クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド」#2

2011-09-15 15:57:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァー!ハァー!フゥー!フゥーッ!」いかにも浮浪者然とした男が荒い息を尽きながらモンチ通りをよろめき歩く。モンチ通りはアンダーガイオン第二層、決して明るい地域では無いが、男の身なりはこの地の人々からも明らかに浮いており、誰もが顔をしかめて道を開けた。

2011-09-15 16:03:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男の顔は泥かススのようなもので真っ黒であり、額からは出血していた。もっと重大な怪我は左腕で、肘から先が失われ、ボロ布で止血された先端部は赤黒く染まっている。つい最近の怪我なのだ!男は濁った目でキョロキョロと通りを見渡す。ほとんど見えていないのかもしれない。

2011-09-15 16:35:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地面にへばりつくような平屋作りの家々には金属パイプがマングローブじみて這い回り、その節々から熱い蒸気が噴き出す。頭上の「天井」には、雲が流れる青空がペンキで描かれており、規則的に配置されたLEDが太陽がわりにそれを照らしている。「空……空だ」男は震えながら天を仰ぐ。

2011-09-15 16:45:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ、偽りの空にこの男は涙を流すのだ。そしてその空のあちらこちら、まるで男をあざ笑うかのように、抜け目無くネオン広告パネルは配置され、うるさく光る。「疲れを忘れバリキだ」「安心安全が、さっきから」「もっと働いてもいい」「ガールズバー」「買い切り」「おでんのチェーン店」。

2011-09-15 16:49:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アセンショーン、一生懸命やっていくと、上にラブ、ラブが最上階だったの~」電柱にくくりつけられたスピーカーからはアンビエント音楽としてスカムなポップスが流れる。労働とそれに伴うアッパー層への上昇を人々に期待させる夢見がちな歌謡曲である。「フゥー……フゥー」男はまた歩き出す。

2011-09-15 16:55:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなた病院行かないといけんよー」フラフラと歩く男へ、道端に洗濯物を干していた老婆が忠告した。どのみち、言ってみただけである。男は見るからに、治療を受けられる身なりでは無いのだから。彼は老婆のほうを見もせず、憑かれたように通りを歩いてゆく。「フゥー……フゥー」

2011-09-15 17:06:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男の眼前には、路面に長テーブルを出した食事処がある。店には屋号「孫の店」がショドーされたノレンが張られ、立てかけられたノボリ旗には食欲をそそる相撲フォントで「自然風味」と書かれている。漂うアミノ酸の匂いに、男はフラフラと引き寄せられる。

2011-09-15 17:12:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ズルズルとソバをすすっていた白髪の男は満身創痍の男が近づいてくるのに気づく。彼はソバをすすりながらその様子をじっと見ていた。白髪の男の向かいに座ってスシを食べていたハンチング帽の男も、彼の視線に気づいて首を巡らせた。「……アバッ」満身創痍の男は二人が見ている前でうつ伏せに倒れた。

2011-09-15 17:29:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイオイオイ!」ソバのドンブリを置くと、白髪の男は大柄な身体に似合わぬ敏捷な動きで、倒れた男のもとへ駆け寄った。「マラソン帰りか何かか、おっさん!そこで寝ちゃあダメだよ。清掃されちまう」「ち、地上……やっと来た……」「ハン?」白髪の男……私立探偵タカギ・ガンドーは首を傾げた。

2011-09-15 17:35:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「青空が……やっと」「オイオイ……大丈夫かい?惜しいけど、ありゃあウキヨエだぜ、悪趣味なもんじゃないか。ここは随分上だが、地表ってわけには……」いつのまにか二人の傍にはハンチング帽の男もしゃがみ込んでおり、片手を上げてガンドーを制した。そして無言で首を横に振った。

2011-09-15 17:41:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男は虫の息だった。肺に穴が空いたかのようなヒューヒューという音を立て、小刻みに震えている。失われていないほうの手が懐を探り、血で汚れたマキモノを取り出した。「お、俺はもうだめだ。たのむ、地表の人。あんたがたの身分なら、政府にこれを渡せるだろ……じ、ジキソ……」「ジキソ?」

2011-09-15 17:47:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジキソ。政府高官に下層民が直接に要望を手渡すイレギュラー手段の事である。江戸時代においてこの方法はしばしば試みられ、様々な悲劇を生んだとされる。現代のキョートにおいて、それが意味するところとは……。「お、俺は14層から来たんだ、自力で。これで報われた……」「14?自力?」

