茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第2924回「「なにものでもない漱石」の苦労とか悩み」

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茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート2924回をお送りします。文章はその場で即興で書いています。本日は、感想です。

2022-09-28 07:02:26
茂木健一郎 @kenichiromogi

このところお風呂で読んでいた夏目漱石の『道草』を昨日読み終わった。読むのは数回目だけれども、漱石の作品の中では比較的ヘビロテの回数が少ない方で、印象が新たになった。そして、やっぱり、ものすごく良かった。

2022-09-28 07:03:30
茂木健一郎 @kenichiromogi

漱石の『道草』は、James JoyceのA Portrait of the Artist as a Young Manに相当する作品かと思う。若き漱石が、学校で教える仕事をしながら、小説家としてのキャリアを確立していくまでの道筋。ただ描かれるのはほとんどが人間関係のしがらみの苦労だ。

2022-09-28 07:05:14
茂木健一郎 @kenichiromogi

実際には漱石も生活が苦しいのに、子どもの頃お世話になった養父がおかねをせびりにくる。最初の方で、道を歩いていて養父と出会った瞬間の記述が不気味で、『坑夫』で主人公の青年が口入れ屋のおやじさんに目をつけられるところにちょっとクオリアが似ている。

2022-09-28 07:06:18
茂木健一郎 @kenichiromogi

『道草』の中で、養父に金をせびられて困惑している主人公がときおり原稿を書いておかねをもらう、その作品は『我輩は猫である』だが、若き漱石が、自分が何をするべきか悩みながら次第に自分の道を見出していくそのプロセスは感動的だ。

2022-09-28 07:07:42
茂木健一郎 @kenichiromogi

ぼくが読んだ『道草』の文庫は、柄谷行人さんの解説がついているけれども、その中で、柄谷さんが、『道草』は『吾輩は猫である』と同時期のことを書いていながらそのトーンは対照的であるということの意味に触れていて、全くそのとおりだなあと思った。

2022-09-28 07:09:24
茂木健一郎 @kenichiromogi

夏目漱石のような偉大な作家でも、若いときは「なにものでもない」時期があって、その「なにものでもない漱石」の苦労とか悩みは、きわめて俗っぽい、しかも人間と人間がぶつかり合うことに由来するもので、誰でも共感できる側面が多いと何回目かの『道草』であらためて思う。

2022-09-28 07:10:45
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート2924回、『「なにものでもない漱石」の苦労とか悩み』をテーマに6つのツイートをお届けしました。

2022-09-28 07:11:28