アシッド・シグナル・トランザクション #2

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆カラテの高まりを感じる◆

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【前回あらすじ】 混沌の緑に沈むネオサイタマ。市民は黄金立方体の光の下でセイケン・ツキを繰り返す。混乱と絶望の中、ザナドゥは、重傷を負ったグラフィティ仲間の女子高生ヨウナシを発見。彷徨いの末、彼は混沌の影響を免れた人々をタマ・リバー河川敷に発見した。そこには赤黒のオリガミが……。

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【アシッド・シグナル・トランザクション】#2 pic.twitter.com/TQHYbKcDtz

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「そうか。ここは」ザナドゥはオリガミを見つめ、数秒の間、喫緊の目的を忘れかけた。ネオサイタマ各所に出現した「動かせず、動かず、壊れないオリガミ」のストリート・ランドマークのひとつだ。作り出した本人であるニンジャスレイヤーとのやり取りとその直後の出来事は遠い昔のように感じられた。 1

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この領域は思いのほか広さがあった。ここでは空中に留まった赤黒のオリガミが確かな存在感を持ち、黄金立方体の異質な輝きを無にしているかのようだった。彼のニンジャ第六感は確かな因果関係を感じ取っていた。「う……」腕の中でヨウナシが呻いた。ザナドゥは再び足を早めた。テント群。　2

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「アレ？急患？」川べりで布を洗っていたナースがザナドゥに気づいた。ザナドゥが説明しようとする前に彼女は近づいてきて、ヨウナシの怪我を確かめた。「こっちのテント。何処までできるかわからないけど」「今、カネがあんまりないんだ、俺」「じゃあ後で借金センター使いな。冗談だよ。おいで」　3

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案内されたテントの中には不機嫌そうな医師がいた。ザナドゥは外で待たされた。ザナドゥは川面に浮かび流れるシャボン玉を目で追い、力尽きるように座り込んだ。オリガミ・ポイントは複数存在する。その一つ一つに、こういった「正気の場所」が発生しているのかも知れなかった。「あいつ、何者だ」　 4

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河川敷を埋め尽くすテント群。だが一定の距離の奥、パッタリとそれがなくなり、緑が渦を巻いているのが見える。ザナドゥは目をそらした。嫌な感じがした。『今回の気象変化で、現代社会の問題全てが一気に解決します。無限に生えてくる植物を食べればいい』誰かのIRC端末から聞こえる放送。　5

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『そして黄金立方体です。どんなネオンより暖かく、明るく、我々を照らしてくれる。アルファ波や遠赤外線が含まれていて、しかも24時間無料なのです！セイケン・ツキをして、光を摂取しよう。そして我らセイケン・ネットに今すぐチャンネルしてください！』「駄法螺だぜ」視聴市民が放送を切った。 6

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「何が問題解決だ。変な果物、実際に食ったぜ、俺」「マ！？」「食えたもんじゃなかったッつうの。テキトーな事言いやがって」会話しながら歩く市民をザナドゥは見つめた。「緑の中の奴ら、どうなってるだろうな？」「ネットも不安定すぎるし、わからねえよ」「今何時だろうな」「さあな……」　7

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ザナドゥは自身の携帯端末を取り出し、IRC-SNSアクセスを試みた。ノイズが多く、IPの半数以上が応答せず、確認可能な情報は限られていた。磁気嵐でネオサイタマが封鎖されているという噂はどうやら本当だ。「緑に注意」「水は飲める」「日陰に注意」「光に注意」。断片的な注意書きのまとめがある。　8

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オリガミの領域外でも、屋内で引き続きサヴァイヴしている市民は相当数存在するようだ。それでも気を抜けば外に出てセイケン・ツキをしたくなってしまう。黄金光に当たればおかしくなるし、黄金光の作る影からはエメツと……フェイスレスが発生する。暴走車も多い。運転者がフリークアウトするのだ。 9

