【青空よりも】福間健二 #k2fact327
夜の、ぼくも含めた、汚れのこびりついた面を、どうしろってことだったか。引っかく爪のある現実は。あるいは愛は。ずっと聞こえている悲鳴のほかに、内角の熱が隙間をひろげて、遅いスタートの朝、ぼくは左足をかばっている。窓の、複数の山。それぞれに隠れているものが。(青空よりも1)#k2fact327
2022-04-10 16:02:05監視する目、天井のクロスの剝がれたところになんかないし、たぶんもうどこにもない。服を着る。ごはんを食べる。いちいち怖がる必要はなく、不安な左足の物語は最後の巻に入った。服従訓練と哀愁を脱げないおじさんも山に隠れ、片付けそこなった棒はつめたい光のなかに。(青空よりも2)#k2fact327
2022-04-11 11:53:22砂の道を往復して仮想物質を思った。その運命、なにか売りたいというのではないが、低い姿勢で。そのまま音楽も聴く。終わりそうになってからが長い曲。だれか出たがっている。学びたいのだ。今週、二人目。彼のためにドアをあけるのは、靴をきれいにした十七歳のぼくだ。(青空よりも3)#k2fact327
2022-04-12 14:01:07さびしさとは別の感情。灰色に、部分が閉じられても。思い出せない行先をなんとか思い出そうとして。ミラーの前で立ちどまる。なんだか、よくなったね。うなずいていい。何がどうって、さっきからとなりには動物の言葉がわかる人。彼のための変身の準備完了、次男のぼくだ。(青空よりも4)#k2fact327
2022-04-13 17:33:25やさしくされるのがうれしい。だれのなかにもそういう犬がいるだろうが、それは眠らせて、いい子だったとみんなが言う兄のことを想像した。見たことのない動物。芸という言葉を認めたくない時期。やっちゃんの送ってくれるおいしいアスパラガスも食べなくてはならないし。(青空よりも5)#k2fact327
2022-04-14 12:25:16思いつめるかわりに動いた。椅子と机を片付けてあけたスペース。やることはさまざま。吠える。嗅覚をよくする。算数は放棄。小走りして明るさの変化に順応するまでの十七歳。でも、迷うのはこのあと。遠くでなにか光っている。それを意識しながらすぐには目ざさない。(青空よりも6)#k2fact327
2022-04-15 15:55:51よろよろしながら、あきらめないおじさん。困っている人と動物への慈悲深さ、割れ目になにか見つける力、そして何も考えないでベンチに何時間もいる才能。学びたいけど、次は肘と手首だ。お湯であたためる。週末、うまくいったらブエノスアイレス式に冷えた白ワインかな。(青空よりも7)#k2fact327
2022-04-16 10:59:50雇い主がだれなのかよくわからない、何十年もの雑用係。なんでもやったね。盗んだ記号を貼りあわせた仮面で。だが、自分の顔を描いている。世界を描くために広げた紙には。ネコ科のような爪を隠したその静かな主張がわかったら上出来だ。十七歳のきみ、殺人鬼にはならない。(青空よりも8)#k2fact327
2022-04-17 10:46:07としても、漂流する日々。消えた人たち。いくとおりもの不義理。居眠りから覚めるたびに小型移動式クレーンの運転講習会。先生は毎回同じおじさん、ほとんどすべてに、とくに新しいものに「こりゃダメだ、ありゃダメだ」。三十七歳になったぼくには「まだこれからだよ」。(青空よりも9)#k2fact327
2022-04-18 18:47:43クレーン使わないことが多いけど、その操作のための信仰と体の使い方。数えきれないほどピアノを運び、まだ死にたくないってこと。プラス、二〇二二年の春の川。どんな動物を投げ込めと言うのか。悩んでいるのに青空になった。好きな人のそばにいる。白ワインが冷えている。(青空よりも10)#k2fact327
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