田中ユタカ「愛人[AI-REN]」についての考察
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MickHeroNG
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去年の今頃はシンエヴァの事ばっかり考えていたが、今は田中ユタカの「愛人AI-REN」の事ばっかり考えている。 後者も実はほのめかされているだけで明言はされていない裏設定や、そこから導きだされるストーリー、そして作者の他作品とのつながりが考えられる。 酔った勢いで書いてしまおう。
2022-05-11 21:25:25
「愛人」は、余命いくばくも無い少年少女が愛を紡いでいく物語だ。 なんで死にかかっているか、に壮大な設定を載せている当たり、keyのゲームによく似ている。 人類が種としての寿命を迎えつつあり、自然生殖すら不可能になってしまった時代…
2022-05-11 21:29:44
主人公のイクルはスペースコロニーに勤務する両親の間に、その時代の通例通りに人工授精で生まれた。 出生直後コロニーの事故で体の半分を失ったのがその場で「他者」という正体不明の物体を移植されて再生、生き延びた。 しかし他者と彼自身の肉体は溶け合わず、10代半ばにして死に瀕しつつあった
2022-05-11 21:34:16
そして彼はサブヒロインであり母親代わりのナギ・ハルカの元を巣立ち、最後の日々を一人過ごすことにした。それでも孤独に耐えられず、「愛人」を役所に申請する。何らかの理由で凍結された人造人間に短期間の寿命を設定したうえで再生させ、余命いくばくも無い人のメンタルケアを行わせるものだ。
2022-05-11 21:38:03
その他に「HITO」という神のような存在との接触、人類の自殺めいた戦争についての描写をはさみつつ、物語は二人の愛を主眼に描く。 そして二人が死んでも、その愛はハルカの献身もあり確かな形を遺した。
2022-05-11 21:42:01
以上が概要である。 次いで物語の裏設定について述べる。 「他者」の正体について、作中では明らかにされていない。しかし劇中、イクルの目の前にたびたび不吉な予感として現れる「他者」はあい(ヒロイン)の姿をとっている。 また、あいが凍結される前の記録は存在していなかった。
2022-05-11 21:49:42
そして最後、テロにより「呪い」がまき散らされ、人類全体の遺伝子が激しく傷つけられ、人類の未来は完全に閉ざされた かに見えたが、あいが寿命を迎えたのち受精卵が残された。イクルと遺伝子レベルで癒着していた「他者」が呪いを退け、やがて健全な子として生まれて目を覚まして物語は幕を下ろす
2022-05-11 21:56:31
以上の事から、以下の仮説が導き出される。 まず二人の子供が健全であったことから、「他者」とは人類を延命させるための研究の成果であっただろうと推定される。 また他者のイメージがあいと酷似していることから、彼女は他者の研究の副産物であった可能性がある。
2022-05-11 22:01:16
イクルとあいは自然生殖により子を遺した。 つまり他者の研究には、通常の生殖行動の復興も含まれていたのだろう。 その試験体としてあいが産み出され、研究が終わった後に恐らくは寿命もさほど残っていなかったためだろうが、人間らしい死を与えるため、裏ルートで愛人へと凍結されたのだろう。
2022-05-11 22:03:49
以上の設定から、以下のようなストーリーが導出される。 「他者」の研究はイクルとあいという犠牲を払いつつも、最終的には二人の子供の誕生という形で結実し、人類は種の寿命も呪いも克服して中興を果たした。
2022-05-11 22:07:25
ならば作者が次に手掛けた「ミミア姫」と明確に接続しているといえる。 「ミミア姫」において、人類は「呪われた人間」に創造されたと明言されている。つまりミミア姫たちは、あいとイクルの子孫なのだ
2022-05-11 22:10:21
更に語りたいことがある。 雑誌での最終回では、イクルがあいの待つ家に帰って完結となっている。しかしその後実に2年間の時を経て発売された最終巻では、雑誌掲載分の描写はハルカの想像として処理され、二人の再開は描かれていない。
2022-05-11 22:12:59
あいがイクルにあてた遺書に、夢を見ながらイクルを待っている、と書いた事を考えると、この結末は残酷でさえある。 思うに、「愛人」において田中ユタカは、「死んだら終わり」と強く打ち出すことにより、限りある人生の貴重さを訴えたかったのではないだろうか。
2022-05-11 22:14:31
なお其の後発表した「いとしのかな」では幽霊との性交が描かれているため、「死んだら終わり」はあくまでも「愛人」に限った話ではある。
2022-05-11 22:15:18
最後にもう一点 「愛人」の本筋はあいとイクルの愛だが、最初からお互いは好感度マックスであり、ラブコメとしては非常にリスキーな作劇である。 これをあえて行ったのは、担当である中澤章一氏が過去、まさにそのような作品である「ふたりエッチ」の立ち上げを成功させ、超長期連載の礎を気づいた
2022-05-11 22:19:27
成功体験があったのだろう。 ラブラブ新婚生活を長々と描写しても、しっかりと読者を引き付けられるようハンドリングできる、との自信があったに違いない。 本当に、奇跡そのものといえる作品だ
2022-05-11 22:20:25