藤子A先生は一生懸命さと裏腹な無力感で読者の心を抉るのが上手い「悪魔的な多感の心の闇を持っている」

まとめました
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SOW@ @sow_LIBRA11

作家のはしくれでございます。「戦うパン屋と機械じかけの看板娘」(HJ文庫)全10巻。「剣と魔法の税金対策」(ガガガ文庫)全6巻「機動戦士ガンダムSEED ECLIPSE(ストーリー担当)」ガンダムエースにて連載中です!

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そういや藤子A先生といえば「食ってるシーンのうまそうさ」が素晴らしい漫画家の一人なのだが、ご自身の経験もあってか、「まんが道」作中の「肝油ドロップ」や「下宿のまかないカレー」や「才野と分け合ったたいやき」とかすごい「ンマーイ」そうだったのよな。 pic.twitter.com/qjorqHaqgj

2022-04-07 15:13:06
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かと思えば、初出勤のお昼、ろくに職場に馴染めず、疎外感を味うわう満賀が、母の手作り弁当を食うシーン。一生懸命こさえてくれたのに、味が全くわからないという無力感の見せ方。 pic.twitter.com/FIJESaGJef

2022-04-07 15:15:32
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この「うまそうなメシ」を描くと同時に、「味ではなく味わえる心を失った」状態のメシの描き方が悪魔的で、それこそ「明日は日曜日」の「まともに出勤できず母の手作り弁当を公園で食う」主人公などの描写は読者の心を抉る。 pic.twitter.com/3Q106nS5Xz

2022-04-07 15:18:27
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A先生はF先生と違い、短期間だが社会人生活を送っていた。その時の経験もあってか、コンビでの担当編集との打ち合わせなどは、A先生が代表して行うことも多かったと。それゆえに、戻って「まんが道」でまたえぐるシーンが有る。

2022-04-07 15:20:31
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まだ駆け出しの二人、ちょっとずつ仕事は増えたが、生活は厳しい。そんな中、とある編集者に呼ばれて、出版社に向かう。読み切りか、連載か、仕事がもらえるかもと意気揚々と雨の中向かうのだが・・・

2022-04-07 15:21:46
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編集者は近々の二人の作品に辛辣な感想を語る。 また、どれも的確なものなので言い返せない。 うつむきただうなずくだけの満賀、だんだん苛ついてきて、「仕事じゃないのか・・・」って思い始めたところで、やっと本題に入る。

2022-04-07 15:25:46
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満賀が呼ばれた理由は、「雑誌の読者ページのカットイラスト」の依頼だった。急ぐので、いまここで描いてくれと。あてが外れてショックだっただけでなく、自分も漫画家なのに、他の人気作家のキャラを「模写して描く」という作業をやることになる。

2022-04-07 15:26:56
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人気漫画家たちはスケジュールが厳しいから、カット仕事までする余裕はない、その「代理」。 他の人でもできる仕事をやる自分の境遇の惨めさ、ひたすら無心で「イガグリくん」の模写をする満賀。そこに・・・

2022-04-07 15:27:47
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その雑誌の売れっ子漫画家が現れる。満賀と違い、他の編集者や編集長にちやほやされながら、きれいで、高そうな服を着ている。ここでポイントなのが、二人の比較に、「足元」で描くのよ。

2022-04-07 15:28:47
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先述の通り、この日は雨。傘差しで徒歩で来た満賀の足は雨と泥で汚れている。対してタクシーで来たのであろう売れっ子漫画家の足元はきれいなまま。 そう、「足元」を見ているのよ。

2022-04-07 15:30:08
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落ち込んで、うなだれて、卑屈になった者は、どうしても視線が下に行く。その「下向き」の視界の中で、否応なくさらされる、売れっ子と自分の「住む世界の違い」。 「人の作品の模写」をしている自分と、「自分の作品」で評価されているものの差を痛烈に感じさせる。

2022-04-07 15:31:33
SOW@ @sow_LIBRA11

さらにダメ押しに、上述の編集者が、「彼も漫画家なんですよ」と紹介するのよ。でもPNを聞いた上で、売れっ子漫画家は「悪いけど知らないなぁ」と言って去っていく。やや嫌味っぽくだが、それ以上ではない。 悪意なく「知らない」と言われる、それゆえの屈辱。

