とある学者の「人種観変遷」

オッカム @oxomckoe

人種というものは本質的なものではないことはアメリカ研究者である僕は十分承知しているという前提で。僕が初めて白人を見たのは大学に入ってから。僕の公式記憶ではそうなっているが、厳密には子供の頃、無造作に１ヶ月ほど白人と接触をもったことがある。小学校低学年の頃。まだ人間になる少し前。

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子供というのはトボトボ歩く。今と違って子供は死ぬほどいたから外で放って置かれる。歩いていると、向こうから見たこともない風態の女の人が近づいてきた。陶器のように白い肌、緑色の目、金色の毛髪。年齢は記憶では20代前半。日本人に見たこともない優しい微笑み。

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彼女は流暢な日本語で「切手をあげるからついておいで、神様の話をしましょう」という趣旨のことを言った記憶。呆然とついて行って、小さな家の二階の部屋に通された。他にも日本人の子供たちが10人くらいいた。「日曜学校」だと聞いた。そこで神様の話を聞くと切手がもらえて短時間で返される。

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十字架のイエスの絵（毒々しい色だった）を見せながら、神様の話をして、最後に歌を日本語で歌って、それを覚えさせられた。「シュー、イエスーヲー、ターターエーヨー、カーミーハー、アイナーリー」。伝道者グループだったのですね。どの宗派かは知らないがカナダ人だという記憶がある。

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それから僕はいつも神に監視されているようで怖くなって、寝る前に赦しを請うた。地獄の様子も絵で見せられていたから。でも何故か知らないが毎週通った。切手には興味はなかった。陶器のような白い肌、緑色の目、金色の毛髪、豊かな表情を見るためだった。

オッカム @oxomckoe

その女の人の父親もある日、姿を現した。当時は語彙がなかったので記憶から再現すると、堂々たる引き締まった体躯、知性と慈愛に満ちた見たこともないハンサムな男性。小汚いおっさんしか見たことがない僕にはまるで天使のように見えた。これが僕の白人とのファーストコンタクト。

オッカム @oxomckoe

子供の心は流動する砂金のようなもの。ある日、何の心の通用も感じず、「日曜学校」にはそれきり行かなくなった。飽きたのかもしれないし、白人の容姿に慣れて気が済んだからかもしれないが、僕のその後には何の影響も与えなかった。だから「公式記憶」とはちょっと違う。やはり大学に入ってから。

オッカム @oxomckoe

1971年生まれの少年時代は日本は空前の好景気。冷戦下の衛星国には国際政治などまるで無縁で、本当は海のすぐ向かいにいたロシア人は見たことがない。何でもロシア軍が攻めてきたら稚内人は10分でみんな死ぬとか聞いたことがあったが何せ「いない」連中は怖くなかった。本当は目隠しされていたのだが。

オッカム @oxomckoe

空前の好景気の時、テレビで見ていた外国人は8割がアメリカ人だった。その時の僕の目には白人というのは実にどん臭い連中だと思っていた。手先は不器用で、聞くところでは九九もできない連中らしい。戦争体験のない土地だったのでなぜあんなトロい連中に負けたんだろうと思っていた。

オッカム @oxomckoe

大学生になるバブルが弾け、冷戦が終わった時、見たこともないアメリカ人たちが日本を締め上げてきた。日本車をハンマーで叩いていたアホっぽい連中とは明らかに違う。もう白人とかそういう問題ではなかった。冷戦を戦ってた一流の連中が民間に降りてきた。インターネットという武器を携えて。

オッカム @oxomckoe

すぐに分かった。そうか「ユンケル飲んで24時間働いていたジャパニーズ・ビジネスマン」というのは、アメリカ人の二流、三流の人間と戦っていたのだと。旧帝国時代なら陸士・海兵に行ってた人々が、負けるはずのない相手だったのだ。

オッカム @oxomckoe

子供の頃の異人さん認識が、急速に頭脳の発達と学問で妥当なラインに収まっていった。公平に見て、日本人は偉大だと思う。金融革命やIT革命などのルール変更にも予想以上に盛り返した。正直言って、日本の現在の苦境は、相手の強さではなく日本政府の愚行のせいだと思っている。

オッカム @oxomckoe

ただ幸にして、日本はまだ大国である。一国だけで比べればヨーロッパのどこにも国力では引けを取らないだろう。あえて冷酷なことを言うと、現今の国際情勢から多くを学ばなければならないかと思う。その上での判断が正しいものであることを祈る。