【ある冒険者の挑戦】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の挑戦1】強大な獲物、過酷な土地、自身の限界。今も昔も東西問わず、冒険者たちはあらゆるモノに挑み続けた。ある者は言う。私の成功は挑戦から始まったと。ある者は言う。奴の人生は挑戦して終わったと。そして今日もまた一人、新たな冒険者が目的を果たすため、何かに挑み始めた。

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【ある冒険者の挑戦2】「物書きのネタ探しのために冒険者になったのに、ネタがない。困った」 「そう難しく考えることもありませんよ。普段受けてる依頼とか、失敗談とか、食事について書くのも良いでしょう」 「そんなもので読者に受けるか？」 「ええ。書いてみれば、案外読んでくれるものですよ」

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【ある冒険者の挑戦3】お前には無理だ、諦めろ――あの言葉に反発し森に足を踏み入れた判断が誤りだったと気付いても、既に手遅れだった。なぜ俺は意地など張っ 「あんたが煽れば俺ら救助隊が儲かる。ほら今回の取り分だ」 「私は適切な助言を与えているだけなのだが」 「そのままのあんたでいてくれ」

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【ある冒険者の挑戦4】「8、9、10……もう限界……」 「素振りも満足にできんようでは冒険者など無理だ！」 「998、999、1000……休憩……」 「貴様のような未熟者は羽虫以下だ！」 「999998、999999、1000000……疲れた……」 「今お前は獣の餌になった！」 （あの人たち何を目指してるの……）

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【ある冒険者の挑戦5】「えっ！ 命綱も使わず崖登りを!?」 「できません！」 「うむ、それで良い。勇気と無謀を勘違いした奴が真っ先に命を落とす界隈だ。貴様らは間抜けな意地っ張りにはなるなよ」 「ﾜｶﾘﾏｼﾀ（あ、危ねえ……勢いで「やってやる」とか言うとこだったぜ）」 「？ 顔色悪いよ？」

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【ある冒険者の挑戦6】その様子だとまた脱出に失敗したようだね。ここが『迷宮』と呼ばれている理由、もう理解できたと思うけどいかがかな？ なあに、ここには魔獣も湧いてくるし植物も育つから食料には困らない。脱出は諦めて僕みたいにここで暮らすのもいいと思うよ。裏口から町にも出られるし。

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【ある冒険者の挑戦7】「この土地一面を花畑にするって、友達と約束したんだ」 「この広さじゃ一生掛かっても無理だろ」 「そう、だから続きは僕の子孫に任せるつもりだよ。彼女は長命なエルフだから、孫くらいの代でもきっと間に合うさ」 「この鈍感野郎（そうか、期待に応えてやれよ）」 「!?」

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【ある冒険者の挑戦8】「俺の故郷では成人の儀として何かをしないといけないんだ」 「何かって何？」 「自分が納得できるなら何でもいいらしいんだけど、これが思いつかなくて……」 「竜退治」「死ぬ」「狼退治」「納得しがたい」 「じゃあ目標探しを成人の儀にすればいいよ」 「なるほど！」

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【ある冒険者の挑戦9】「学者になりたい」専門教育もまともに受けていない彼の言葉を聞いた誰もが耳を疑い、無謀だと思った。しかし冒険で鍛えた足腰と好奇心により深められた見識によるフィールドワークでの活躍は目を見張るものだった。彼は今日も先輩学者に活き活きと問う。素人質問で恐縮ですが――

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【ある冒険者の挑戦10】「こうして各地を旅するのも修行の一環ですよ。料理人としての、ね」 「そのうち一流の冒険者になりそう」 「残念。そっちの才能は今ひとつなのです」 「で、料理のほうは上達できそう？ 鑑定眼とか、刃物の扱いとか？」 「毒に強くなりました」 「才能あるんじゃないかな……」

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【ある冒険者の挑戦11】地図も持たず行き先も決めず、風の吹くまま気の向くままに旅をする生き方に憧れる冒険者がいる。そんな無謀に挑んでしまうのは、旅の最中での行き倒れが誰にも知られないからだろう。運が良ければ誰かが捜索願いを出すかもしれないし、亡骸を発見してもらえるかもしれない。

