轆轤

社長の学生の頃の思い出話を、かなり脚色して twnovel にしてみました。タグ合わせて140文字簡潔のついのべを繋げたら1つの物語に。400字の原稿用紙にしたら40枚足らずの短編です。 登場人物:僕(若かりし頃の社長がモデル)お嬢(僕の女友達)彼女(サークル仲間)先輩(サークルの先輩)坊主(サークル仲間) 陶芸サークルに入部した僕。元祖草食男子の4年間の青春。 続きを読む
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轆轤1 #twnovel 社長が大学生の頃のお話。サークルの勧誘に乗せられて僕は、陶芸サークルに入部した。思い当たる動機と云えば、隣で同じように勧誘を受けていた彼女と何となく足並みが揃ったから。「君、入部するん?」「…してもいいかなと思ってます」美女だった。一目で心臓が高鳴った。

2011-08-10 22:59:33
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轆轤2 #twnovel 陶芸サークルの部室のドアを開けたらそこはパラダイス。女子だらけだった。華やかな部室の中でも、彼女は相変わらず異彩を放つ。僕は初日同様、彼女に見惚れていた。「先ずは土を捏ねることからね」先輩がテキパキと指示を出す。僕は先ず、土に触れた。捏ねるんだ、1から。

2011-08-10 22:59:12
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轆轤3 #twnovel 彼女はハンサムな先輩の助言にハニカミながら応えていた。僕は嫉妬のような感情を、土の中に隠すように捏ねに集中する。「なかなかスジがいいんじゃない?」ただ無心に捏ねるのを、先輩に褒められて拍子抜けした。キョトンとする僕を見てクスクス笑ってたのが、お嬢だった。

2011-08-11 00:03:41
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轆轤4 #twnovel お嬢はいつも、陶芸には似つかわしくない格好で工房にやってきた。短いスカートから惜しげもなく放たれた太腿にはドキドキしたが、遠慮のない物言いには少し嫌気が差した。最初からなんとなく女子たちの姉御的なポジションにつき、適度な我が儘も言う。彼女とは真逆だった。

2011-08-11 09:17:21
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轆轤5 #twnovel 「君、入部するん?」「…してもいいかなと思ってます」あの会話以来、彼女とは会話を交わせてない。意を決して話しかけようとすれば、お嬢に阻まれた。…してもいいかなってことは、どうしてもやりたかったわけじゃなさそうだけど、彼女は陶芸にのめり込んでるようだった。

2011-08-12 01:12:42
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轆轤6 #twnovel うっすらと汗ばみながら熱心に土を捏ねる彼女。相変わらず美しい。彼女の手先を見ているだけで、僕の有り余った純情は体の芯から熱くなった。そして僕は、行き場のない感情を土にぶつけるしか能がない。こんな邪念だらけの土でどんな陶器が出来るのか…想像もつかなかった。

2011-08-12 01:13:15
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轆轤7 #twnovel ある日突然、お嬢に呼び出されて学食へ向かった。夏だった。お嬢は品のいいハンカチを首筋に当てながら気怠そうにアイスコーヒーを飲んでいた。僕を見つけてニタニタ笑う。「なに?」僕の質問を無視してお嬢は咳払いを1つ。突然切り出した。「彼女のこと好きなんでしょ?」

2011-08-12 04:45:06
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轆轤8 #twnovel 「図星なのはわかってる。見てたらわかるわ」何も答えてないのに、お嬢はたたみかけるように言った。「サークルの夏合宿のときにでも告白しちゃいなさいよ。私、協力するから!黙ってちゃ何も始まらないわよ?」お嬢らしいお節介だ。この日からお嬢は何かと僕を掻き回した。

2011-08-12 04:45:50
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轆轤9 #twnovel 夏合宿。避暑地の工房に泊まり込み、各々の作品を作る。新入生は、捏ねた土を縄状にして巻き上げる製法から卒業し、やっと轆轤を使わせてもらえる。お嬢の不穏な動きを片隅で感じながらも、僕は陶芸に打込むのだと心に誓っていた。彼女のことは…見ているだけで満足だった。

2011-08-12 04:46:47
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轆轤10 #twnovel 初めて対峙する轆轤は、思っていたよりも扱いづらいヤツだった。邪念を振り払って集中しないと、目の前の土の塊は僕の心を見透かしたようにあっという間に歪んだ。何度やっても上手くいかない。僕はイラ立った。お嬢が彼女の横に陣取り、話しては笑い合うのが気になった。

2011-08-13 00:45:45
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轆轤11 #twnovel 「彼女付き合ってる人、いないみたいよ?」夕食後、僕を片隅へと手招きしたお嬢の得意気な言い方に腹が立った。「お前…御節介もいい加減にしろ…関係ないやろ!放っとけよ!」僕は初めて、土以外のものに感情をぶつけた。面食らうお嬢に「…あ…ごめん」僕が先に謝った。

2011-08-13 00:47:52
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轆轤12 #twnovel 「え…あ、ごめん。けど、好きなんでしょ?彼女のこと」お嬢は真顔になって僕の胸の辺りを見つめて呟いた。その視線の先で、僕の心の鍵を開けようとしてるみたいだった。お嬢ほどの執拗さを持ってしても開かない鍵。自分でも嫌気が差す。そのとき…窓の外で人影が揺れた。