2022-04-07 15:33:25
SOW@ @sow_LIBRA11

もうね、人間の「うつむき加減」をガリゴリに描くわけですよ。この数シーンだけで、これですよ。 どんな悪魔的な多感な心の闇を持ち続けたらこんなことができるんだというね。

2022-04-07 15:34:55
SOW@ @sow_LIBRA11

ちなみに、この後の展開として、この編集さんは決して悪い人でなく、むしろすごいいい人で、二人の懐事情が決して温かくないと察して、「即金で入る仕事」を斡旋してくれたのね。取っ払いで原稿料をくれるの。おかげで二人は金欠から救われるのよ。

2022-04-07 15:37:08
SOW@ @sow_LIBRA11

それ以前に、この編集さんは最初の一言が「お腹へってない?社員食堂でも行こうか」って声かけてくれているのね。これ、「担当作家の生活も気にしてくれている担当編集者」という、すごいいい編集さんなんですよ。

2022-04-07 15:40:02
SOW@ @sow_LIBRA11

でも満賀は、最初それに気づかないんですよ。 これはね、漫画家にかぎらずですが、クリエイター系のフリーランスが陥りやすい、「無駄な自尊心」の現れでもあるんですよ。 お金の話ができない、プライドが邪魔して「苦しい」と言えない的な。

2022-04-07 15:41:18
SOW@ @sow_LIBRA11

「自分が、”普通の人たち”とは違う」 「だから”普通の人”が持つような悩みは恥ずかしい」的になってしまうんですよ。これはね、百害あって一理はない状態なんです。 なんでかってぇと・・・

2022-04-07 15:42:13
SOW@ @sow_LIBRA11

その、「自分のマンガ」を送り届けるのは、「普通の人たち」なんです。その目線を忘れて、独りよがりな、「どうだ」的なものは、やはり受け入れられないんですね。というところで、件の編集さんの近々の作品への辛い評価につながる。

2022-04-07 15:43:17
SOW@ @sow_LIBRA11

漫画家として、少しずつ「できる」ようになったが、プロ意識ではなくいらん自尊心を芽生えさせた二人。ゆえに、作風に「独りよがり」が混ざり始め、評価が辛いものになり、仕事が思うように入らず、財政難に陥っていた。なんのことはない、この日の屈辱は、「未熟者の屈辱」だったわけでです。

2022-04-07 15:46:55
SOW@ @sow_LIBRA11

この編集さんの優しさと思いやりに気づけたことで、満賀は、人としても漫画家としても成長し、また一歩、「道」を歩むわけですよ。で、帰宅後才野と話しながら、「いつか売れっ子になったら、どれだけ依頼が来ても、あの人を最優先しような!」と誓い合う。

2022-04-07 15:48:16
SOW@ @sow_LIBRA11

で、その後に「それはいつの話になるのでしょーねw」と笑い合うわけですが、読者は二人が、未来の「藤子不二雄」なのを知っているわけですよ。 そして「まんが道」は、現在の「藤子不二雄」が描いている。すなわち、

2022-04-07 15:49:17
SOW@ @sow_LIBRA11

「今読んでいるマンガの内容が、現在につながり、僕らが今まで読んだ藤子不二雄作品につながっている」ことを否応なく実感する。 「楽屋ネタ」とかそういう意味ではない、ほんとうの意味での「メタフィクション」演出なわけですわ。

2022-04-07 15:51:34
SOW@ @sow_LIBRA11

とまぁ、長々述べましたが、なにが言いたいかというと、A先生はスゲェパない人だった、ということです。

2022-04-07 15:53:50
リンク Wikipedia まんが道 『まんが道』(まんがみち)は、藤子不二雄の自伝的漫画作品、及びそれを原作としたドラマ作品。作者は藤子不二雄Ⓐ。漫画家を目指す2人の少年の成長を描いた長編青春漫画である。続編的作品である『愛…しりそめし頃に…』を含めると、藤子不二雄によるシリーズとしては最長連載作品で、シリーズの連載は43年間の長期にわたり続いたが、2013年に完結した。 1970年(昭和45年)から1972年(昭和47年)まで、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)に連載されたマンガ入門講座「チャンピオンマンガ科」4ページ分のうち2ページ分 7 users