- mocharn3rd
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ロドス 訓練室 宮沢熹一は、サンドバッグを前に、距離を置いていた。 それを眺めるのは、テラでの弟子、スプラトとブルーとブラウン。 それから作戦記録や実際の作戦を通じて灘・真・神影流に興味を持ったオペレーターたちであった。
2022-05-07 21:44:50黒髪のフェリーン(地球の感覚で言うならば猫の特徴のある人)のメランサは行動予備隊A4のリーダーだ。 極東の剣術とフェンシングを合わせた独特の技で、ロドスに評価されていた。実戦経験は半年と少しだが、仲間想いのために人望を得て、リーダーの立場にある。
2022-05-07 21:45:14突然視線を向けられたメランサは首を少しかしげて、頭にハテナマークを浮かべた。 (「黒蛇」に有効打を与えたのも、灘の「顎打ち」の崩しをメランサちゃんが考えて、それをさらにアーミヤちゃんが真似たって聞いた)
2022-05-07 21:45:40さらに熹一は視線を変える。そこには先輩のロドス格闘教官、Octopusがいた。 (Octopusはアビサル……地球で言うところの海系の特徴を持つ種族。Octopusは特に関節技が得意)
2022-05-07 21:45:51Octopusは尻尾のような蛸足をゆらめかせて頷いた。「好きに指導してくれ」という意味だ。 それもそのはず、いま熹一が開いている講座は、ロドスが全オペレーターに課する護身術講座ではなくて、近接系オペレーターの、さらに徒手系のオペレーター向きの講座だった。 「じゃあ、行くで」
2022-05-07 21:46:06ゆっくりとサンドバッグに向かう。 「幽玄真影流"朦朧拳"」 その動きは、他の誰にも、サンドバッグをすり抜けるように見えた。 「からの幽玄真影流"双手穿孔拳"」
2022-05-07 21:46:17サンドバッグに両手の拳を挟むように打つ。サンドバッグが、破裂音を放った。 しん、とした空気が広がる中で、熹一は問いかける。 「"我を似せるものは生き、我を象る者は死す。"いっつも言うとることやけど、この技、型を基本として、どうアレンジする?」
2022-05-07 21:46:31テラにおいて、さまざまな種族や、アーツの使い手を知って、熹一の指導方法は変わった。 そもそも一斉指導が苦手な熹一だから、今まで知った技を、それぞれ考えさせるというスタイルは性に合った。 メランサが手を挙げる。熹一が頷いて促す。
2022-05-07 21:46:44「まず、後ろに回る前に一撃入れられます。それから、後ろに入ってからは……刃物を持ってるならすぐ首筋に、刃物なしなら灘神影流"顎打ち"で顎関節を外す手が考えられます」 うん、と熹一は頷いた。そこに同じくフェリーンであり、熹一の弟子であるブルーが挙手する。
2022-05-07 21:46:59「よしブルー」 「はい。拳で両方のこめかみを打つのは、相手がミノスやドラコなどの角を持つ相手だと厳しいです。むしろこちらの拳がケガをする可能性が高い。 種族によっては"一寸棒死"で、耳の穴への攻撃のほうが良いのでは」 「なるほど」
2022-05-07 21:47:30ここに、ヴァルポ(狐耳)のブラウンが口を挟む。 「待てよ、"一寸棒死"はフェリーンのお前やヴァルポの俺たち相手だと、耳毛が抵抗あって有効打になりにくいんだぜ」 「ではどうする?」
2022-05-07 21:47:42ブルーの問いに、ブラウンは言った。 「メランサさん以外の回答を言うなら、締め技かな。"鼓爆掌"みたいに鼓膜への攻撃は俺らには効くと思うけど、俺らの耳って表面積が広いからよ」 熹一とOctopusは頷きあう。
2022-05-07 21:47:54スプラトがニヤニヤしながら告げた。 「後ろからならいくらでも攻撃できるんだ。肋骨への攻撃や、肩甲骨の破壊、心臓や肝臓あたりへの攻撃も可能だぞ」 スプラト以外の全員が、冷めた目でスプラトを見た。
2022-05-07 21:48:05「お前が真面目な表情で言うのなら、みんなまともに受け取ったのにのォ」 Octopusは頭をかいた。 「露悪趣味、そろそろやめたほうがいいぞ、アレックス」 「ええっ、私はそんなに、そうなのかね!?」
2022-05-07 21:48:15Octopusはこれまでの話をついで話す。 「キー坊、これ、別に立ち技だけじゃなくて、寝技のときにも言えることだよな?」 熹一は、我が意を得たりという表情で応える。
2022-05-07 21:48:33「ああ。基本的に"後ろから攻撃できたときにどうする?"ってものだと解釈しとる。メランサが"後ろに回る前に一撃入れられる"っていうのはその通りだ」 「必殺技っていうよりも、必殺状況を作った後の技だよな、"双手穿孔拳"」
2022-05-07 21:48:45熹一は笑った。 「そこまで読み取ってくれて助かるわ」 Octopusは頭をかいた。 「背後を取ったらどうやっても勝てる、みたいな風に考えるヤツもいるからな。その先のことを指導するというのは必要だからな」
2022-05-07 21:49:13熹一は話を促す。 「背後を取ったオペレーターが、相手のアーツがいきなり発生して返り討ちに遭ったケースがある。あとお前は知ってるよな? "マーガレット・ニアール"。光のアーツを得意とする、もとカジミエーシュの騎士競技チャンピオンだ」
2022-05-07 21:49:33熹一は、む、と声を上げる。 「そうか、アーツ使いを前提としてもあの技を考え直さないとあかんな」 ブラウンが手をひらひらさせながら突っ込む。
2022-05-07 21:49:45「アーツを幅広く使えて、かつ近接格闘にできるヤツ相手に、そもそも後ろをとれませんよ。ニアールさん相手だと、こっちから後ろをとってヨーイドンでも負けますって」 「なにっ」
2022-05-07 21:49:54熹一がつい声を上げる。 「ああいや、熹一さんが負けるって話はしてませんよ!?」 「あ、ああ。ワシも変な声だしてすまんかった。……いや、ブラウンの言う通りや。ニアールさん相手だと勝負はわからん……」
2022-05-07 21:50:06「けど、ワシは、灘・真・新影流は勝つで」 スプラトが口を挟む。 「負けないとは言わないんだな」 熹一はスプラトの頭をはたいた。 「お前は灘の味方か敵かなんやねん」
2022-05-07 21:52:11