戦前はいっぱい政治家が殺されていた ――戦前と戦後の暗殺事件の違い

35
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

戦前・戦後の政治家の暗殺事件をざっとリストアップしてみた(戦前は既遂のみ)。やはり戦前は無茶苦茶多いのだけど、戦後も以外と多い。あと、1990年あたり特異的に多いような気がする。 www3.nhk.or.jp/news/html/2022… ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%97… ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%85… pic.twitter.com/Ehum6z8qHl

2022-07-09 16:49:34
拡大
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

特筆すべきは、戦前は有力な政治指導者が軒並み暗殺被害にあっていること。 大久保利通→伊藤博文→原敬が殺されているのが大きい。この三人は戦前の政治の主流を引き継いできたライン。そのあと、226と515があるしね。 未遂も多いよ。昭和天皇(虎ノ門事件)、岩倉具視、大隈重信、板垣退助…

2022-07-09 16:58:00
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

暗殺の影響度は、戦前と戦後では全く違う。 戦前は有力な首相級政治家が軒並み暗殺されてて、戦後でいえば、吉田茂、岸信介、池田隼人、中曽根康弘がみんな殺されているくらいのインパクトがあるだろう。 桜田門外の変があり、テロで政権が成立したから、暗殺を正当化する文化があったんだと思う。

2022-07-09 17:10:18

×隼人→○勇人

弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

逆に戦後社会では、暗殺は絶対に正当化されないというコンセンサスがある。やはり、515と226で社会が失敗したという意識だろう。 通り魔的な暗殺事件を防ぐことは不可能だが、暗殺を忌避するコンセンサス(建前)が維持されればよい。安部暗殺を正当化するような言動は強く批判されるべきだろう。

2022-07-09 17:22:57

×安部→○安倍

弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

簡単に戦前の暗殺、大久保・伊藤・原について説明しておく。 (専門外もいいとこだが……) 明治維新後の最大の政治家といえば、まず伊藤博文だろう。 大久保利通の死後政府のトップとなり、帝国憲法の制定・運用、日清戦争の勝利を指導。その後、政党政治家に転身し、自由党を政友会に作り替えた。

2022-07-09 18:38:51
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

初代韓国統監となり、韓国人活動家に暗殺されたことから、植民地支配の責任者として評判が悪いが、伊藤の業績の本筋はそれ以前の政治指導者としてのものだろう。 伊藤以外の誰がトップにたっても、あれほどうまい舵取りができたとは思えない。藩閥政治家であれば、憲政への切り替えはしないだろうし、

2022-07-09 18:38:51
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

民権運動家(大隈、板垣、福沢)であれば、保守派からの巻き返しにあってコントロールを失っていただろう。 唯一あり得るのかなと思うのが陸奥宗光だが、有能ゆえにうまくいかない気がする。伊藤傘下で能力を発揮するのが最善だったし、伊藤から自立したときに早世してしまったのが惜しまれる。

2022-07-09 18:38:51
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

大久保利通は、いわずとしれた初期維新政府のトップである。彼が生きていれば、そのまま大久保体制が続いていただろう。 明治政府初期の暗殺は、横井小楠、大村益次郎、広沢真臣、岩倉具視(未遂)など、大久保以外にも多い。(広沢はあまり有名ではないが、長州閥で木戸に次ぐ地位にあったようだ。)

2022-07-09 19:22:53
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

「維新の三傑」のうち西郷・木戸が死に、大久保独裁が固まった状態だったから、大久保暗殺で政府がダッチロールになることは十分あり得た。 ただ、彼の地位は伊藤博文が継ぎ、国家運営を軌道に乗せたので、結果的にはそれほど大きな影響はなかったといえる。

2022-07-09 19:26:36
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

最後に原敬について。 伊藤の次の世代の政友会の指導者は、星亨と原敬だが、星も暗殺されている。生きていれば陸奥が指導者になったと思うが病死しており、陸奥の弟子である原敬が党首になった。 教科書にも書いてあるが、原敬は初の政党内閣を現実化している。

