創作企画「文披31題」2022.7 参加作品

リュカ @ryuka511

初っ端から日付が変わってますが、今月は #文披31題に参加します。 完走できるといいなぁ。 初日のお題は｢黄昏」 ではどうぞ(^o^)/ pic.twitter.com/VEJXByW7rC

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リュカ @ryuka511

この時間の空の色はあの頃を思い出させる。陽のある時は眠り、黄昏時に目覚め街に繰り出す。享楽に耽る人々は隙だらけ、魅了術も吸血も容易く行えた。あの頃は淋しかったのだ。君と出会うまでは。夜の街を楽しみながら、決して隙を見せない君の瞳は、黄昏時の色を湛えていて、私を惹きつけた #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女の部屋には美しい金魚がいた。高かったろうなどと問うと縁日の金魚掬いだと言う。幼い頃から共に過ごす家族なのだと、彼女は微笑んだ。長生きしないものと言われる縁日の金魚を、長い時間をかけ美しく育てた彼女に感服する。そして物言わぬ金魚を家族と言う彼女の笑みに、私の胸は痛んだ #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女と出逢ったのは夜の街だ。毒々しく煌めくネオンとけばけばしく飾り立てた人々で溢れる街は、彼女に似つかわしくないと思えた。声をかけたのは私からだ。淋しさから享楽に耽る者は多いが、彼女はそうではなかった。なら何故こんな所にいるのか。喧騒の中、理知的に話す彼女は謎めいていた #文披31題

リュカ @ryuka511

雨が降ると、いつも彼女は傘もささずに散歩をしていた。風邪をひくぞと言うと曖昧に笑い、ありがとうとだけ答えた。彼女の長い黒髪からしきりに滴る雫は、彼女と私の間に降る雨のようだった。それでも、温かい紅茶を淹れ差し出すと、嬉しそうにカップへ口をつけ、またありがとうと微笑むのだ #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女に線香花火という物を見せてもらった。彼女の故国の物だと言う。私の知る花火とは全く異なり、小さな火球が懸命に火花を散らす様は、何とも健気で儚く美しかった。闇夜に慎ましく浮かぶ花火は、君と似て美しいと言うと、わたしに夢を見過ぎだと呆れながらも、彼女は照れ臭そうに笑った。 #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女は絵を描く事も好んだ。仕上がった絵は無償で譲っていた。無償で譲るには勿体ない出来栄えだったが、彼女は気にしなかった。私を描いてくれた時、彼女は過去に一度は筆を折ったと、私と出逢ってまた描きたくなったと話してくれた。彼女の過去は未だに解らないが、その言葉を嬉しく思った #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女は神話や伝説も好み、故国のそれをよく聞かせてくれた。彼女によれば、今夜は天の川に隔てられたカップルが逢瀬を許された特別な日だと言う。ロマンチックだなと言うと、天界の民でありながら仕事を放棄したのだから自業自得だと答えた。意外とドライなのだなと、新鮮に感じたものだった #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女の黒髪はこの国では珍しい。その背でさらさらと揺れる黒髪に、多くの者が振り返った。中には不躾な口笛を鳴らす者もいて私は気が気ではなかったが、彼女は気にも止めなかった。嫉妬を顕にした私に、貴方以外に興味無いと彼女は真顔で言う。自分の余裕の無さに気づき情けなく思ったものだ #文披31題

リュカ @ryuka511

暑く寝苦しい夜に、彼女は団扇というものを作ってくれた。柄のついた畳めない扇といった所か。広げた細い木に貼った紙へ彼女自ら絵を描いた。なかなか丈夫で強く煽いでも壊れず、使い勝手がいい。何より彼女の描いた青い花が涼しげで美しい。かなり古びて色褪せてしまったが、今も私の宝物だ #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女に誘われ海に出かけた。陽射しが苦手な私はパラソルから彼女を見つめていたが、暫くして彼女はくらげに刺されたと戻って来た。くらげは毒を持つので心配していると、彼女は無邪気に笑い綺麗で思わず近づいたと言う。好奇心旺盛なのはよいがもっと自分の身を大事にしてくれと嘆いたものだ #文披31題

リュカ @ryuka511

庭で絵を描く彼女を緑陰から見つめていた。気を抜けば灰になりそうな暑さの中、彼女の集中力は途切れない。冷えた茶を淹れ、そろそろ休んではどうかと声をかけた。頷く彼女へ、君は同族になっても太陽に愛されそうだと戯れに言う。試してみる?と不意に真顔で返され、動かぬ筈の鼓動が跳ねた #文披31題

