乳癌細胞内で生存する細菌叢が転移を促進する機能を持つというCELL論文の読解まとめ

癌細胞の中で細菌が生き続けているというのは教科書にはあまり書いていないことで、常識外でしたが、それががんに有利に働いているという驚きの論文の解説を試みました。
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まずは論文と解説記事のリンク先と初期にいただいたコメント

Jun Yasuda @jyasuda1

これはすごい。細胞内で生息するバクテリアがヒト及びマウスの乳癌細胞で検出され、それらが細胞内でアクチンと相互作用し、癌細胞が遠隔転移することを助けるという論文。このバクテリアを除去すると転移のみが抑制される(原発巣の増殖には影響しない)。cell.com/cell/fulltext/…

2022-04-16 18:51:15
Kazz.MD.Ph.D. @KazBowen

@jyasuda1 @XX62 面白い報告ですが、こういう話動脈硬化でも一時期言われたことがあって病変で見られるー>病変を作る原因になるかは臨床で確かめないとだめですね。論文見てお思ったのは感染させることによる炎症反応の違いとかなかったのかな?Systemic及び局所のMacrophageなどの活性化など。systemic inflammatory

2022-04-17 01:48:54
Kazz.MD.Ph.D. @KazBowen

@jyasuda1 @XX62 reactionの結果、血管透過性とか接着分子の発現とかが転移巣で増えてるとか。Macropahge系の細胞のEvasionとか。。純粋にがん細胞のKinesisが上がっただけで説明できるのかなと思いました。別に遠隔転移でなくて局所の浸潤が増えるだけでもいいので

2022-04-17 01:50:57
Kazz.MD.Ph.D. @KazBowen

@jyasuda1 @XX62 実際の人体で原発巣より転移先に有意に細胞内細菌が多いとかの事実が見つかってくると、もっと確実になってくるでしょうね。むしろこの系とかだとYersina enterocoliticaとか効率良さそうですけどね。

2022-04-17 01:56:13

導入と先行論文の紹介と比較

Jun Yasuda @jyasuda1

さて、ようやくこの論文、さっと読むことが出来ました。まずもって驚いたのは論文の見落とし。2020年に大規模な「腫瘍内細菌検出」の論文がScience誌に出ていたこと。 science.org/doi/10.1126/sc…

2022-06-04 18:14:40
Jun Yasuda @jyasuda1

この先行論文では1526例ものヒト腫瘍(乳癌、肺癌、卵巣癌、膵癌、悪性黒色腫、骨腫瘍、脳腫瘍)について解析し、組織ごとに異なる細菌叢が観察されたこと、特に乳癌で多量の細菌が観察されていること、もっぱら細胞内に存在し、癌細胞のみならず免疫細胞にもいるということを明らかにしている。

2022-06-04 18:19:52
Jun Yasuda @jyasuda1

さらに、細菌由来の代謝産物の同定や、細菌しか利用しないD-alanineなどの検出、さらには悪性黒色腫の免疫チェックポイント阻害剤の反応性の違いと細菌叢の違いが多少の関連がありそうなことまで見出していた。解説記事もある。science.org/doi/10.1126/sc…

2022-06-04 18:21:41
Jun Yasuda @jyasuda1

解説記事はややskepticalで、結構疑問文の多いものだったように思う。さて、本題のCELL論文はある程度Science誌に掲載された論文の再現性の確認とも取れる部分が多い。例えばモデル乳癌マウス腫瘍組織からDNAを抽出、16Sリボゾームによるメタゲノム解析での定量結果は先のScience誌に近いものだった。

2022-06-04 18:24:50

観察された細菌叢などについて

Jun Yasuda @jyasuda1

自発的乳癌ルマウスだが、周辺正常乳腺組織の細菌叢と癌組織とでは構成が異なり、癌では通性嫌気性菌がメジャーであるようだ。また、先行論文と同様、細菌の菌体が細胞質内にあるということについて電顕写真で確認している。先行論文では光学顕微鏡とオーバーラップできるもので検討している。

2022-06-04 18:29:29
Jun Yasuda @jyasuda1

CELL論文の方はさらに腫瘍組織から採取したバクテリアを様々な方法で培養し、細菌が生きていることや、大多数が細胞外のコンタミではなく、内部由来であることも示唆するデータを出している。さらに無細菌マウスに細菌を含んだ腫瘍を移植する実験で、原発巣の増殖に細菌は関与しないことも示した。

2022-06-04 18:33:23
Jun Yasuda @jyasuda1

先の自発乳癌マウスは肺によく転移するのだが、転移巣での細菌叢も確認し、その様相が原発巣とは異なり、好気性菌が肺転移では増加することや、血中遊離細胞では最近流行のクラスター(細胞塊)の方が圧倒的に多く細菌を含んでいることなども示している。

2022-06-04 18:35:41
Jun Yasuda @jyasuda1

CELL論文では細菌の移植実験も実施している。GFPなどを産生するようにした細菌を腫瘍に移植することで、転移巣にGFP陽性の細菌が出現することも見ている。この際、転移巣形成を促進する細菌株とそうではない株があることも見出している。

2022-06-04 18:38:19

なぜ細胞内細菌ががん転移を促進するか:きっかけはRNA発現解析

Jun Yasuda @jyasuda1

出来た腫瘍をex vivoで培養しオルガノイドを形成させる際に転移促進能の異なる細菌を感染させてシングルセルRNA解析を実施、転移促進能を持つ細菌株でのみ誘導される遺伝子群がfluid shear stress関連であることが大事な実験だったようだ。

2022-06-04 18:40:57
Jun Yasuda @jyasuda1

面白いのは各種細菌を細胞に感染させてペリスタポンプで流路を狭めて通すことで細胞に流体せん断ストレスをかけると、転移促進能を持つ細菌に感染した細胞が生存性が向上していることと、いわゆるストレスファイバーの減少が起こっていること。

2022-06-04 18:43:42
Jun Yasuda @jyasuda1

このことから細菌に感染した癌細胞はストレスファイバーを減少させ、細胞自体の可塑性を向上させることで転移能が向上するという機構が提案されている。しかもそれはRhoA/ROCK系の阻害によるものらしい。

2022-06-04 18:45:20
Jun Yasuda @jyasuda1

最後にCELL論文でもヒト乳癌症例で確認しているが、ほぼマウスでの観察をなぞったようなデータであった。論文のDiscussionのあとでLimitation of the studyというセクションがあり、腸内細菌の転移への関与なども可能性は残るなど記載がある。また細胞内細菌の関与について(続く)

2022-06-04 18:51:46
Jun Yasuda @jyasuda1

アクチン再構成のみではないだろうと読める記載もある。また自然免疫の関与についても可能性があると。ここまでが論文の紹介。

2022-06-04 18:53:05

まとめと感想

Jun Yasuda @jyasuda1

以下、個人的なCELL論文への疑問点を列挙してみたい。まず転移巣に至る際に血中で細胞がクラスターを形成しているにしても、原発巣よりは集団として小さいはずで、せいぜい数個とした場合、論文中の記載(10^5個の細菌/1グラムの組織)では転移巣の細菌叢の複雑性が説明できないように思う。

2022-06-04 18:57:10