全人類を生きる私はまだ生後5ヶ月――「長期主義」の世代間正義論

William Macaskill, What We Owe the Future (Basic Books, 2022)のランニング・コメンタリー
13
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

[お買いもの] William Macaskill (2022) 𝘞𝘩𝘢𝘵 𝘞𝘦 𝘰𝘸𝘦 𝘵𝘩𝘦 𝘍𝘶𝘵𝘶𝘳𝘦, Basic Books whatweowethefuture.com 全人類の全人生を1人で生きると仮定した場合、私はまだ生後5ヶ月である――という思考実験から始まる長期主義(long-termism)の世代間正義論。

2022-09-24 21:13:58
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

イントロと chap.1 "The Case for Longtermism" 読了。事例も具体的で読みやすく、入門書的なものか。数万年単位の将来を気にかけることは現在の我々の福利にも資するという長期的な互恵性を考えていて、それは記憶の継承のようなあやしげなものではなく、技術的楽観主義に支えられているようだ。

2022-09-24 21:51:11
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.2 "You Can Shape the Course of History":著者は将来への避けるべき影響の特徴として重要性、持続性、偶発性の3つをあげる。農業は世界で多発的に行われたから偶発的でないが、しかし自然に大きな影響を与えるから重要だろう。責任主体をぼやかす要件にもなりそうだし、必要なんだろうか🤔

2022-09-25 14:42:11
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.3 "Moral Change":道徳的価値観はひとたび変化した後の将来的影響が予測しやすい(ので、運動として効率がいいし、この文脈では SDGs は有望なのか?)。ほか、文化進化論を参照しながら、生き残りやすい道徳とそうでないものの比較など。

2022-09-25 14:54:26
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.4 "Value Lock-In":人類の価値観はキリスト教やイスラム教、儒教など、主要なものが二千年レベルで固まってきた。しかし今後の AI の発展はもろもろ全部ひっくり返す可能性さえある。我々は可塑性の時代に生きているのであり、多様な可能性を開いておくべきだ。なんかスケールの大きな話。

2022-09-25 15:05:47
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.5 "Extinction":人類の絶滅シナリオについて。小惑星の衝突リスクはスペースガードのおかげでだいぶ低くなったが、他にも人の活動に由来するパンデミックや第三次世界大戦による絶滅リスクは決し低くないという話。covid-19 はもちろん、ロシアのウクライナ侵攻にまで言及がある。

2022-09-25 15:17:48
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.6 "Collapse":これまで人間の文明は何度かの危機に直面してきたが、そのたび回復してきた。現在の人口が1%まで減ったとしてもなお、知識の継承があれば回復可能かもしれない。しかし化石燃料の枯渇は文明の回復力を大きく阻害するだろう、ということで著者はそこが最大の懸念事項としている。

2022-09-25 15:28:25
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.7 "Stagnation":文明崩壊のリスクを抑えるためには技術の進歩が不可欠だが、しかしその速度は鈍化している。世界人口は2100年で頭打ちになると予測されているが、それは世界レベルでの研究力の停滞につながる。ということでこの章では技術よりも道徳的な進歩可能性に希望が見出されている感じ。

2022-09-25 15:36:37
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

chap.8 "Is It Good to Make Happy People?":人口倫理の難しさについて、非同一性問題と厭わしき結論を紹介。最も理論的な章とされているが、実際には批判的水準説を検討するぐらい。結局、わからないときにすべきことは人口を増やすことだ(!)として人口増加の正の外部性を強調している。

2022-09-25 16:34:17
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

著者は晩年のパーフィットに師事し、毎日同じ服装・同じ食事で哲学に打ち込んでいた様子が述べられている。3000語のレポートを送ったところ、すぐ 9000語の返答がきてビビったとか。その原動力は苦しみへの感受性であり、誰かの苦しみだけでなく、抽象的な苦しみを考えることにさえ涙したと。

2022-09-25 16:11:19
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

幸福な人を生み出す義務はないが不幸な人を生み出さない義務はある、というおなじみの中立性/非対称性論法につき、いうほど直観適合的でもないという(著者によれば唯一の)心理学の実験が紹介されている(Caviola et al. 2022)。 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34749045/

2022-09-25 16:44:57
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Chap.9 "Will the Future Be Good or Bad?":世界規模での幸福度調査によれば、人類の well-being はおおむね次の100年ぐらいは上昇するだろう。しかし動物も入れるとあやしくなる(ニューロン数で推計)。他方、技術や文化など非厚生的な財については楽観的に考えてもよいのでは、など。

2022-09-25 20:28:58
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Chap.10 "What to Do":地球の将来に向けたいろいろな活動の紹介。基本原則は3つあって、(1) 確実に効果があるとわかっていることは地道にやる、そうでないことについては (2) 選択肢を増やしつつ、(3) 継続的に学んでいくことが大切だそうです。

2022-09-25 20:36:30
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

というわけで読了。理論的な新味があるような本ではないが、心理学への言及が比較的多いことが特徴か。ほか、事例やデータがものすごく充実しているので、具体例をたくさん入れた話をしたいときには便利な本といえそう。入門書にいいと思うけど、350ページもあるので翻訳は難しいかしらん。

2022-09-25 20:40:18
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

翻訳が出るのか。 ウィリアム・マッカスキル『見えない未来を変える「いま」:〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』(千葉敏生訳、みすず書房、2024年1月予定) msz.co.jp/book/detail/09…

2023-12-21 22:10:07