ドスケベうさぎメスケモとすけべする小説 第六話 最終回
結論から言うと、傷は大したことなかった。 数センチ刺さっただけで、内臓には達していなかった。 俺が気絶したのは、おそらく刺されたと認識したショックと、血を見たショックかららしい。肝の小ささが知れてしまう。 救急車を呼んでくれた先輩には感謝しなくてはいけない。
2022-09-11 22:32:45一日で退院できるようなので、良かった。それよりおじさんは捕まったんだろうか? 「ダイスケ!」 アイリーが病室に入ってきた。 走ってきたのか息を切らしている。 みるみるうちに顔がぐしゃぐしゃになり、大量の涙が溢れ出す。俺に突進して抱きついてきた。 「うわああああああああああああああん」
2022-09-11 22:33:21病院中に響き渡る声量で泣き出した。 「アイリー、病院だから静かにしようね」 「死んじゃやだあああああああああああ」 「死なないよ、生きてるよ」 「あああああああああああああああああ」 この子を守れてよかった。一歩間違えば、この子が刺されていたかもしれないのだ。
2022-09-11 22:34:02ちゃんと、彼氏として面目躍如できただろうか。 アイリーを抱きしめると、ぐずぐずと言いながら頭をゴリゴリと擦り付けてきた。 「やだあああ……」 「大丈夫だから……ほら、鼻水拭いて」 顔の穴という穴から汁を出したアイリーにティッシュを差し出す。 「あのおじさんはどうなったの」
2022-09-11 22:34:28「……ひっぐ、ぐすん、ダイスケえ〜」 「よしよし、もう大丈夫だから」 「よっ、生きてるか!」 「先輩」 先輩が部屋に入ってくる。目の下にくまが出来ている。寝ずにアイリーに付き添ってくれたのかもしれない。 「やるじゃねぇか。見直したよ。体を張って女を守るなんて男の鑑だな」
2022-09-11 22:34:57「いえ、それほどでも……先輩、救急車呼んでくれてありがとうございます」 「いいってことよ、ついでに警察も呼んでおいたぜ。あのおっさん、逃げたけどすぐ捕まったよ」 「良かった……」 少なくとも、また狙われることはないだろう。
2022-09-11 22:35:28間接的にとはいえ、アイリーにパパ活を辞めさせたのは俺だから、今回の件は俺にも責任がある。 「ごめんねアイリー」 「ダイスケぇ、やだぁ、死んじゃやだよお」 「大丈夫だから……泣き止んで?」 「愛されてるなぁ、邪魔者は早めに消えるぜ。バイビー」 「先輩、それ死語」
2022-09-11 22:36:01カッコつけて人差し指と中指をシュッと切る先輩は、いまいちカッコつけきれてないけど、ホントはカッコいい人なのかもしれない。俺は先輩の背中に頭を下げた。 ーーーー
2022-09-11 22:36:23退院して間もなく俺はバイトに復帰した。先輩が吹聴したのか、俺は彼女を体を張って守った英雄と言う扱いになっており、なんとも恥ずかしくむず痒い気分になった。 「よう色男」 「彼女さん羨ましい〜」 ラビノイド否定派だった女性も、見る目が変わった。
2022-09-11 22:36:55「モテなくて冴えないからすぐやれるラビノイドに手を出した男」から「ラビノイドでもちゃんと愛して守る男」に。 ただ一名を除いて。 「ダイスケくん、大変だったね」 「ええ、まあ」 「……そんなにセックスできる相手が大事?」 反ラビノイド団体の同僚だ。相変わらず視線は冷たい。
2022-09-11 22:37:26「……俺は、ちゃんと愛してるつもりです。体だけでなく」 「……情が湧いたのかも知れないけど、また似たようなことは起きるわよ。パパ活や風俗やっている以上はね」 「警察にも話してます。しばらくパトロールも強化してくれるみたいです。防犯ベルも渡してます」
2022-09-11 22:37:55「ラビノイドに、命をかけて守る価値、あるの? やつらは侵略者よ?」 「侵略者って……俺たちは共存できてる!」 同僚がため息をつく。 「いい、金玉に脳みそが詰まってるバカ男でもわかるように説明するわね?」 酷い言われようだ。