2011-09-15 17:55:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ハンチング帽の男……ニンジャスレイヤー=フジキド・ケンジは、ガンドーと目を見合わせた。14層。そこからこの第2層まで、リフトを使わずに上って来たのか?ただ事ではない。

2011-09-15 18:06:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

逆ピラミッド型の多重構造をとるアンダーガイオンはおおまかに四つの「格差」で分けられる。地下第一層。そして2層から9層までの「中層」。その下のレベル群「下層」。そして……遺棄されたる最下層。14層ともなれば、下層の相当下部に位置する事は間違いない。

2011-09-15 18:24:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

十中八九、この重篤な負傷は無茶な上昇に伴う怪我だろう。片腕が失われた他、どうやら全身に火傷を負っている。リフトの機関部を這い上がりでもしたのだろうか。とても想像のつかぬ行いだ。「ブッダ……」男はガンドーに抱えられたまま、がっくりとうなだれた。「死んだ」ガンドーはしかめ面で言った。

2011-09-15 18:30:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーはマキモノを手に取り、男の懐を探って、IDも回収した。「14層。ブッダ!間違いなしだ」IDに記載された居住地に目を走らせ、ガンドーは言った。ゆっくりと死体を道路脇に寝かせると、彼はソバのドンブリをうんざりと眺めた。「さすがに食う気が失せたぜ」「……」

2011-09-15 19:09:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ファーオ!ファーオ!交差点を曲がって霊柩車がサイレンを鳴らしながら走ってくる。食事処の店主あたりが通報したのだろう。行き倒れの遺体は速やかに回収され、どこかへ運ばれる。「追悼と衛生の両立」「実際迅速な」と書かれたワンボックスカーには申し訳程度の小型シュラインが乗っている。

2011-09-15 19:31:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれこれ聞かれたら面倒だ」ガンドーはオールドイェンの素子を店内の店主めがけて見事なコントロールで投げると、ニンジャスレイヤーを促して歩き出す。霊柩車からスタッフが駆け下り、遺体を手際良くストレッチャーに乗せてゆく。

2011-09-15 19:35:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……いやはや。ジキソとはね」ガンドーはマキモノを手の平で弄んだ。歩きながらそれを紐解き、読み始める。ニンジャスレイヤーはそれを見やった。「何のつもりだ」ガンドーは口の端を歪めて笑った。「首を突っ込もうってんじゃないさ!ジキソの内容に興味あるだろ?14層だぜ?エピック!」「……」

2011-09-15 19:46:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーは稚拙な筆跡で書かれたそのジキソ・ドキュメントを読み始めた。やがて足を止めた。「オイオイオイ……」ニンジャスレイヤーは目を細めた。ガンドーは無言でマキモノを手渡した。

2011-09-15 20:26:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……『政府のえらい方、どうかどうかお助けください。我々はアンダーガイオン第14のバラキ居住地の者です。皆様の日々のせいかつに必要なバイオ化石燃料を掘って毎日を一生けんめい過ごしております。つつましい暮らしです。私達が今恐ろしい事になって、とても酷いのです。』

2011-09-15 21:02:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『話はほんの先週の事です、黒スーツのまるで地主のセンセイみたいな人が、最初は丁寧だったんです、それが……」ニンジャスレイヤーは眉をしかめた。何ととりとめの無い語り口か。だが、いかにも必死な様子は伝わってくる。生まれながらに辛い労働を運命づけられ、無知と貧困を押し付けられた人々だ。

2011-09-15 21:32:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

当初、その話はありふれた地上げトラブルをフジキドに予想させた。採掘場を閉鎖する。それにあたり立ち退きを……。ネオサイタマ近隣のトットリーヴィルでオムラのニンジャを殺した記憶を、彼は蘇らせる。そして、ユカノのオリガミメールを。

2011-09-15 22:18:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが、その訪問者は、住人にとっても、そしてこのマキモノを読むフジキドにとっても予想を超えた話をしたのだ。それは提案ではない。一方的な通知であった。曰く……『あなたがたの住むこの14層の真上、13層に、垂直掘削用のシリンダーハンマーを建造しています。これは非常に巨大なものです。……

2011-09-15 23:37:50