Mr.ミラーボール

ミラーボールの異形頭と、ドレス姿の女の子。パーティー会場での一夜。
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前に語ってみた、ミラーボール紳士とパーティー会場で独りぼっちの女の子の話。
線画は出来たよ記念に、自分で作ってみた。

後半睡魔に襲われたから、二人称が「君」になってますが、「貴方」と脳内変換お願いしますorz

あと珍しく主人公視点で書いてます。一人称です。一人称の方が書きやすいですね、でも、心情を書ける範囲が決まってくるのが難点だ……。いや、私の書き方次第?


燦月夜宵 @iolite_N

私はこんなところで一体何をしているのかしら。高い天井にはいくつものシャンデリア、フロアを行きかうのは綺麗なドレスやタキシードを纏った人達。しかも、殆どが恋人達だと分かる。余っているのも見掛けるけれど、大体は既にパートナーを見つけていたり、話の合う者同士でグループになっている。

2011-10-02 22:42:21
燦月夜宵 @iolite_N

私? 私はこのパーティーに誘った相手にすっぽかされている。勿論こんな場所に知り合いもいなければ、話しかけに行く勇気もない。そもそもこういうパーティーで女性から話しかけるのは良かったことかも覚えていないから、いわゆる壁の花になっている。(花というほど、見た目は保証しない。)

2011-10-02 22:44:58
燦月夜宵 @iolite_N

私を誘ったのは同じバイト先の男子。チケットが余っているので何とか捌けさせたかったらしい。嫌だと断ったら、絶対俺も行くとか何とかせがまれてチケットを握らされていた。大体こういうことになるとは分かってたけれど、計画性のあるドタキャンなら会場に入る前に連絡をしてきたらどうなのよ。

2011-10-02 22:48:31
燦月夜宵 @iolite_N

周りはこの会場に慣れてるような、気品があったり、美人だったり、会社経営してそうな人もいる。レンタルドレスでメイクを頑張った女子じゃ此処は眩し過ぎる。ただ貰ったチケットや料理やお酒も勿体無いから、壁際で空になったグラスを遊ばせているだけ。大学生には早過ぎたわね。

2011-10-02 22:54:31
燦月夜宵 @iolite_N

「お嬢さん、お一人ですか?」指先から顔を上げると、そこには真っ白なタキシードに身を包んだ男性がいた。思わず口からこぼれる言葉。「Mr.ミラーボール……」「私をご存知でしたか、光栄です」彼の頭は、シャンデリアの光を乱反射させるミラーボール。女性なら1度は聞く噂の張本人がそこにいた。

2011-10-02 22:58:47
燦月夜宵 @iolite_N

知らない女性などいないだろう。どこのパーティー会場にも現れ、一人で寂しく過ごす女性に楽しみを与える。彼にかかれば年齢問わず誰もがプリンセスになる。そんな彼はこう呼ばれていたのだ、Mr.ミラーボールと。その当事者が自分になるとは思わなかった。開いた口が塞がらない。

2011-10-02 23:02:56
燦月夜宵 @iolite_N

私を見て、彼は笑う。「面白い反応をしますね、女性は私を見ると喜んで瞳を輝かせてくれますよ」「ごめんなさい、実際会えるなんて思ってなかったので……」「実際いるとも思ってなかったんじゃないですか?」図星だった。噂は噂で、本物などいるはずがないと思っていた。

2011-10-02 23:05:38
燦月夜宵 @iolite_N

彼が相手をするのは、此処で独りぼっちの女性だけ。「私、余り者ですし」「意外と冷静ですね」「自分の立場は分かってるつもりです」「なら、この際楽しみましょう! 辛いことも悲しいことも忘れて」彼が私のグラスにハンカチをかけ、素早く取り除く。そこにはロゼのシャンパンが注がれていた。

2011-10-02 23:11:00
燦月夜宵 @iolite_N

いきなりの出来事に驚く私に、相手は言葉を続ける。「お嬢さんのドレスの色が素敵だったので、お揃いにしてみました」「ふふっ、お上手なんですね」「本当のことですよ、乾杯していただけますか?」差し出されたグラスにも同じ色の液体が注がれている。私はこの紳士がすっかり気に入っていた。

2011-10-02 23:14:19
燦月夜宵 @iolite_N

「勿論、お願いします」「では、今宵のパーティーが貴方の糧になることを」乾杯。小さく音を立てて、ガラスの縁が触れ合った。お酒を楽しみながらミラーボールは私をエスコートしてくれた。何度も来ている会場のようで、勝手は知っているようだった。広い会場は堅苦しいだけでなく楽しさも溢れていた。

2011-10-02 23:18:09
燦月夜宵 @iolite_N

料理のオードブルには豆知識を添えて、来ている面々が誰か教えてくれたり。此処に来なかったら拾えない知識や楽しみ方、始まった頃が嘘みたいに視界に飛び込むものが全部近くで輝いているようだった。「……で、あっちを見ると……おや」「ミスター?」話しかけると、彼は顔の前で人差し指を立てる。

