クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二部「キョート殺伐都市」より:「クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド」#3

2011-09-18 18:43:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴギン!ガン!ゴギン!ガン!ゴギン!ガン!耳をつんざく機械音とセントー(訳註:銭湯か)めいた蒸し暑さがアンダーガイオン第13レベルを支配していた。恐ろしい騒音は司令室にも届いてくる。コブチャを手に、落ち着かなげに行ったり来たりするのは、真鍮色のニンジャ装束を着たニンジャである。

2011-09-18 18:55:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ええい!この劣悪環境!息が詰まる事このうえない」真鍮色のニンジャは苛立たしげに吐き捨てた。司令室には彼の他、UNIXに向かう数人のエンジニアがいた。真鍮色のニンジャの癇癪を恐れ、彼らは一心不乱にタイピングを続けている。「何とか言わんか!」「アイッ……ええ、息が詰まります……」

2011-09-18 19:03:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

真鍮色のニンジャは舌打ちした。「下劣な下層民の吐き出した二酸化炭素がまだこの大気中に残っている事を考えるだけで虫唾が走るというのに」「ま、まったくでございますね……」タイピングを続けながらエンジニアが相槌を打つ。「無駄口を叩くな、下郎!」「アイエエエ!」理不尽!

2011-09-18 19:14:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「入念にやれよ。入念にな。だが迅速にやれ。わかっておるな」真鍮色のニンジャは哀れなエンジニア達を脅した。「ダークニンジャ=サンに恥をかかせるような事があれば絶対に許さぬぞ」その時、背後のカーボンフスマ戸が開いたのである。「……そう苛立ったものではない。トゥールビヨン=サン」

2011-09-18 19:19:07
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「ダークニンジャ=サン!これは!」真鍮色のニンジャ、トゥールビヨンは弾かれたように振り返ると、素早くオジギした。そして手にしたコブチャを慌てて近くの戦略机に置いた。「メディテーションはもうよろしいのですか?」「うむ」「よくぞこの劣悪な環境下で……」

2011-09-18 19:22:41
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「稼働テストの首尾はどうだ」「はっ!万事うまくいっております。一分一秒の遅れもなく、奴らに鉄槌を下すことができましょう!」「下層民の排除は主目的ではない。エレベーターの建造だ。わかっているとは思うがな」「その通りでございます!気が急きました!」トゥールビヨンはオジギした。

2011-09-18 19:26:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前も休んだらどうだ。スシもある。地底ストレスは実際相当なものだろう、誰にとっても」「そんな……勿体無いお言葉です」トゥールビヨンは震えた。その声は若く、眼差しは真っ直ぐで、意志の強さを感じさせる。だがそれは同時に、どこかしら危うさにもつながっているようだった。

2011-09-18 19:36:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トゥールビヨンは実際若いニンジャだ。だがそのワザマエはギルドの覚えもめでたく、既にマスター位階を授かっている。年に似合わぬ実力と、それを自覚する事による鼻持ちならない自信が、彼のパーソナリティを形作っていた。そんな彼が、ダークニンジャに対しては半ば崇拝めいた気持ちを抱いている。

2011-09-18 19:49:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(彼こそはまことの英雄だ)トゥールビヨンは考える。(任務遂行に際して一切の私情を挟まず、信じられぬカラテのワザマエを持っている。おお、あのパラベラムを葬った回し蹴りの、なんと鮮やかだった事だろう!そして常に目上の者を立て、目下の者を気遣う奥ゆかしさ……なんたる器の大きさ!)

2011-09-18 19:59:38
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それに引き換え、なんと卑しき連中だろう!トゥールビヨンは背中を丸めてタイピングするエンジニアを睨んだ。ニンジャの中にも軽蔑すべき連中は幾らでもいるが、こいつら非ニンジャはそれ以下の堕落存在、生まれながらの奴隷だ。ましてや、この足の下でムカデめいて蠢いている下層民と来たら……!

