国際社会における「正義」って、何?・・・細谷さんの連続ツイートまとめ

4
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

はたして国際社会に正義はあるのか?これは国際政治学における古典的な問いです。英国の国際政治学者へドリー・ブルは、各国により正義が異なることを強調する立場を「プルラリスト」、そして国際社会でも一定程度共有すべき価値を強調する立場を「ソリダリスト」と呼びました。

2022-04-16 19:38:28
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

20世紀の国際社会は、1928年の不戦条約や、1945年の国連憲章、そして国際人道法など、国際社会で共有するべき価値や正義を強化する方向で動いてきました。例えば、「政策の延長としての戦争」を禁止する戦争違法化(自衛と集団安保を除いて)などは、国際社会で広く共有される「正義」となりました。

2022-04-16 19:38:28
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ですので、国際社会で、共有すべき価値や正義が一切ないわけではないが、全てが共有されているわけではない。その意味で、solidarityとpluralismとの双方が存在する。時代によって、それが破壊される時代と、それが強化される時代がある。今はそれが破壊されている時代です。

2022-04-16 19:38:29
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

とりわけ国際社会において守るべき最も重要な規範である、戦争の違法化が、根本から破壊される可能性がある。それは、国際法上の合法性を担保する努力をほとんどしていないロシアのウクライナ侵略によって引き起こされています。

2022-04-16 19:38:29
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

もちろん冷戦後の米国によるコソボ戦争やアフガニスタン戦争、イラク戦争も、国際法上の合法性に疑義があるものでした。ただし、コソボ戦争は国際人道法上の要請、アフガニスタン戦争は個別的自衛権の拡大解釈、イラク戦争は国連安保理のロシアを含めたいくつかの決議を根拠にし、評価は分かれます。

2022-04-16 19:38:30
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ともあれ、そのような国際社会でまもるべき根幹の価値があり、共有された一定の正義がある。そのような価値に疑問を抱くことは良いが、それをこのタイミングで、ロシアが最も根幹となる国際社会の規範や正義を損なっている中で、そこにも一定の「正義」があることを考えるべきというのは、問題がある。

2022-04-16 19:38:30
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

なぜならばそのような疑念を広げれば、当然ながら秩序が崩れていくからです。秩序なんてなくて良いという立場に立つならば結構ですが、そもそも河瀬監督は「戦争は良くない」という共有された正義に基づいて議論を組み立てているのではないでしょうか。懐疑主義が好ましいのであればそれも疑うべき。

2022-04-16 19:38:31
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

すなわち憲法9条に基づく平和主義を否定することにも、日本が軍国主義に進むことも、核兵器を開発・保有することも、国連を脱退することも、憲法で保障された人権や法の支配を否定することも、独裁体制へと転換することも、男女差別を強化することも、従来の正義を否定することにも、価値があるはず。

2022-04-16 19:38:31
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

それで良いのですか?「ロシアを悪」であること疑っても良いけれども、憲法9条を否定することや、平和主義を否定することや人権や男女平等を否定することを「正義」と掲げることも必要だという意図?「憲法9条改正を悪とすることは簡単」だけれども、自分の頭で考えて、それを否定するのも必要?

2022-04-16 19:38:31
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ある正義については疑う必要があるけれども、ある正義は疑ってはいけないというのは、ダブルスタンダートであり、正義論としては十分ではない。それは特定の正義を絶対視し、それ以外の正義を相対視しようとする都合主義でしかない。

2022-04-16 19:38:32
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

私の主張は単純です。ある特定の社会の正義は、秩序を維持するために共有するべきだが、それ以外について多様な考えを持つべき。国際社会において、「戦争の違法化」という共有され規範を擁護すべき。それに対して、核兵器を持つ大国は小国を侵略する権利があると正当化する正義を擁護してはいけない。

2022-04-16 19:38:32
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

だから、「あらゆるものを疑ってかかるべき」という、大学生に必要な懐疑主義、相対主義に一定の理解と共感を示しますが、その例示とロシアとウクライナの関係、現在のウクライナ戦争を用いたことは、国際社会の平和と安定の根幹に関わる問題なので、注意が必要。

2022-04-16 19:38:33
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

それはこれまでの国際政治学者としての仕事の根幹に関わるからです。詳しくは拙著『国際秩序』で冷戦後の「ソリダリズム」と「プルラリズム」の動きとして論じているので、より詳しく知りたいという方でお読みになっていない方は、ご覧頂けると幸いです。このツイートだけではうまく伝わらないので。

2022-04-16 19:38:33