【岡山ブルース・完全版】福間健二　fukuma10m

福間健二 @acasaazul

「弱い心があれば」と北川さんは言う。「若い人と同じ土俵に立てる」。枯草を食べ、なんにでも泣いてしまうような弱い心が、骨を休ませて、西川公園のベンチに何時間も座っていた。天神そば、今日は休み。成田家の開店はまだ。岡山、こいつに何をくれる？ （岡山ブルース１）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

日が暮れて。足音。一種の収集容器の、雫のたれる、いかれぽんちの、だれだっていい。だれだってポテトを食う。詐欺の天才の、なりそこないの、だれだって密告する。だれだって泣く。岡ビルの裏。まつり寿司は、いらない。きれいなタオルと缶ビールをくれよ。（岡山ブルース２）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

「もっと快活に」と富田町のカネちゃんは言う。「若い人は、泣きたいだけ泣いたら、そのあとはさっぱりして」屋上にあがって狙撃犯になる。地面の弦にしがみつく人たちを、脚のとれた椅子にする。E、E セヴン、Aセヴン、Bセヴン。二小節のくりかえし。（岡山ブルース３）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

からみあった若い根っこ、からみあう意味を知らなかったわけじゃない。基礎訓練。相手の気持ちに応えるそれはとうに終わって、でも全部忘れて、無雑作なオーバーハンドで肉切り包丁を使う夜が。「ほんとに可愛いんだぜ」。夜が、ぼくを、つかまえにくる。（岡山ブルース４）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

破滅の、最初の一歩。白いブラウス。舌足らずなしゃべり方。「ほんとに可愛い」悪魔のせいで深い川に飛び込み、死にはしないが、それからずっと従業員。連絡も掃除もちゃんとしない店の。田町。中央町。天瀬。逃げきれない。自分の三連符につまづく影から。（岡山ブルース５）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

「人民に権力を」。でも、抗議する気もない連中には打撲傷、裂傷、油のしみだらけの箱。次々に起こる出来事に筋書きなどない。演説も古いレコードも終わった廊下のつきあたり。話し声がして、骸骨と蜘蛛と魔女。セックスしたくてもできない相手ばかりだ。（岡山ブルース６）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

ジム・トムプスンを読む。ビールも半ダースのパックあと三つ。努力なんかお断り。財産も、地位も、生活も、むこうからやってきてぼくを見つけてくれる。ためてるゴミと一緒に棄ててやる。旭川べりの、ゲストコーナー。港くんと棟人さんの影に立ってもらおう。（岡山ブルース７）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

「昼間は本を読み、夜は酒を飲んで考える」とリューは言う。黒いスズメバチ。黒さの濃度のほかは、ぼくと同じだ。居場所がない。大げさな言葉を使う連中を信用しない。卵、ベーコン、トマト、豆を食べる。膝上までの濃紺のスカートのあの子たちに弱い。（岡山ブルース８）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

いまはカネちゃんも墓の中。ぼくの気持ちに応えてくれるのは、山陽系、産業的、神秘主義の姉妹だけ。いくつかの顔と時間。喉の奥の苦さ。作業服。正確なつながりが見えて、やばい。自分の追ってきた敵は自分だったというここだけの話を、みんなが知っている。（岡山ブルース９）　#fukuma10m

福間健二 @acasaazul

アル、スル、ナル、ナル。中心のない世界の、解釈なし、後戻りなしの、実験の四小節。路上の、迷えるガキどもが、好きな相手と生きる意味を見つけるのだ。死にそうで死なないだれの弱い心の手柄だろう。泣いていいよね。東京でも、岡山でも、思いっきり。（岡山ブルース10）　#fukuma10m