ロシアによるウクライナ侵攻の国際法的取扱いについて

自分用にまとめたメモです
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Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

なぜ「ロシアもウクライナも両方悪い」という議論が適切ではないのか。それは国際社会にもルールや規範があるから。ロシアの行動は、国連憲章2条4項の国際紛争解決のための武力行使を禁ずる国際法違反。ウクライナの行動は、同51条の個別的自衛権行使に基づくもの。国連総会も日本政府も、それに賛同。

2022-03-26 20:22:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ウクライナにネオナチがいるとかゼレンスキー大統領に問題があるとか、そういったプーチンや反米親露のメディアや知識人の主張に耳を傾ける前に(基本的に武力行使禁止の免責条項にはならない)、まずは国際法上違法性の高いロシアの武力攻撃が、どういう論理で合法性の担保が可能か考えるべきでは。

2022-03-26 20:22:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

あらゆる戦争が悪であると述べることは、正しいようでありながらも、20世紀の国際法と国際的規範の歩みを全否定すること。道徳的な高みになって、「あらゆる戦争は悪であってどちらが正しいというわけではない」と論じることは、20世紀の平和への努力を蹂躙すること。

2022-03-26 20:22:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

国際法を無視した侵略的な武力攻撃、さらには無差別な一般市民の殺戮は悪であるが、そのような侵略から国民の生命を守るために自衛的措置をとる行動は、合法であり正当な行動であるということを理解してほしい。だからウクライナの行動が国際的に支持され、国際社会から支援されている。

2022-03-26 20:22:04
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

これらの前提を知らずしてか、無視してか、「ロシアもウクライナも、戦争をしているのはどちらも悪いのであって、片方を支持するべきではない」というのは、国際的には全く共感されず、単なる国際法の無知とされてしまう。

2022-03-26 20:22:04
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

もちろんより重大な問題として、常任理事国が拒否権を持ち、ロシアの妨害で国連安保理決議が採択されないこと。だからこそ、ゼレンスキー大統領は日本での演説で、国連改革の必要を解き、イギリス政府は国連安保理からのロシアの除外を求めている。現状の国際社会は完璧ではないが、法と規範も存在。

2022-03-26 20:22:04
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

とはいえ、もちろん、国際法は「白と黒」で分かれているのではなく、多くのグレーゾーンがある。また、冷戦後の30年間で、アメリカが国際法や国際的な規範を踏み躙るような行動を幾度もこない、アメリカへの不信感や、国際法の信頼性が大きく後退したのも事実だと思う。その隙間をついたのがプーチン。

2022-03-26 20:26:54
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

なので今回のロシアの行動を放置すると、国際法や国際的規範に基づいた国際秩序が瓦解すると思う。そうなれば、「法の支配」ではなくて核兵器の数によって国際紛争が解決される時代へ。アメリカ、ロシア、中国がこれまで以上優位に立ち、日本の主張は悉く無視され主権と利益が侵害されるはず。

2022-03-26 20:26:55
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

言い換えれば、アメリカもロシアも中国も自らの圧倒的な数の核戦力に基づく軍事力で自国の主権や利益を守れるが、そうでない中小国はウクライナの例のように、自国の主権や利益を守れなくなる。そうなれば、世界中が核開発競争になる。そして平和国家の日本の主権と利益は蹂躙され続けるだろう。

2022-03-26 20:31:05
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

結論。なので私は、情緒的及び感覚的に「戦争はどちらも悪い」と論じることは適切ではないと考えている。また、テレビなどのメディアに携わる方、発信する方も、そのような国際法上の武力行使の合法性をぜひ理解した上で主張してほしいと思う。言論の自由のある日本では多様な主張が可能だが。

2022-03-26 20:37:43
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

侵略行為の法的性質とその法的帰結についての備忘録。国際法上の義務の一種に「一般国際法上の強行規範に基づいて発生する義務の重大な違反」(国家責任条文40条1項)がある。義務の性質と違反の程度に特徴あり。

2022-04-01 21:56:13
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

強行規範として禁止される行為として、侵略行為、奴隷取引、人種差別、アパルトヘイト、ジェノサイド。これらはウィーン条約法条約53条との関連で。拷問禁止、国際人道法の基本原則、自決権も強行規範とされることも。網羅的ではないことに注意。

2022-04-01 21:56:44
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

これら規範の重要な法的帰結は、「いかなる国も、(この)重大な違反によりもたらされた状態を合法的なものとして承認してはなら」ないこと。その状態を維持するために支援・援助もしてはならない(国家責任条文40条2項)。国際社会全体による集団的な不承認が求められているということ。

