Rachel Pawlingさんによる、モスクワ最期の姿の分析(翻訳&若干の解説)

Rachel Pawlingさんはユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの工学部機械工学科で船舶設計の講師をされてます。
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ながいのよみたくない人向け要約

ヤバいって言われてた場所(甲板上のでかい対艦ミサイルや素通しの対空ミサイルVLS)はとりあえずこの時点では大丈夫だったっぽい。
・救命ボートの類が無くなってるから、結構大勢が救助されてるはず。
ミサイルが命中したのは一番激しく壊れてる前方の上部構造物。それらを貫通して艦底の機関室あたりまで被害が及んでるんじゃないかな。
御大層な防空コンプレックスだけど、多分動かしてなかったんじゃないかなあ。ミサイルを迎撃するのにミサイルの方に向けなきゃならない装置が基本位置から動いてない。
・ミサイルで狙うための装置が動いてないのは、ドローンに気を取られてたからかもしれない。
ロシアのダメコン、やっぱりダメぽい。
・まあ、ミサイルの当たりどころが悪くて、ダメージコントロール班を指揮すべき人間も設備もやられちゃった可能性もあるけど。

より理解を深めるために

全体像をある程度理解しないと分かりづらいマニアックなお話なので参考URLを貼っておきます。

スラヴァ級の装備について
軍事とIT 第449回 沈没したロシア海軍スラバ型巡洋艦「モスクワ」の電測兵装

スラヴァ級の装備の配置について
以下に引用したツイートの三枚目の画像が大変見やすいです。

オミーズの辞典 @ioujimma1945

スラヴァ級ミサイル巡洋艦(その2) 本艦はキーロフ級ミサイル巡洋艦と共に敵空母機動部隊に対して打撃を与えることを考慮されているため、強力な防空力と打撃力を持っている。また、通信能力は旗艦として活躍できる高い許容性と統率力を誇る。 pic.twitter.com/osvhNM3O7a

2016-04-27 19:43:30
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前置きが長くなりましたが、ここからが本編のまとめです。

Rachel Pawlingさんによる分析

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

Sometimes I design ships. Most times I design how to design ships. Tweets not representative of employer or client policy. She/Her/Hers. @R_P_one@techhub.social

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

OK, first thoughts. I see four pairs SS-N-12 launchers seemingly intact. Major damage seems to be in way of the midships deckhouse with AK-630 CIWS. That's a fair amount of cookoff if the ammo catches. The black patches seem to be smoke from shattered windows. 1/n

2022-04-18 08:07:08

OK、最初の感想です。4組のSS-N-12のランチャー※1は一見無傷のように見えます。AK-630 CIWS※2のある船体中央の上部構造物に大きな被害が出ているようです。弾薬が爆発すれば、相当な量になる。黒い斑点は、粉砕された舷窓からの煙のようです。

訳注:
※1SS-N-12 艦体の前半部分に装備された大型の対艦ミサイル。甲板に置かれた大型のミサイルはスラヴァ級の防御における最大の弱点として考えられてきた。
※2AK-630 CIWS 30mm口径の機関砲を備えたCIWS(近接防御火器)。西側のそれと異なり爆発性の弾頭を用いている。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

Discolouration on the hull at the waterline may be; side shell blown out by internal explosion; the hole where the missile went in; paint peeling due to the heat of the fire. I don't know what delay Neptune's fuze has, so it could have exploded deep in the ship. 2/n

2022-04-18 08:10:32

船体の喫水線上に見られる変色は、内部爆発で吹き飛んだ側甲板、ミサイルが入った穴、火災の熱で剥がれた塗装などが考えられます。ネプチューンの信管の遅延時間が分からないので、船体奥深くで爆発した可能性もあります。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

Liferafts and ships' boats seem to have been launched - note the rather distinctive boat crane is deployed. So a large proportion of the crew may have gotten off. However it is clear smoke has spread throughout the after 1/2 of the ship. And that stuff is nasty. 3/n

2022-04-18 08:12:05

救命筏や搭載艇は発進しているようです。かなり特徴的なボートクレーンが展開してる点に注目。したがって、乗組員の大多数は脱出したと思われます。しかし、艦の後ろ半分にまで煙が広がっているのは明らかです。これはかなり危険な状況です。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

The engagement radars for SA-N-4 and SA-N-6 both appear to be stowed. Given that the fire monitors seem to have been abandoned running I think it unlikely the radar were carefully stowed after the hit: This would lend credence to the story the crew were distracted by a UAV 4/n

2022-04-18 08:15:37

SA-N-4※1とSA-N-6※2の火器管制レーダー※3はどちらも収納されているように見えます。放水銃の稼働が放棄されているようにみえることから、レーダーが被弾後に慎重に収納されたとは考えにくいでしょう。このことは、乗組員がUAVに気を取られていたという説の信憑性を高めます。