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【ある冒険者の挑戦12】「こんな嵐の中で船を出すなんて正気とは思えないな」 「こんな嵐の夜にしか現れない獲物なんだから仕方ないだろ」 「金のためなら命も投げるとは、イカれた奴だよお前は」 「そんな俺に付き合うお前もな」 「山分けしたって一生遊んで暮らせるんだ。乗らないわけないだろ？」

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【ある冒険者の挑戦13】「私生活を暴くって意気込んで張り込んだ矢先に、まさか居眠りとはねえ」 「おっかしいなあ。前もって寝てたし眠気覚ましも使ったのに……」 「危険がないからって気が緩んでたんだろ」 それは居眠りではなく当て身による気絶であることに、彼らが気付くことはなかった。

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【ある冒険者の挑戦14】異界にのみ群生する希少植物の採取。覚悟を決めて依頼を受けたが、百戦錬磨の仲間たちが浮かべる表情に余裕はない。ならば私は団の長として、少しでも生還率を高める手段を取らねば。魔人や巨獣をも一撃で退けた、最終手段を用いてでも―― 「おや、僕の料理をご所望かい？」

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【ある冒険者の挑戦15】「お嬢様の護衛……随分な額だが、我儘でも聞かされるのかねえ」 「……君ならその心配は無用だね」 「？」 「少々腕を確かめさせていただきますよ」 「おいおい執事さん無理すんなって」 「お嬢様、今回も不合格でした」 「ちょっと！ いつになったら外出できるんですの!?」

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【ある冒険者の挑戦16】「僕、この依頼を一人で成功させたら故郷に帰って結婚するんですよ」唐突な告白に仲間たちは大騒ぎ。考えに考え出た結論は『依頼の成功を全力で支援せよ。ただし絶対に気付かれてはいけない』竜との対峙よりも、大海原での遭難よりも大きな緊張が熟練冒険者たちを包みました。

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【ある冒険者の挑戦17】駆け出しにありがちな『誰にも頼らず』『自分の力だけで』だが、自分で作ったわけでもない装備のことを指摘すると誰もがあれこれ言い訳を並べ始める。しかし奴は違った。武器はおろか服さえも捨てて、本当に身一つで一歩を踏み出したんだ。思ったよ、本物はいるもんだってな。

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【ある冒険者の挑戦18】『魔王と勇者』大会。勇者役と魔王軍役が戦い、勇者が全滅するか魔王を討ち取れば決着。教会も協賛しており、戦死を気にせず戦うことができる。 「……参加者いるのか？」 「皆さんだいぶ乗り気ですよ。聖戦の再現だ！ って感じで、全力が出せるチャンスだとか言ってます」

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【ある冒険者の挑戦19】「いつか騎士団に入団するのが僕の夢でね」 そう語るのは私の幼馴染みだ。座学に苦戦している彼も今じゃいい歳だが、目標に向かって走り続ける姿勢は見習いたい。――あれから数十年。孫に世話されるばかりの私と違い、あいつは今も参考書を片手に夢を追い続けているようだ。

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【ある冒険者の挑戦20】放棄された鉱山に硬い音が鳴り響く。とうに金は掘り尽くされたという人々の言葉を、彼は信じなかった。出る前に諦めた奴らの言葉に耳を貸す必要はない、出るまで諦めなければ必ず出る。彼が信じたのは自分自身の決意だった。 「で、何か出たのかい」 「死体が一つ」

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【ある冒険者の挑戦21】「冒険は許可しますが人前では極力、弓以外の武器は使わないようにしてくださいね」 「なんでそんな縛りを……得意だからいいけどさ」 「あくまで我々エルフは非力、細腕では剣もろくに振り回せないというイメージが崩れるからです」 「日頃から剛弓を速射しといて非力も何も」

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【ある冒険者の挑戦22】城下の繁華から辺境の寂寥まで、各地を余すことなく渡り歩き詩を紡いだ吟遊詩人。死後も語り継がれるその詩が巧妙に隠蔽された暗号であることに気付いた者は未だ現れていない。あらゆる国家が混乱に陥るという情報が暴かれる日を、彼は死者の国で待ち侘びているかもしれない。