石工の魔女と飛ぶ鉄を駆る空の賊

自分で自分のお嫁さんになる伴侶のガーゴイルを彫り続ける工芸の魔女様と、いろんなガーゴイルさんとたまに人間の話。全部ふたなりでえっちなやつ。
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屑望喜納子 @motikinako_kuzu

魔女の住む地域は神秘が極めて色濃く、人ごときの使う魔術は濃厚な神秘にかき乱され、時として不安定に発言をするものだった。だから空は竜さえ滅多に飛ばない未知なる領域で、人が空を飛ぶのは本来はずっとずっと後のことになるはずだった。

2022-07-11 12:29:16
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

そんな神秘の色濃い時代に不思議なことだが、鉄にのって空を飛ぶ女がいた。歴史家によれば、世界は幾度か大断絶と呼ばれる崩壊を迎えており、空飛ぶ鉄塊は過去の遺物なのだと言う。

2022-07-11 12:31:13
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

もちろんそんな古い道具、本当ならば直せる者等いない。歯車ひとつ、ネジひとつさえ寸分の違いもなく新たに作り直し、壊れた部品をきちんと交換してやらなくてはいけない。理屈が分からないのだから、全く同じ機能の部品を模倣しなくてはならないのだ。

2022-07-11 12:32:45
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

そんな工芸の神業は誰にできるだろうか。 一人だけいた。魔女だけは戯れに、空飛ぶ機械を直すことができた。そこに込められた魔法も、機能も、そっくり同じく鉄を鍛え上げ、直してやることができた。

2022-07-11 12:33:40
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

空飛ぶ鉄に乗る女は、エイルと言う女だった。元は食いつめて、探索家紛いの盗掘や盗みで食いつないでいた、山の猟師の生まれの女だ。兄弟が多く、食うに困り売られそうになったのを逃げてきた。

2022-07-11 12:35:39
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

ある時魔女の館に迷い込み、伴侶であるガーゴイル達を盗もうとした。もちろん取り押さえられて追い出されそうになった。 「そんなに綺麗なんだからさぁ!博物館にちょっと持ってくくらい良いんじゃないのか!? ここに置いといちゃ社会の損失とか、そういうんじゃないかい!?」 それで気に入られた。

2022-07-11 12:37:10
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

苦し紛れにとにかくわめいた一言が、偶然に魔女と伴侶達の気を引いたのだろう。エイルは黒玉の伴侶を一人、博物館に売って良いと許可をされた。 売った翌日にその伴侶が空を飛んで帰っていったものだから、エイルは大金と引き換えに重罪人になった。

2022-07-11 12:38:19
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

文句を言おうと憤慨して館に向かうエイルだったが、道中、近くをぼんやりと飛んで、気が向いたらカブトムシを捕まえにいって、天気が良ければ魚取りをして遊ぶ、あまりにも美しい黒玉の乙女に、あほらしくなって怒りも薄れてしまった。

2022-07-11 12:50:23
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

それでもいく場所はなかったので、しばらくエイルは魔女の館に無理矢理押し掛けて寝床にしていることがあった。それからも生活に困ればちょくちょくと魔女の館に訪れた。

2022-07-11 12:51:21
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

確かに魔女の伴侶達は皆美しかった。そして全員が力強く気ままであり、もはやそういう人知を越えたものとしてエイルは理解せざるを得なかった。触らぬ神に祟りなし、と言うには触りすぎているが。

2022-07-11 12:52:23
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

中でも気の良い乙女はエイルを背にのせて空を飛ぶことがあった。猟師であった頃からエイルは鳥に憧れていた。自由に見えたのだ。飛ぶために命を削り、わずかな気流に乗り、それはギリギリの飛行であったとしても、だ。地を這い、売られそうになり、生きるにさえ困る自分よりは、飛べる鳥の方が良い。

2022-07-11 12:53:44
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

空はエイルの憧れだった。黒玉の乙女はぼんやりと何を考えているか分からないようだったが、エイルを背にのせてくれることが多かった。時々山でエイルを降ろし、連れ帰るのを忘れることがあったが。

2022-07-11 12:54:29
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

黒玉の乙女はエイルの仕事にもついてくるようになった。なぜかと聞くと暇だから、と答えた。事実、ついてくる途中、魔女に会いたくなった、と帰ることもあった。自由な乙女だった。

2022-07-11 12:55:10
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

黒玉の乙女はエイルよりずっと腕っぷしが強かった。だから古代の遺跡に侵入することもできるようになった。もちろん競う同業者もいたが、黒玉の乙女がいれば何ら問題はなかった。

2022-07-11 12:56:05
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「ダハハハハ!! ここの遺跡はダーボン夫婦のものだって決まってんだよなぁ! なあ母ちゃん!!」 「そうだよそうだよそうだねぇアンタ!!」 「オニキス、頼むよ」 「んー」 黒玉の乙女はならず者の夫婦を二人まとめて担いで外に捨てられるほど力が強かった。

2022-07-11 12:57:33
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

そうして空飛ぶ鉄を見つけた。エイルはその価値が分からず、とにかく黒玉の乙女と二人で見つけたのだから山分けをするべきだ、と魔女の館に持ち帰ったのだ。

2022-07-11 12:58:25
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

その時代、空は神秘がまだ色濃く、人間が飛ぶことは稀だった。空にはまだ大地が飛び、意思を持つ嵐が天空の島を守っていた頃の話だ。

2022-07-11 12:59:22
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

持ち帰った鉄の塊は魔女が暇潰しに見てくれると言う。その晩、黒玉の乙女が秘密基地にしている天井裏にエイルは寝泊まりをした。黒玉の乙女が窓から外をじっと見ている。

2022-07-11 13:31:20
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「なんだい、今度はクワガタでも飛んでんのかい? 取ってきてやろうか?」 黒玉の乙女がふるり、と首を振って空を指した。 空には巨大な雲が渦巻き立ち上っている。 「……あぁ、竜の巣か、数日は酷く雨になるな、しばらく泊まらせてもらうよ」

2022-07-11 13:33:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

巨大な渦巻く雲は、雨をもたらしてもけして小さくはならない。尽きること無い風雨その物だった。あれはとてつもなく巨大な竜の吐息だということで、いつしか竜の巣と呼ばれていた。

2022-07-11 13:35:38
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

黒玉の乙女はじっと竜の巣を見ていた。多分、特に意味はなかったか、あるいはその独特の直感が何かをとらえたか。

2022-07-11 13:36:12
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

近い未来に彼女達は竜の巣の中へと侵入することになる。

2022-07-11 13:36:31
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「これで、飛べるって?」鉄の塊をエイルは叩いた。 丸い胴体の先にはくるくると回る数枚の板がついている。胴体からは鳥のような翼、それも鉄製の翼が生えている。どうも飛べそうにない。鉄にしては確かに不思議と軽いのだが。 魔女は何も言わずにこくりと頷いた。 黒玉の乙女は無意味に真似をした。

2022-07-11 20:07:43
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

「もう直ってる」 「おいおい、冗談言っちゃぁいけないよ。アンタの魔法がかかった品なら確かに飛ぶんだろうけどさ、こいつは遺跡から掘り出した鉄の塊だよ? アンタみたいな超人の魔法がかかってる訳じゃないし、どうやったらこんなもんが飛ぶって……」 がん、とエイルが鉄の塊を蹴った。

2022-07-11 20:09:05
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

途端、ぐるるるる、と唸り声のような音をあげ、先端の板がくるくると回転し、勢いよく鉄の塊は動き出し、低空を滑空して魔女の館の壁を破壊して止まった。

2022-07-11 20:09:55
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