2011-09-18 20:13:19
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彼は吐き気をこらえた。信じられない!早く根絶やしにしたい!……トゥールビヨンはガイオン地表、富裕層の生まれである。事故で両親を失ったその日に、彼はニンジャとなった。家族を殺したのは地下人の運転するバスだった。運転者は運転中にカロウシし、両親を巻き込んだのだ。

2011-09-18 20:22:46
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「全景です」エンジニアがダークニンジャに話しかける声が彼の白昼夢を破った。ダークニンジャはUNIXモニターに映るカメラ映像をエンジニアと共に眺めていた。そこには超弩級ハンマーシリンダー「ベヒーモス」の怪物的な巨大シルエットが映し出されている。まるで製鉄工場のような威容だ。

2011-09-18 20:50:58
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機構の上部は上の第12層をぶち抜いている。オムラ・インダストリによるこのたいへん大掛かりな破壊装置はただこの一つしか存在しない。掘削現場でスモトリがあらかじめ分解されて運ばれたユニットを建造し、運用するのだ。鋼鉄ハンマーを垂直に突き下ろし、14層、15層をブチ抜く。住人は死ぬ。

2011-09-18 21:08:04
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「トゥールビヨン=サンが仰ったように、ベヒーモスの起動は予定通りのスケジュールでいけます。その後、最下層への直通エレベーターを通すわけです。例の遺跡へ」エンジニアが言った。トゥールビヨンは熱っぽくダークニンジャに言う。「そうです!そしてお望みのウミノ・スドも到着しております!」

2011-09-18 21:13:27
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「ウミノ=サンを?」ダークニンジャはトゥールビヨンを見た。「よく見つけて来られたものだ」「そ、それはもう!」トゥールビヨンは感激して答えた。ダークニンジャは呟く。「実際、彼が適任なのだ。コフーン遺跡の実在が確認される以前から、彼はその存在を示唆していた。学術的な積み重ねでもって」

2011-09-18 21:23:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「噂をすれば、です」トゥールビヨンはIRC通信のノーティスに注目した。出入り口を指差す。カーボンフスマが開き、ネルシャツ姿の痩せた中年男が姿を現した。顔面蒼白、着の身着のまま連れてこられたといった体(てい)である。クローンヤクザが両脇に立つ様は、ほとんど囚人の護送めいている。

2011-09-18 21:33:55
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「ドーモ、ウミノ=サン。ダークニンジャです」ダークニンジャはアイサツした。「話は正しく伝わっているか」ウミノはおどおどと室内を見渡し頷いた。「そのう……まさかこれ程大規模な掘削が本当に現実のものとなるとは……」「貴方にとっては自説の裏付けの機会と言えよう」ダークニンジャは言った。

2011-09-18 21:59:56
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「実際願ったり叶ったりではないか?貴方には名声と報酬が残る。しかもノーリスクだ。コストは全て我々が負うのだから」「それは……その通りではありますな……」トゥールビヨンは怯えるウミノの態度を軽蔑し、密かに舌打ちした。ダークニンジャ=サンがこれほど丁重に接していると言うのに、何様だ!

2011-09-18 22:11:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「聖なるヌンチャク」ダークニンジャは単刀直入に言った。「コフーン遺跡に安置されているのは聖なるヌンチャク……そして残る二つの神器の在り方を示唆する古文書が必ず存在するはずだな」ウミノは驚いて瞬きした。「その通りです。なんと。既にそこまでご存じとは。一体貴方は……」「……」

2011-09-18 22:25:17
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「……客人に椅子をお出ししろ、バカめ!」トゥールビヨンはクローンヤクザを叱責した。そしてダークニンジャの邪魔にならぬよう、フスマを開けて退出した。彼は廊下の突き当たりのノレンをくぐり、タタミ敷きのメディテーション・ルームに入室した。部屋の中央で中腰姿勢を取り、カラテを構えた。

2011-09-18 22:39:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……イヤーッ!……イヤーッ!……イヤーッ!……イヤーッ!」右拳。左拳。右拳。左拳。トゥールビヨンは正拳突きを虚空に向かって繰り出し続けた。

2011-09-18 22:42:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴーン、ゴーン……ガゴーン。重苦しい軋み音が低い層天井に木霊する。その響きに混じって、お決まりのニュース警告音声、コマーシャル音が聞こえてくる。「第7層のイーグル門付近で百人規模の暴動……鎮圧され……」「アカチャン……」ここは中層の最深部、すなわち第9レベル。

2011-09-18 23:38:56
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ボロ布ポンチョや編笠姿の労働者達が、互いに言葉を交わす事も無く行き交う。その無言の疲労と絶望のアトモスフィア……同じ「中層」でも、第2層とはまるで異なる世界だ。なにしろここからの降下は、市民にとって人生のデッドエンドを意味する。この地面のすぐ下から「下層」が始まるのだ。

2011-09-19 00:21:53