2022-09-11 22:38:28「ラビノイドメスと人間オスが子供を作ったら、生まれるのはラビノイドだけなの。そして地球にはほとんどラビノイドメスしかいない。これがどういうことが分かる?」 「ラビノイドから……人間は生まれない?」 「そう、これが全世界で起こってるのよ?」
2022-09-11 22:39:44人間とラビノイドが結ばれて、ラビノイドが生まれる。ラビノイドとラビノイドが結ばれてもラビノイドが生まれる。人間が生まれるケースは人間同士だけ。しかし、人間は簡単に接触できるラビノイドに惹かれる。 「人間が生まれない」 「そう、地球はラビノイドで溢れかえる。人間はいずれ淘汰されるわ」
2022-09-11 22:40:26それは……確かに『侵略』だ。 「脳みそが性欲に支配されたバカな男が気付いてないから、私達みたいに"目覚めた"人間が声を上げてるの。法律でも物理的にでも……軍隊を引っ張り出してでも、ラビノイドの存在を規制しないと、地球人は絶滅する。共存は不可能よ」
2022-09-11 22:40:50アイリーが最近、会ってくれない。 また刺されたり、危ない目にあってほしくないかららしい。そんなことをしたらアイリーの方が危ないと思うのだが、アイリーは納得してはくれなかった。 LINEだけのやり取りは、やっぱり寂しいものがある。 『寂しいよ、顔を見たい』 素直に伝える。 『私もだよ』
2022-09-11 22:41:43アイリーも気持ちは同じらしい。 『でも、ダイスケが死んじゃうのは、やだ。怖かった。もう二度とあんな思いしたくない』 だからってこのまま会わないでいるのは、違う気がする。 『エッチしたかったら他の女の子と遊んでもいいよ』 『そんなことしないよ……』 ラビノイドの価値観は相変わらずだ。
2022-09-11 22:42:13『アイリーは他の男とするの?』 『しない。また怖い人に襲われるかもしれないから』 正しい選択だと思う。風俗の仕事も控えてるらしい。 『ダイスケ』 『なあに』 『愛してるよ……』 アイリーは可愛い。こんな侵略者なら、受け入れてしまってもいいかもしれない。 『俺もだよ』
2022-09-11 22:42:43会わなくなって一ヶ月だった。秋も深まってきて、そろそろハロウィンだ。 皮肉なことに、デートをしなくなった為、お金は貯まる一方だ。 しかし、ずっと当たり前に隣りにいた存在がいなくなってしまったようで、秋の涼しく物悲しい気候も相まって、胸にぽっかり穴が空いてしまったみたいだ。
2022-09-11 22:43:11「最近彼女とはどうよ」 あの日以来、先輩は俺たちのことをしきりに気にしてくれる。 「会えてないです。なんか、また刺されたりとかトラブルが怖いみたいで」 「そっかぁ〜、まあ、そうだよな。お前が刺された後、アイリーちゃん酷かったんだよ。半狂乱でさ。私のせいで! って」
2022-09-11 22:43:40「そうですか……」 「お前が死んだら後を追うんじゃないかって気が気じゃなかったよ。何事もなくて良かったぜ」 嫉妬心の弱いラビノイドの価値観からしたら、嫉妬で相手を刺すなんて信じられないだろう。
2022-09-11 22:44:22地震を体験したことがない国の人が、小さくても地震を体験したら日本に来るのが怖くなるのと、感覚は似てるかもしれない。 痴情のもつれでの事件なんて、ラビノイドの星にあるんだろうか? 前にどろどろした昼ドラを見て、不思議そうにしていたので、ないのかもしれない。
2022-09-11 22:45:02「なあ、会いに行ってやれよ」 「え?」 「会いたいんだろ? アイリーちゃんも同じ気持ちだよ」 「……そうですね」 アイリーとのLINEを思い出す。文面から押し殺した寂しさが伝わってくる。 異性との交わりが日常のラビノイドが、それを我慢するなんて相当だろう。
2022-09-11 22:45:28