訳注:
※1 SA-N-4 
4K33 オサーM」個艦防空ミサイル。他の艦を守るほどの射程はない、自艦を防御するための対空ミサイル。
モスクワではヘリパッドのすぐそばの円筒状のものが円形の弾薬庫で、使用時にはその中心から旋回式の連装発射機がせり上がってくる。

※2 SA-N-6 
S-300F フォールト」艦隊防空ミサイル。100km以上の射程を持ち、艦隊すべてを防御できる対空ミサイル。対艦ミサイルの射程内に踏み込んだのはこのミサイルで沿岸部にエアカバーを提供しようとしていたという説もある。(射程の長い巡航ミサイル撃つならこんなに接近する必要はない)
モスクワでは前部構造物と後部構造物の平坦な部分に発射機が垂直に埋め込まれている。

※3 SA-N-4SA-N-6の火器管制レーダー
上で引用したツイートの三枚目の画像を参照。ヘリパッド直前の構造物上部の大きなレーダードームがS-300Fの火器管制レーダー3R41、そこから一段下がった位置に4K33MPZ-301が装備されている。
これらのレーダーは、発射した対空ミサイルが命中するまで、目標に向けて志向し続けなければならない。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

The UAV would be an easy target so they may have been watching to see what it did. The distraction here is conceptual - it's not that they are looking the wrong way, it's that they are focussed on the wrong *type* of threat. This has happened to others before. 5/n

2022-04-18 08:16:55

UAV脅威度の低いターゲット※なので、何をしようとしていたのかその動きを観察していたのかもしれません。ここでの注意散漫は概念的なものです。間違った「方向」を見ているのではなく、間違った「タイプ」の脅威に集中しているのです。このようなことは、過去に他の軍隊でも起こりました。

訳注:
バイラクタルTB2のような大きなドローン≒UAVには爆弾やミサイルを搭載する能力を持つものもあるが、搭載された武装は射程も短く威力も低いため、襲撃する素振りを見せた時点で射程の長いS300Fを使えば簡単に撃墜可能なことを指すと思われる。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

Labelled cutaway of Project 1164 here. Suspect point of impact was in way of the forward gas turbine room. Either in the hull or perhaps the superstructure, straight into the CIWS. AK-630 FCR Bass Tilt has a reversionary surveillance mode IIRC but I doubt it was in use. 10(?)/n pic.twitter.com/c0yd1IhgEr

2022-04-18 08:20:58
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これはプロジェクト1164(スラヴァ級の計画番号)の説明付き断面図です。(ネプチューンミサイルは)AK-630 CIWSの射界にまっすぐ突っ込んでいき、船体、あるいは上部構造物を貫通し、前部ガスタービン室に命中したと思われます。
AK-630の火器管制レーダー、バス・ティルトには私の記憶が確かならば復帰監視モード(?)があったはずですが、使用されていたとは思いません。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

Another image here. Note the "knuckle" running the length of the hull. It looks to be still nearly horizontal, so if there is a trim angle, it is small. Flooding (at the point of this photo) may have been confined to amidships, but submergence of the deck aft is imminent 7/n pic.twitter.com/KIaLpLIF8M

2022-04-18 08:25:03
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もう一枚の画像はこちら。船体の長さ方向にある「ナックル」に注目してください。まだほぼ水平に見えるので、トリム角(艦首、艦尾方向の傾き)があったとしても、それは小さいものです。浸水は(この写真の時点では)船体中央部にとどまっているようですが、船尾甲板の水没は間近です。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

What's surprising is how far the smoke has spread. Whilst he seems to have been largely abandoned at this point, the bulk of the smoke is coming from amidships but again we see soot on the hull. This implies a rapid spread of smoke from fires subsequently extinguished 8/n

2022-04-18 08:28:37

驚くべきは煙がこれほど広く広がっているということです。この時点で艦はほとんど放棄されているようですが、煙の大部分は船体中央から回ってきていますが、船体にも煤が見られます。これは、消火された火災からの煙が急速に広がったことを意味します。

Dr Rachel Pawling 🌈🏳️‍⚧️ @R_P_one

This raises questions about what damage control state the ship was in - I suspect low, as others have pointed out there was not much expectation of attack and WTDs are a pain to constantly operate. Smoke boundaries do not appear to have worked. 9/n

2022-04-18 08:30:00

このことは、艦がどのようなダメージコントロール体制にあったのかについての疑問を提起します。
私は、モスクワのダメージコントロール体制は低いものであったのではないかと疑っています。
他の人が指摘しているように、攻撃されることをあまり予測していなかったし、水密扉を常に開け締めするのは面倒だからです。防煙機能もうまく働いていないようです。