしても)その思想の系の内部では内的整合性があるのではないか、と言う話でもある。これは、人工言語X(数学)と人工言語Y(現代思想)のあいだの関係を念頭に置くとよい。

2010-05-04 07:51:36
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人工言語の系X(数学)、系Y(日本現代思想)、系Z(アカデミックな哲学)とがあるとして、人工言語系Yは、系Xや系Zにおいて(も)蓄積されている「ゲーデル」と「脱構築」とを接合して、どんな内的議論を展開したのか? それに誰か答えてくれませんか。林さんの質問はこれだと理解している。

2010-05-04 07:55:35
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まあ、「独自に人工言語系ほにゃららを作るのであれば、先行して超厳密にやってる人工言語系のterm(音韻も記述も同じだったりするもの)に一応注意を払って、その上でなんかすごく認識利得をもたらすような仕事してるのだったら文句は言わないよ」って感じですよね。現代思想への文句って。

2010-05-04 07:58:22