【灰色の鳥たち】福間健二 #k2fact337

福間健二 @acasaazul

一九六七年の窓から見えていた羊たち。あげるよと言われて、重力を忘れた。月光のさしこむ作業場で処分されたのは若い肉だけではなく、願われたとおりに川から出てきた裸のジェニーのその後。検査、好きなわけではないが、なにかわかると思って裏舞台の死んだ草を踏んだ。（灰色の鳥たち１）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

嘘を言いたい。嘘を言いたくない。同じ舌からの浮遊が正反対の汚れを招いて、一九七二年のマーク・ボランの肋骨に雨を降らせる。ほっそりしたミューズのジェニーを突き刺す。武道館の前の、第三の感情。牽引されすぎて、表と裏をまちがえることが問題だったわけではない。（灰色の鳥たち２）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

電話はしないで、ありあわせの材料のサンドイッチを食べる他者の真実に驚きたかった。胴体着陸、苦痛についてもセックスについても予想は外れろ。暗くならないうちからの蒸発。ガラス質の自由が残ったとする。地上十二階のジェニー、どう壊れる。三日目の熱、上げたい。（灰色の鳥たち３）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

世間話の階段と道。一度は壊れ、それからどう生きのびるかという問いの積分で、滑りやすいが、腹話術の手もあった。暗闇のなかでおこったことを、小さな耳をもつ者に。交響曲を解説するみたいに。対話しない二つの石のあいだに降りるのではすまないジェニーの動物性だ。（灰色の鳥たち４）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

ぼくのようなラッキーボーイはいない。半世紀以上詩を書いて何度も凝りかたまった股関節、故障はするけどそれをまた柔らかくする電撃が夢の空から降ってくる。危ないか。絶壁には、目をつむるジェニーに乗りうつる一九六二年のシルヴィアの心にとりついた灰色の鳥たち。（灰色の鳥たち５）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

急に停止し、別の生を思ってすくった砂に混ぜるものがない。革命家やめて働いて十年で三千万円貯めてそれ全部フィリピンで毟りとられた男の喜劇をだれに言おう。逃げ道を複雑に作りすぎた東京はよそよそしいだけ。詩を読むジェニーがきれいになったのも見逃している。（灰色の鳥たち６）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

生きることへの執着。それ以外に脱ぐものがなくなった斜面で拾った枝がまだここに。一九七八年の懐中電灯が照らした顔の記憶とともに。次々に変わる目的地、密室の交渉、悪党島、退屈な音楽。暑い夏に亡くなった人たちの名前も浮かぶが、ジェニーはかれらの妹ではない。（灰色の鳥たち７）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

同類の孤独。一緒にいるだけでストレスだけど、博士たち。ブツブツ言いあって議題にたどりつかない会議。三日目の針が通らない。灰色の鳥の数は増えて、電撃なし。ここに来たくて来たくてやっと来たなんてことはないという顔のジェニー。お祭りの晩は振動に幻滅した。（灰色の鳥たち８）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

流れる水の音がやみ、硬いものが硬いものの上を動き、ぼくにはまだ運命と技術をつなぐ手足がある。古典的に、通りぬけなくていい場所は明るいのだ。一日一日の、ジェニーの小さな変化。なにか生えている。だれに、二〇二二年の何が見えない人に、それを告げるのか。（灰色の鳥たち９）#k2fact337

福間健二 @acasaazul

暗くなると現れるもの。それと過去の記憶、それとその犠牲になるもの。交錯する夜のどこかに連れ戻されるジェニーとのセットは終わった。目ざめるということ。きょうもぼくは動物で人間だ。ロードバイクに初めて乗る。灰色の鳥たち、ついてきたいならついておいで！（灰色の鳥たち10）#k2fact337