「30年以上漫画編集者をしていて、村生さんほど担当編集に『愛された』漫画家はいない」村生ミオ先生の担当編集者が思い出を語る

朝日新聞マンガ取材班 @asahi_comic

「胸騒ぎの放課後」「微熱　MY　LOVE」などの作品で知られる漫画家の村生ミオさんが亡くなりました。69歳でした。 謹んでお悔やみ申し上げます。 漫画家村生ミオ氏死去　「胸騒ぎの放課後」「微熱　MY　LOVE」：朝日新聞デジタル asahi.com/articles/ASQ4P…

漫画ゴラク編集部 @BETSUGORAKU

読者の皆様へ 漫画家の村生ミオ先生が2022年4月16日にご病気のため逝去されました。 ご愛読いただいた皆様に感謝申し上げるとともに、 謹んで村生先生のご冥福をお祈り申し上げます。 （なお、葬儀はご家族の意向により、近親者のみで執り行われました。　） 漫画編集部 pic.twitter.com/vhnx6x3USA

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岩井好典 @iwai_beam

村生ミオさんが亡くなられました。 時節もあり、ご遺族が内々ですまそうとなさっていることを承知で、無理を言って葬儀に参列させていただき、お別れをしてきました。 想い出を、少しだけですが書こうと思います。 「少しだけ」と言っても、Twitterだとすごく長いツリーになってしまうと思いますが。

岩井好典 @iwai_beam

自分にとって、村生さんは、本当に特別な漫画家です。 以前「これまで印象に残っている作家さんといえば、どなたでしょうか」と訊かれ、「村生ミオさん」と答えたくらいなのです。（編集者は、こういう質問に明確に答えるのは躊躇しがちなのですが、これはもう絶対なんです） tokiwa-so.net/news/2544

岩井好典 @iwai_beam

1990年、秋田書店入社2年目に、ヤングチャンピオンの『サークルゲーム』で担当をさせていただくことになりました。 単行本を見返すと、1巻収録の第10話「悲しい選択」から担当したことを、ハッキリと思い出せます。 『サークル～』について書き始めるときりがないので、ここでは細かく触れません。 pic.twitter.com/eZJNCzDyI1

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岩井好典 @iwai_beam

自分は三十年以上漫画編集者をしていて、何百人という漫画家とお付き合いさせていただいてきましたが、 村生さんほど、担当編集に「愛された」漫画家はいない、 と断言できます。 言葉を換えれば、村生さんは、担当編集者を「使う」、作品作りに「利用する」ことが、すごくお上手な漫画家さんでした。

岩井好典 @iwai_beam

性格温厚で、とても優しいかたでした。 自分は、かなり長い時間をご一緒させていただきましたが、村生さんが声を荒げたり、誰かに対して威圧的な態度をとったりしたのを、一度も見たことがありません。 年若い編集やアシスタントに対しても、常に柔らかく接して、お話になるかたでした。

岩井好典 @iwai_beam

ハードな状況に立ち合ったこともありましたが、そんな時も、村生さんは、眼差しが厳しくなることはあっても、常に静かな声で、怒りを表にお出しなったりはしませんでした。 そうしたお人柄が、村生さんが編集から「愛された」という面は、もちろんあります。 でも、それ以上に、

岩井好典 @iwai_beam

村生さんは、担当編集者の意見をすごく取り入れてくれるかただったのです。 物語の展開やシーンの描き方について、常に編集に意見を求め、良いと思えば積極的にそれを作品に反映させていきました。 村生さんを担当することで、自分は「一緒に漫画を作る」という感覚を初めて持つことができたのです。

岩井好典 @iwai_beam

村生さんには雑誌の人気投票を毎号お知らせしていました。 前担当から引き継いだ時そう教えられ、自分も内々に編集部で投票結果を書きとめ、お渡ししました。 これはかなり稀なことです。人気投票リストを、そのまま漫画家に見せるということは、普通しません。 でも、村生さんはそれを求めました。

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実は、村生さんは、他の人気作にはそれほど関心を示さないのです。比較的作家性の強い作品に反応するかたでした。 自分が在籍していた当時のヤングチャンピオンなら、谷口ジローさん『風の抄』、山本おさむさん『わが指のオーケストラ』、丸尾末広さん『犬神博士』等に強い興味を持っておられました。

岩井好典 @iwai_beam

「ぼくは、若い頃にCOMを読んでいたりしましたから、こういうタイプの漫画が好きなんですよ。良いなあ、すごいなあ、と思うんですよね」 と、おっしゃっていました。 しかし、いつも、それに続けて、

岩井好典 @iwai_beam

「でも、ぼくは違うんです。 ぼくは“流行作家”なんですよ。 載っている雑誌で、常に1位を争うような作品を描きたい。描かなければならないんです。 作家性の強い漫画を良いなとは感じるけれど、自分で描こうとは思わないんだよね。自分は人気作が描きたい」 と、微笑みながら言うかたでした。

岩井好典 @iwai_beam

そのため、常に雑誌の人気投票をチェックし、自分の作品のどの回が、どういうチャートアクションを起こしているかを意識していました。 そして、その読者のリアクションを取るために、目の前の編集者を徹底的に「利用」なさったのでした。 いつも打合せで雑談を重ねて、編集の趣味や嗜好を聞き出し、

岩井好典 @iwai_beam

貪欲に吸収しようとなさいました。 編集にアイディアを求め、良いと思えばドンドン作品に取り入れました。 作品の方向性が変わったり、村生さんの作風と異なる展開になったとしても、気にすることなく果敢に描いていきました。 それはすべて、編集の向こうにいる読者の欲求に応えるためでした。

岩井好典 @iwai_beam

それこそが、村生ミオのマンガ道だったのです。 そうした姿勢は、ときに、編集者や漫画読者から軽んじられることの原因になっていたと思います。 「語るべき漫画家ではない」「確固とした作家性がない」「人気を取るために極端な話描く人だよねえ」「編集の言うこと聞きすぎじゃないか」等など。

岩井好典 @iwai_beam

そんな視線は、まったく気になさいませんでした。 常に、今描いている雑誌で人気投票1位を目指す、ということが、村生さんの漫画を描く意味、「作家性」だったのです。 そのため、村生さんの作品をそれほど評価しない人はいるだろうと思います。

岩井好典 @iwai_beam

しかし、村生さんは、キャリア初のヒット作となった少年画報社の週刊少年キング連載『ときめきのジン』以降、講談社の週刊少年マガジン『胸さわぎの放課後』、小学館で少年ビッグコミック『結婚ゲーム』、GORO『微熱MY LOVE』、秋田書店のヤングチャンピオン『サークルゲーム』、

岩井好典 @iwai_beam

集英社のビジネスジャンプ『ウィメン』、双葉社の漫画アクション『バージン･ママ』、日本文芸社の週刊漫画ゴラク『SとM』…と、40年のキャリアを通じて、ギャグ、ラブコメ、エロティック･サスペンスなど作風を大きく変えながら、数え切れないほどのヒット作を生み出しつづけてきたのです。