- motidukinoyoru
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岩田規久男 (1993). 『金融政策の経済学 : 「日銀理論」の検証』, 日本経済新聞社, 1993.8. 適宜引用しながらレビュー。 20年近く前の本を後知恵でレビューするのも少し気が引けるが、それでも反面教師的に役立つこともあるだろう。
2021-12-03 10:15:58序章、pp.3-4では、岩田は中央銀行がHPMを変化させることで、コールレートを変化させ、裁定的に短期金利を変化させることで、『短期金利は民間銀行の貸し出しや証券投資における費用の主要な部分であるので』、貸出や投資が変化してMSに影響し、いわゆる”貨幣乗数”が成り立つとしている。しかし、
2021-12-03 10:20:03そもそも市中の投資需要に大きな影響を与えるのは(短期金利ではなく)長期金利であるように思われるし、短期金利の変動がそこまで資金需要に大きな影響を与えることが出来なかったことは歴史的に確認されたところとなる。
2021-12-03 10:22:26pp.5で岩田は、HPMの伸び率を一定化すればMSの変化率は一定化出来る、日本銀行はコールレートを狭いレンジで誘導しようとするからMS伸び率が乱高下してしまうのだ、と 論じるのだが、一定のコストで適宜の流動性調達が出来ない方が明らかにおかしい話だし、一層の金融不安を招きかねない話。
2021-12-03 10:26:37pp.3では、80年代半ば〜90年代はじめのストックバブルとその崩壊を、MSの乱高下が原因と岩田は論じるが、全く因果が逆転していて、MSは資金需要変動の結果を見ているに過ぎない。(内生的貨幣供給) 適宜の(水平的な)流動性調達が出来ない制度の方が余程危険であろう。 twitter.com/motidukinoyoru…
2021-12-03 10:31:25岩田の議論で行くと、何らかのインフレが発生した場合、当然MSの需要は増加することになると思われるが、MS需要増を相殺するように金融引き締めしなければならないということになる。 多少の利上げが目論見通り引き締め出来るかどうか自体怪しいが、それを差っ引いても、市場が必要とする流動性を
2021-12-03 10:33:12制限することで、民間の金融サイクルを意図的に破綻に導くことを必然的に推奨することになり、中央銀行の施策としては根本的にありえない話。 岩田が不況期の日銀副総裁であったことは不幸中の幸いであろう。バブル期やインフレ期に副総裁であったら、金融恐慌を引き起こしていたかもしれない。
2021-12-03 10:35:27pp.6で岩田は、政策金利に応じて日銀がHPMを調節することで、バブルや不況を助長しているから、HPMをそのままにして短期金利が変動するのを受け入れて自然調節すべきとまで主張している。 変動する流動性需要への適宜の対応という、金融の根本的なシステムを否認するような話で草も生えない。
2021-12-03 10:45:14岩田はpp.8-10で繰り返し、MSの乱高下が資産価格の乱高下を齎したという因果で考えているが、勿論これは全く転倒した話。 資産価格の乱高下をもたらすような金融規制システムや金融監督の体制が問題であり、その結果としてMSの乱高下が生じたのであって、問題理解がおかしいから解決法もおかしい。
2021-12-03 10:53:17第2章 貨幣乗数の理論 pp.34-40は見飽きた又貸し(re-lending)モデルの概説。 信用創造は現金又貸しとは異なるし、そこに貨幣乗数メカニズムは存在しないということは note.com/motidukinoyoru… で解説した通り。
2021-12-03 11:22:01pp.44-47では、個人が銀行から国債等を購入する場合、銀行預金が償還されてMSが減少することを認める一方で、預金減少分だけ超過準備が生じるので、超過準備の分を埋め合わせるように貸出が増加し、結局MSは変化しないと岩田は主張している。 超過準備が勝手に解消されるわけがないのは周知の通り。
2021-12-03 11:33:25pp.59-67で岩田は長々と、HPM変化 → 短期金利変化 → 貸出変化 → MS変化によって貨幣乗数理論が成立すると論じているが、この点についてはnote.com/motidukinoyoru… の第二章で批判した。今でも岩田の議論は金融政策の通説ではあるが、実証的には疑問符がつくようになってきている。
2021-12-03 12:24:24簡潔に言えば、短期金利が低下する場合、低⾦利による利鞘圧縮がデュレーション・ミスマッチによる資産価値増強の効果を上回るなら、むしろ銀行の投融資行動は減退するし、逆に言えば、短期金利が緩徐に上昇するなら、投融資は抑制されるどころかむしろ刺激され得る。 twitter.com/motidukinoyoru…
2021-12-03 12:38:09より根本的な問題として、短期金利変化が長期金利に与える影響というのは一層複雑なのではないかというのもある。 岩田は融資のコストを短期金利+金融仲介コスト(審査費用など)のみとしているが、融資それ自体の直接的なコストは、むしろ発行する銀行負債の利払いであり、これは内生的に定まる。 pic.twitter.com/fvkqCgnpiu
2021-12-03 12:40:47第4章 七三〜七四のハイパーインフレと日銀理論 pp.80-95 では、岩田は小宮 (1976) (1988)を引用して、1973-74のインフレーションは、内生的な貨幣需要増加によるものではなく、日銀によるHPM供給が原因だと主張する。 一定コストでのHPM供給を否定するのは金融秩序への無謀な挑戦であろう。
2021-12-03 13:00:19細かい指摘点:pp.98-99では、新規の銀行貸出においては必要準備増加分の準備預金供給が必要である。実際、データでは日本の商業銀行は超過準備をほぼ持っていない(当時)、と主張しているが、因果理解が転倒していて、当時の商業銀行が超過準備をあまり持っていなかったのは、日銀が
2021-12-03 13:05:45政策金利誘導をオペで行う結果として、(超過準備があったら政策金利を下回るようにコールレートが下がってしまうので)超過準備が結果的に除去されるようにオペが執行されたからに過ぎない。したがって、当時の制度では、融資増が起きれば、一定コストで準備預金が受動的に追加供給される。
2021-12-03 13:07:16pp.108-109で岩田は再び、「景気加熱に際して日銀が受動的に日銀信用を拡大し、金融緩和を拡大したことで、インフレを促進させた」という転倒した見方を披露している。 実際には、インフレの惹起に対して日銀が適切に信用を供給しなければ、銀行間市場は大変な混乱に陥ったであろう。
2021-12-12 17:21:08もちろん、日銀が意図的に信用の受動的供給を途絶して、金融市場で不渡りを意図的に引き起こせば、不況/恐慌の発生を通じてインフレは沈静化したかもしれないが、そんなのは泥棒対策に家を爆破するような話で、全くの荒唐無稽である(それに近いことが起きたのがボルカーFRBなのだが…)。
2021-12-12 17:25:24ボルカーFRBですら、現実には政策金利を急騰させるという形を取ったのであって、決して中央銀行によるアコモデーションを放棄する(純粋なマネタリーターゲットを行う)などという愚行は取らなかった。それですら、ラディカルな利上げは金融市場を十分混乱させたのだが、岩田はそれよりも過激である。
2021-12-12 17:30:57pp.117-119で岩田は、日銀貸出を通じて日銀が金融機関を監督せずとも、HPMの供給を絞ってコール・手形市場を引き締めれば十分に貸出を抑制できると主張しており、これはちょうどレイのミンスキー本 hakusuisha.co.jp/book/b558120.h… とは逆のことを主張している。 レイの主張するように、
2021-12-12 17:46:12