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主要な暗黒メガコーポの目立った動きは確認されていない。明智光秀の侵略時にも相当の異変があったし、今のところは様子見を決め込んでいるのかも知れなかった。サラリマンは屋内でオフィスワークだ。KATANAやシェリフは多少は機能している。ザナドゥが見た通り、役に立つかは疑問の余地ありだ。　10

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どれほどの時が経過したのか。昼夜のない世界ではピンと来ない。やがてテントが開き、ナースが出てきた。「お連れの子」「アッハイ！大丈夫そうか？」「一旦の応急処置は済ませた。今すぐの危険はいったんマッタしたけど、正直、ここじゃこれ以上は。設備も、血も足りなくて」「待ってくれよ……！」11

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ザナドゥはナースの腕を掴んだ。「乗りかかった船じゃねえか。俺がどうにも出来ねえから頼んでるんだ」「だから！このテントは病院じゃないんだから」「そりゃわかってる……ア……？病院……？」ザナドゥはハッとした。「病院なら、どうにかなるか？」「だから……」「近くの病院、教えてくれ」　12

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「安い。安い。実際安い」「アカチャン！オッキクネ」「十人十色！十人十色！」緑に覆われたネオサイタマ市街に広告音声が鳴り響くなか、ニンジャスレイヤーはモーターサイクルをドリフトさせ、交差点を斜めに曲がった。タンデムするコトブキは見事なバランス感覚と胆力でしがみついている。　14

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「とんでもない状態です」コトブキがコメントした。「人の営みと混沌がせめぎ合っているかのようです……！」インテリジェント・モーターサイクル、シグルーンの液晶パネルに表示された街路地図が明滅し、目的地である「エネアド社」施設の座標を示す。ニンジャスレイヤーは……「イヤーッ！」　15

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いきなり回転ジャンプしたニンジャスレイヤーは道路沿いのネオン看板「蜜柑の子」を蹴り、トライアングル・リープして、雑居ビルの隙間に飛び込んだ。「これは危険ですね！」残されたコトブキは自動走行するモーターサイクルを前ににじり、自身が運転を引き継いで、ニンジャスレイヤーを追う。　16

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「アイエエエ！」「アイエーエエエ！」路地裏で悲鳴を上げているのは、析出エメツをハントしに来たと思しき若者達だった。彼らは湧き出したフェイスレスに追い詰められ、今まさにボトルネックカット・チョップの餌食となりかけていた。「イヤーッ！」「アバーッ！」「イヤーッ！」「アバーッ！」　17

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ボトルネックカット・チョップを構えた二体のフェイスレスの首が、ボトルネックじみて空中に刎ね飛んだ。カットしたのは、ニンジャスレイヤーの強襲飛び回し蹴りであった。「「サヨナラ！」」爆発四散したフェイスレスの飛沫を浴びながら、エメツハント若者達は腰を抜かした。「アイエエエ！」　18

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「イヤーッ！イヤーッ！」石筍じみて育ったエメツを、ニンジャスレイヤーは振り向きざまの蹴りで粉々に破壊した。「アイエエエ！」若者達はエメツ片をかき集めてリュックに入れ、失禁しながら路地裏をまろび逃げていった。『欲の皮の突っ張ったアホどもだぜ！』シグルーンが発する声はタキの通信だ。19

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「間に合って良かったです」乗り付けたコトブキが言った。『オレ達が間に合わねえぞ！』タキは怒った。『悠長にしてやがるけどなあ、ミッション達成前に次のクソッタレ狩人とのゴングが鳴りやがったら、さらにややこしくなるンだ。そうなってもオレは知った事じゃねえぞ』　20

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「しかし困っている人を放置するのは腰抜けです。ニンジャスレイヤー＝サンは、こんな状況下であっても、せめて目についた範囲だけでも、己の為すべき事をしようと……」『そりゃよかったな』タキは呆れた。『そもそも最初からアレだ、急にピザタキに帰ってくるなり、手間を増やしやがった！』　21