2022-04-01 21:57:11
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

イラクによるクウェート侵攻とその後の併合に対して安保理決議662(1990年)は法的拘束力をもって「法上無効」に。南ローデシアの人種差別、南アのバンツースタン計画も、総会や安保理で集団的不承認の対象に。国際法規則はこうした経緯を経て徐々に発展してきたことに留意すべき。

2022-04-01 21:57:39
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

ロシアのウクライナ侵略によって生じるいかなる効果も国際法上無効のはず。ウクライナ領内のロシアの占領地域がウクライナ領でなくなることは、国際法の観点からはあってはならないこと。しかもロシアの侵略という違法行為は、ウクライナに対してだけでなく、国際社会全体に対して向けられたもの。

2022-04-01 21:58:46
酒井啓亘(Hironobu Sakai) @UtBeneVivas

しかしロシアとウクライナが両国間の「平和」のためにロシアの占領地がロシア領になったり、2つの「人民共和国」が独立することが認められた場合、国際社会はいかに対応するのか。侵略国が利益を得ても座視することに。ここには国家間の合意が強行規範の義務さえも実質的に効力を失わせる契機がある。

2022-04-01 21:59:49
nobu akiyama @nobu_akiyama

ロシアのウクライナ侵略の法的性質と法的帰結についてよく整理されている連ツイです。 国際秩序は、単に勢力均衡もしくは力の分布だけでできているわけではない。遵守やエンフォースメントに限界があるとしても国際法の役割は軽視できないし、また今次戦争によって意義を減じられるべきものでもない。 twitter.com/UtBeneVivas/st…

2022-04-02 14:48:31
nobu akiyama @nobu_akiyama

侵略行為は強行規範として禁止されており、この重大な違反によりもたらされた状態は、合法的なものとして承認してはならない、というのが国際法の定めるところ。とすれば、現在ウクライナとロシアの間で進められている停戦協議において、status quo anteよりもロシア側の占領地が増える、もしくは

2022-04-02 14:48:31
nobu akiyama @nobu_akiyama

ドネツクとルガンスクの人民共和国の独立が承認されることになれば、それは国際法上無効か、もしくは国際法の実質的な効力を減じせしめるものということになる。 言うまでもなく、また既述のように国際社会には法の執行や義務の履行を強制する権力がなく、権力がものをいうことは往々にしてある。

2022-04-02 14:48:32
nobu akiyama @nobu_akiyama

しかし、国際法や制度は各国がそれらを遵守することで行動の予見可能性を高め紛争を回避し、外交のコストを大幅に削減し、その結果平和と繁栄の追求を容易にする。この効果は、パワーの相互作用ほど可視化されていないが、小さなものではない。また、国際法や制度を遵守するという慣行があるがゆえに

2022-04-02 14:48:32
nobu akiyama @nobu_akiyama

中小国の権利や国益も守られる。 今回もしロシアがこの侵略行為から何か利益を得て、それを国際社会が追認することになれば、アジアやそれ以外の地域のgreedyな国家がそこから何を学ぶのかに我々は注意を払う必要があるだろう。そしてそのために国際社会が今後払い続けるプライスも考えるべきだろう。

2022-04-02 14:48:33
nobu akiyama @nobu_akiyama

だからこそロシアの不正義は許容してはならない、というのが、国際政治を考えるうえでの規範論的な見方であろう。 この規範論と現実のジレンマは、このような不正義を追及する結果といてウクライナ、ロシア双方の妥協をもたらさず戦争を長引かせウクライナ市民の犠牲を増やすことに繋がるという点だ。

2022-04-02 14:48:33
nobu akiyama @nobu_akiyama

多くの無辜の命の犠牲が国際秩序を維持するうえで必要なものなのか、国際秩序にはそれほど価値があるのか、という道義的なジレンマをどう乗り越えていくのか、考えていく必要がある。 また逆に、命こそ大事である、との主張をするのであるならば、面前の命を救うことが自己正当化に十分ではないこと

2022-04-02 14:48:33
nobu akiyama @nobu_akiyama

は自覚すべきで、そのような妥協が国際法上の不法行為によって利益を得ることを正当化することで構造的な暴力を温存し、長期的な安定を損なうリスクを負うことに、どのように対処するのかを考える必要がある。 ましてや非侵略当事国ではなく、NATOとロシアの直接交渉を慫慂するのであれば、

2022-04-02 14:48:34
nobu akiyama @nobu_akiyama

国際社会の根幹的な価値である主権の価値をも毀損することになるわけだから、充分にそのconsequenceを考えるべきであろう。

2022-04-02 14:48:34