リュカ @ryuka511

市場に出かけた時、彼女は青果店に目を止めた。この国にもすいかがあるのかと目を輝かせた彼女の為、一つ購入した。彼女の故郷では、すいかに塩をまぶすのが主流だという。驚いたがなかなか美味だった。彼女との日々は興味深い事の連続で、飽く程に永い生の中に様々な刺激をくれたものだった #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女はよく一人旅をしていて、旅先からカードを毎回送ってくれた。届く頃には帰ってきている事も多かったが、旅先の地を想わせる絵や切手にも彼女の拘りが伺えた。彼女の綺麗な字と詩人の様な文も相まって、それは一つの芸術作品であった。すっかり色褪せてしまったが、今でも私の宝物である #文披31題

リュカ @ryuka511

君の事を今も夢に見る。夕刻の微睡み、黄昏時を過ぎた幽暗の世界に君はいる。覚醒すれば消えてしまう、夢の中の君。だが目覚めを拒むのは間違いだ。あれから永い時が流れたが、君の姿も声も鮮明に思い出せる。君がもし、私と同じく悠久の時を生きているのであれば、また同じ日々を生きたい #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女はずっと独りで生きてきたという。家族も友人も無く、他者とは利用するものだったと。自ら孤独を選んだ私と違い、なみなみならぬ苦労があったろう。私の事も利用する気で近づいたが、今は出逢えて良かったと言った。私の何が彼女を変えたか解らないが、二度と彼女を独りにしないと誓った #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女は錆びた古い鍵を大切に持っていた。装飾品ではなく本物の鍵のようだ。どこの鍵かと問うと、自分を行くべき所へ導いてくれる鍵だと言った。それは私の所ではないかと言えば、そうかもしれないし違うかもしれないと言った。流れるように生きてきた彼女を、私の元に留めたいと切に願った #文披31題

リュカ @ryuka511

異国の響きを持つ彼女のその名前は、私には発音の難しいものだった。何度も練習すると彼女は照れ臭そうに笑い、呼びやすいように呼んで構わないと言った。愛しい人の名をきちんと呼びたいと何度も練習した。漸く正確に呼べた時、彼女は自分の名も私が呼ぶと美しく聞こえると嬉しそうだった #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女の瞳は黄昏時を過ぎた空のような色をしていた。彼女の故国では群れる青と書いて群青と呼ぶのだという。彼女の黒髪と相まってとても美しいのだが、彼女自身は故国では忌み嫌われた色だと嫌がっていた。私は君の瞳は美しいと褒め続けた。彼女の傷が癒えるように、彼女が自身を誇れるように #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女の肌に初めて触れた時、まるで氷のように冷たかったのを覚えている。吸血鬼である私の肌も冷たいが、彼女はそれ以上だ。季節は夏だったが、思わず寒くないかと聞いた程だ。彼女は大丈夫だと笑ったが、一瞬表情を硬らせた。彼女の中の触れてはいけない何かに、触れてしまった瞬間だった #文披31題

リュカ @ryuka511

その日は空に巨大な積乱雲が浮かんでいた。雷雨になりそうだから早く帰ろうと彼女の手を引いたが、彼女は惚けたように雲を見つめていた。彼女の故国では入道雲と言い妖怪にも例えられたという。私は自身も人に在らざる者だというのも忘れ彼女の手を強く引いた。そんなものに魅入らないでくれ #文披31題

リュカ @ryuka511

あれは夏の短夜の夢だったのか。君を同族に迎え共に生きたいと求愛し、正式な手順に則り慎重に吸血した。彼女も私に身を委ねてくれた。だが、彼女は吸血鬼化しなかった。愕然とする私に、彼女は気に止むなと言った。自分は何者にもなれないのだと言う彼女の悲しげな笑みが、今も私の胸を刺す #文披31題

リュカ @ryuka511

彼女が残した有形無形のもの達は、私へメッセージを放っていた。それは愛であり感謝であり、或いは詫びであり惜別でもあった。彼女は間違いなく私を愛してくれていた。それ故に、私の前から姿を消したのだろう。だが私の意思を聞いてくれてもいいだろうに。私の愛は、彼女を救えなかったのか #文披31題

リュカ @ryuka511

部屋に飾る花を探しに市場へ行った時、彼女はひまわりは苦手だと言った。ポジティブを強要されるようで辛いと言う。私も太陽に向かって咲くこの花は苦手だと言ったら、気が合うねと彼女は笑った。だが、彼女の抱えた闇は私のそれよりずっと深かったのだと、気付いたのはずっと後になっての事 #文披31題

リュカ @ryuka511

ある夜。彼女の絶叫に飛び起きた。仕切りに何かを否定し彼女は震えていた。大丈夫だ、私がいると静かに繰り返し声をかけると、彼女は次第に落ち着きを取り戻した。昔の夢を見たのだと、もう大丈夫と彼女は弱々しく微笑んだ。彼女を苦しめ続けるその過去を、私は最後まで知る事ができなかった #文披31題