2011-08-17 03:43:32
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轆轤13 #twnovel 「あ!」先に言ったのはお嬢だった。窓の外の暗がりに揺れる人影…2人…サークルの中でも群を抜いてハンサムな先輩と彼女だった。僕の鼓動が急に速まる。そして2人は恥じらいながら抱き合った。…そうか…なんだ…笑うしかない。「…あはは」先に笑ったのはお嬢だった。

2011-08-18 00:47:19
min @37a_

轆轤14 #twnovel 僕の夏合宿は、初日の衝撃以降ひたすら陶芸に打ち込むものとなった。お嬢も僕に倣った。轆轤が回る音だけが工房に響き、僕は、かろうじて歪まずに回る土の塊に手を添えながら、改めて彼女のことを思ってみた。頭の中に浮かぶ彼女と目の前の彼女は、別人のような気がした。

2011-08-18 00:48:03
min @37a_

轆轤15 #twnovel 彼女と先輩は付き合ってるんだろうか。今、心がザラザラしてる僕は彼女が好きなんだろうか。余計なことを考えれば、目の前の土の塊は不細工に歪んだ。気になっても行動を起こせない…同じ轆轤に乗った人達を眺めながら僕は、均一な表面を造ることだけに集中しているんだ。

2011-08-23 00:58:40
min @37a_

轆轤16 #twnovel 僕は何を望んでるんだろう。自分でもよく解らない。彼女を思えば心の隅が傷んだけれど、それには気付かぬふりで一心に轆轤を回す。お嬢が極端に大人しくなったせいで、僕は尚更作業に集中した。こうして、僕の邪念だらけの夏の土は、肉厚で重い、鉛色の湯呑茶碗になった。

2011-08-23 00:58:54
min @37a_

轆轤17 #twnovel 夏が過ぎ、短い秋が過ぎて肌寒い季節になっても、僕はただ轆轤を回すだけだった。パッとしない作品だけが1つ1つ増え続ける。大学の講義と陶芸とバイト以外の時間は、友達と麻雀をしたり、場末のライブハウスへ出入りする日々。これと言った将来の夢もない…滞っていた。

2011-08-24 00:03:04
min @37a_

轆轤18 #twnovel 何の変化もない平坦な日々に、時々波を立てるのがお嬢だった。お嬢は時々「暇だから」と言っては僕を食事や映画に誘った。他に予定もないし断る理由もないから、お嬢と過ごす時間が増えた。僕を誘うことに深い意味を持たないお嬢は、一緒にいると楽で貴重な女友達だった。

2011-08-24 00:06:07
min @37a_

轆轤19 #twnovel お嬢は時折、1人暮らしの僕の部屋に「暇だから」と突然やって来た。何をする訳でもなく、持参したビールを飲み、僕の作った器を不細工だとからかってはテレビを視て、くだらない話をひとしきりすると、終電までには帰って行った。僕の日常にいつのまにか溶け込んでいた。

2011-08-27 23:22:47
min @37a_

轆轤20 #twnovel 「冬休みどうするの?」お嬢はビールを飲みながら聞いた。「実家帰るよ。何もすることないし」お嬢はテレビを見つめたまま呟いた。「私も一緒に行こうかな。何もすることないし」「何もすることないって。いい加減うちばっか来てないで、街でいい男とデートでもしたら?」

2011-08-27 23:23:29
min @37a_

轆轤21 #twnovel よっぽどテレビに集中してるのか、お嬢の言葉を10秒待った。「デートなんて面倒臭い!君と呑んだくれてる方がよっぽどラク」お嬢はそう言って持ってたビールを飲み干し、片目を指で拭った。何となく気まずい空気が流れる。僕は、言ってはいけないことを言った様だった。

2011-08-28 00:11:38
min @37a_

轆轤22 #twnovel お嬢は…泣いていた。「どうした?」聞いても黙ったまま。お嬢の頭を掴んで顔を覗き込んだ。目にいっぱい涙を溜めてお嬢は、僕をまっすぐ睨んで言った。「ビール!買って来てよ」ギュッと瞬きして、溜まった涙をパラッと振り落とす……お嬢はこの日、初めて終電を逃した。

2011-08-29 00:20:07
min @37a_

轆轤23 #twnovel 僕は轆轤を回す。お嬢も轆轤を回す。僕と同じように、お嬢も均一な表面を造ることに集中してる。肝心なことは何も話せず……目が覚めたら夜中の3時を過ぎていた。いつのまにか2人とも、酔っ払ってコタツで寝てしまっていた。結局お嬢は、涙のわけを話さないままだった。

2011-08-29 00:23:33
min @37a_

轆轤24 #twnovel 小さく寝息をたてるお嬢を見ていると、涙の訳が気になった。お嬢もいろいろあるのだろう。…顔にかかった髪を直してやった 。いつもちゃんと手入れされてるお嬢の髪は、長くてサラサラで品のよい香りがした。…急に胸の奥がザワつく。内から、突上げるよな衝動を覚えた。

2011-09-01 01:16:55
min @37a_

轆轤25 #twnovel 高鳴り出す鼓動を闇に隠そうと僕は、付けっ放していた裸電球の灯りを消した。カチリという音に反応してお嬢は、大きく寝返りをして、ゆっくりと目を開けた。「起こしちゃった?」慌てた僕の質問に応えようともせず、お嬢は僕の眼をジッと見つめる…鼓動はさらに速まった。

2011-09-01 01:17:45
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