数学研究のために米国にいったらシアトル空港で入国拒否されかけた話…「数学は役に立つ」のオチが秀逸

tropical @tropicalrig

学生時代の終わり、就職を２ヶ月後に控え私は初めてのアメリカに旅立った。プリンストン高等研究所に滞在するためである。シアトルの空港に降り立ち、型どおりの入国審査をしていたら、管理官の表情がたちまち厳しくなりこう聞かれた。「お前は何者か」。「数学者だ」と答えると、(1/n)

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「プリンストン高等研究所といえば原爆で有名なアインシュタインがいたところじゃないか。そこに数学者が滞在するというのは何のためだ」と詰問された。何のためって数学をするためですよと言ったら、「それはお前のビジネスだろう。ビジネス用のビザがなければダメだ」という。私は激怒した。(2/n)

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「数学はビジネスじゃねえ、生き方だ！(Mathematics is not a business, it's a way of life!)」。私は直ちに取調室に連行された。 (3/n)

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連行される途中、周りの旅客たちは何とも言えない気の毒そうな表情を浮かべていた。私はといえば、さすがはアメリカ、私の過激思想（左派リバタリアン）まで嗅ぎつけたかと妙に感心していた。乗継ぎまで１時間を切っていた。ここで日本に送還されるならばそれもまた武勇伝と思っていると、(4/n)

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「どうも怪しいと思っていたんだ。プリンストン高等研究所なんてどうせ嘘に決まってる。何が目的なのか正直に言え」といった風なことをまくしたてられた。いや嘘じゃない、確認を取れと言ったら、めったに研究室の電話を取らない（人生で２度目か３度目と言っていた気がする）受け入れ先の教授が (5/n)

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入国審査官の電話に即座に出た。「こいつ本当にあんたが呼んだのか」聞かれた教授は、「そうだ、こいつは数理物理学者なんだ」と答えた。「物理学？やっぱり核兵器関係か」「いやいや、数理物理学というのは全く実用性がなく、あんたの思うような軍事利用みたいなことはされないから大丈夫だ。(6/n)

tropical @tropicalrig

特にこいつときたら、圏論などというジェネラル・アブストラクト・ナンセンスにハマっているような学者なのだから、世の中に全く利益も損害も与えない存在だ。わかったらさっさとそいつを乗り継ぎ便に乗せろ！」と必死に弁護してくれた。その弁護のあまりの説得性のおかげで私は無事釈放された。(7/n)

tropical @tropicalrig

今となってはこの弁護も説得性を失ってしまったように思われる。圏論もずいぶん名が知れ渡ってしまった。それでも私は今でも講義で学生に言う。数学は役に立つのです、なぜなら役に立たないと思われているからです、と。(8/n,n=8)

tropical @tropicalrig

昼休みにtwitterを開いてみるとこれが1.24万いいねもされていて仰天した。私のように実力の伴わない学者のアカウントが急成長して悪目立ちするのは炎上・滅亡の予兆であるので、（元々はもっと後にと思っていたが）滅びる前に一連のツイートへの「自註」を施していこうと思う。 twitter.com/tropicalrig/st…

tropical @tropicalrig

自註1-1：まずこの一連のツイートは事実レベルでは（記憶違いはありうるが）「本当」である。しかし、全ての言説がそうであるように、「同じ出来事」を語るときにもその語り方によって読み手に与える影響は大きく変わる。そしてこの一連のツイートにおいては、その効果を高める「演出」が用いられて twitter.com/tropicalrig/st…

tropical @tropicalrig

自註1-2：いることに注意を喚起しておく。まず冒頭であるが、〈学生時代の終わり、〉と書くことによって読者を一気にセンチメンタルな気分に誘おうとしている。人によっては『幼年期の終わり』『夏の終り』『日の名残り』のような小説のタイトルを想起する人もあろう。さらに、〈就職を2ヶ月前に控え〉

tropical @tropicalrig

自註1-3：とあることによって、作者は（特にかつて学生であり今就職した）全てのひとびとの共感を強引に集めようと企てている。また〈初めてのアメリカ〉ということによって期待と不安を表現すると同時に、後述の出来事について話者である「私」に何らかの過失があったのではないかと考える余地を与え

tropical @tropicalrig

自註1-4：ようともしている。なお〈シアトル〉には他意はなくただ事実を淡々と述べたのみ。次の〈型通りの入国審査をしていたら〉は本来なら〈型通りの入国審査を受けていたら〉などとすべき表現だが、この破格によって読者は視角に揺らぎを覚えるだろう。それは「審査」の主体である「管理官」の側に

tropical @tropicalrig

自註1-5：読者を一瞬立たせることになり、これ以降の出来事について「管理官の身になって」考える余地を残そうとしているのである。さらに〈「お前は何者か」〉という管理官の問いが「日本語」で書かれていることにより、「翻訳の裏切り」を推定させることになる。すなわちこれは審査官が「職業」を

tropical @tropicalrig

自註1-6：聞いているところを、「私」は「本質的に何者であるか」と問われていると勘違いしているのだ、ということを推察させるに十分であろう。ここに〈初めてのアメリカ〉が効いてくるのであり、無知がもたらす予期せぬ喜劇が起こり始めているということを（「私」に「内の目」で寄り添いながらも）

tropical @tropicalrig

（ここで昼休みは終了。あとは後ほど。）

tropical @tropicalrig

自註1-7：「外の目」からも見ながら感じとることができるであろう。そしてこの段階で〈「数学者だ」〉が出てくることにより、多くの読者にとって非日常な領域が突如開かれることとなる。ここで数学に苦手意識を持っている読者は読むことをやめる可能性が高く、実際にそうした読者もいるだろうが、

tropical @tropicalrig

自註1-8：〈と答えると、〉の〈、〉によって終わることにより、どうしても続きを読みたくなってしまった読者もいるだろう。なぜなら読点は、「切ることによってつなぐ」記号だからである。先程の自註1-7も〈、〉で終わっていたが、今これを読むあなたもきっとその罠に嵌ったのだ。（自註1終わり）

uchi（祝＼(^-^)／PPMMPPP) @uchi987

@tropicalrig 20何年前にアメリカに住んでいたのですが、会社からシアトルからの入国はやめとけと言われました。入国に際して酷い差別を受けるとのことです。特にアメリカで生まれた子はアメリカ国籍を取得できるので、女の一人旅には厳しいようです。アジア系の女性が別室に呼ばれ真っ裸にされて身体検査されたとか

tropical @tropicalrig

@uchi987 シアトルが実際特にそうであるかについては（私の経験のみからは）なんとも言えないものの、その後アメリカで何人かに話した際、おっしゃるような批評は確かに耳にしました。単純に私のカタコト英語から来る「すれ違いコント」という側面だけでは完全には説明できない「何か」を感じたことは事実です。

uchi（祝＼(^-^)／PPMMPPP) @uchi987

@tropicalrig 先の女性の場合はそれで問題になって、入管の所長の首が飛んだと聞きました(伝聞です)。それでその後は少しは改善されたのではないかと思いますが、シアトルは怖くて私自身は出国の時にしか使ってないので、本当に改善されたのかについてはよくわかりません。

coffee student @coffee_student

@uchi987 @tropicalrig 自分シアトルに2007年から住んでいますがそんな事をされた記憶や周りの日本人界隈からそんな話は聞いた事ありません。 人種に対する寛容さも少しずつアメリカに着いてきていると思います。差別は完全には無くなっていませんが。 最近だと白人のおじ様おば様達も餡子食べる様になりました