2022-07-09 19:49:14
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

原が偉いと思うのは、藩閥政治家の巨魁、山縣有朋を心服させていたことだ。 伊藤ー山縣のライバル関係がずっと続いていたが、伊藤は暗殺され、山縣は後継者の育成に失敗していた。山縣は政党嫌いで、原内閣には反対する立場だが、原内閣の統治を見て、次第に評価するようになっていく。

2022-07-09 19:49:14
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

原暗殺を受けて、山縣は「原と云う男は実に偉い男であった、あゝ云ふ人間をむざむざ殺されては日本はたまったものではない」と言ったという(伊藤『山県有朋』454頁)。 原暗殺後、政党政治が国民の支持を得ることに失敗し、不況のあおりを受けて、515によって政党政治は終わりを告げる。

2022-07-09 19:49:14
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

帝国憲法下の首相は天皇により任命されることになっていたが、実際は元老による指名が慣例化していた。原が生きていれば元老になったであろうが、最後に残った西園寺が一人権限を行使し、苦心惨憺の末、政友会総裁だった西園寺が政党政治にとどめを刺す役割を担うことになった。

2022-07-09 20:04:06
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

歴史にifは禁物だが、明治政治史を見ていくと、原敬がもう10年でも生きていれば、相当変わった進路を辿ったのではと思わざるを得ない。

2022-07-09 20:07:07
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

以上3人は帝国政府のトップが殺された事件だが、野党的な立場の政治家も被害にあっている。 民権運動家といえば板垣退助と大隈重信だが、どちらも暗殺未遂の被害を受けている。あと大きいのが星亨ですね。 星の偉いのは、退潮期の自由民権運動をほぼ一人で支えたことです。今、参照すべき人物と思う。

2022-07-09 20:11:49
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

繰り返しになるが、戦前の暗殺文化の背景には、暗殺犯を賛美する文化があったと思う。 伊藤博文自身が暗殺に手を染めたことがあったし、例えば大隈暗殺未遂の来島恒喜はかなり賛美されたようだ。 左右問わず、どんな気にくわない人間であっても、暗殺によって排除されてはならない。

2022-07-09 20:23:23
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

大久保も伊藤も原も、暗殺犯人には自分なりの「正義」があっただろう。そして、その「正義」が正しいかどうかとは関わりなく、暗殺は国の進路を大きくねじ曲げてしまった。 あと、暗殺被害者は賛美されるべきとは思わないが、何も亡くなった直後に腐す必要もないだろうと思う。

2022-07-09 20:25:22
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

こういう話は、近現代の歴史学者の先生からうかがいたいところですね。 僕はちょろっと本を読んでるだけですから、専門家からみれば「それはちょっと違うと思うよ」というのがいっぱいあると思います。

2022-07-09 20:36:44

コメント

椎名つよし(何でも屋さん)/P💉💉M💉接種済 @t_417_kawasaki

すげぇ、仕事できる。 そうか、名言を残していても板垣退助はきすいじゃないし、片足失っても大隈重信も既遂じゃないし、その後感染症かなんかで結局亡くなっても浜口雄幸も既遂じゃないのか。 戦後も意外に多いですね。 twitter.com/kyoshimine/sta…

2022-07-09 17:01:40
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

@t_417_kawasaki 浜口は既遂に挙げないといけない気がしますね。戦前ノリスとはWikipedeiaから抜き出しただけなので。

2022-07-09 17:04:53
椎名つよし(何でも屋さん)/P💉💉M💉接種済 @t_417_kawasaki

@kyoshimine 薄い記憶だと、判決だと、死と相当因果関係なし、になったような気がするので、既遂じゃない、でいいように思います。

2022-07-09 17:11:15
弁護士 吉峯耕平 @kyoshimine

@t_417_kawasaki なるほど。 「政治的な死」という意味では、事件後に活動できなくなった事例は全部既遂と同じ意味があると思うのですが、そこまでいうと、未遂事件のリストを見て、全部分類する必要がありますね……

2022-07-09 17:16:24