2011-10-02 23:22:25
燦月夜宵 @iolite_N

指示通りに黙ると、彼が私の手を引いてまた壁際に誘導する。何が始まるのかと思うと、場内のシャンデリアが1つ暗くなり、2つ暗くなり、フロアの真ん中だけが明るくなっていた。舞台にはオーケストラが指揮者の合図でそれぞれ楽器を構える。それを合図にぞろぞろと灯りの元に人が集まっていく。

2011-10-02 23:26:54
燦月夜宵 @iolite_N

「……ダンス?」「その通り、そろそろ終わりの合図ですよ。最後に1曲を共にして今宵の出来事を胸に収めるのです」なんともロマンチックな話だ。参加しない人もいるようだから、きっとこのパーティーに一緒にやってきた恋人達の為なのだろう。愛し合っているからこその思い出、少し羨ましい。

2011-10-02 23:31:17
燦月夜宵 @iolite_N

「踊りますか?」「え……はい?」「そうですね、踊りましょう」「え、で、でも私ダンス知りませんから!それに踊るのは大体カップルじゃ」「私を誰か知っていますか?」「ミ、Mr.ミラーボール」「そう、私は貴方をプリンセスにする為に一緒にいるんです」言うが早いか、彼は私を光の下に誘い出す。

2011-10-02 23:34:40
燦月夜宵 @iolite_N

踊り方を知らない私に、彼は優しく手を添える。「右手は私の左手に、左は私の腰に回してください」「だから私は、ステップとか……!」「大丈夫、私に任せてください。お嬢さんは私に全てを預けて、ゆっくりと右足から出して」落ち着いて相手の言葉を頭に入れた。それでも不安で仕方ない。

2011-10-02 23:41:52
燦月夜宵 @iolite_N

誰も見慣れた彼を気にしないが、姿勢すら分からない私は注目される。嫌だ、笑いものになりたくも彼をさせたくもない。俯けば優しい声が降ってきた。「そういえば、お嬢さんのお名前を教えて頂けませんか?」「名前?」顔を上げると、表情の分からないその頭。でも何故か微笑んでいる気がする。

2011-10-02 23:47:19
燦月夜宵 @iolite_N

「レベッカ……です」「いい名前だ」ゆっくりと曲が始まる。ああ、一歩を踏み出さないと。「レベッカ、君は自信を持って。私は魔法使いだからね」そう言うと、彼はゆっくりとリズムに乗って足を進めた。それからは本当に魔法にかかったようだった。預けた体は自然にリズムを取り、靴は合わせて動く。

2011-10-02 23:53:53
燦月夜宵 @iolite_N

ドレスで踊って、それが楽しいなんて思ってもみなかった。頬がゆっくり緩んでくる。私は彼を見つめた。彼もそれに応じて顔をこちらに向けてくれた。ここには二人だけしかいない、なんて少女みたいな錯覚をしそうだ。『彼にかかれば誰もがプリンセスになる』。その意味がやっと分かった気がした。

2011-10-02 23:57:58
燦月夜宵 @iolite_N

曲が終わって、動きが止まった。繋いだ右手を離すのは名残惜しかったけれど、彼の言う通り、これは今宵だけの出来事だ。胸に思い出として収めるべきこと。私はゆっくりと手を離し、お辞儀をした。「今夜は有り難うございました。貴方と出会えて、楽しい一時を過ごせました」「いえ、こちらこそ」

2011-10-03 00:02:47
燦月夜宵 @iolite_N

最後に相応しい、楽しいダンスでしたよ。そう言われて、私は泣きそうになっていた。私に付き合ってくれた彼に、楽しいと言ってもらえた。それが嬉しかった。「泣かないで、貴方に涙は似合いません。別れはいずれ来るものです。時間の長さよりも、内容の方が大切なのですよ」

2011-10-03 00:07:10
燦月夜宵 @iolite_N

「最後まで、気障なんですね」「それがMr.ミラーボールですから」彼は最初に見せたハンカチを取り出し、手の平の上で丸めたかと思うと白い薔薇に変化させる。そして、私に差し出した。「またいつか、どこかで会いましょう」本当は会わないほうがいいんですけど。端がピンクがかった柔らかな白。

2011-10-03 00:17:20
燦月夜宵 @iolite_N

さよならの挨拶をと薔薇から視線を戻すと、目の前には誰もいなかった。行ってしまったのか。さよならを言わせてくれないのは逆にずるいのではと思うが、いないのであれば仕方ない。彼はまた別の誰かをプリンセスにしているのだ。それが彼の役目。でも、私はもうパーティーに行けないと思う。

2011-10-03 00:20:20
燦月夜宵 @iolite_N

きっと誰かと行っても今日を思い出してしまうし、今日以上のパーティーには出会えない。誰にで優しいMr.ミラーボール。あの人にもう一度会いたいって人は聞かない。一度だからいいんだと皆言う。でも、私は何度でも彼と会いたい。白薔薇を見て気付く、私はとんでもない人に恋をしたんだと。

2011-10-03 00:25:33
燦月夜宵 @iolite_N

誰かをプリンセスにする、ミラーボールの王子様。いつかは私だけをプリンセスにしてくれたら。そんなことは叶わないから、私はもうパーティーには行かないの。貴方と一緒にいられるならいくらでも行くのに、叶わないから行かないわ。でも逢えるなら、今度は私から白薔薇を渡したい。何も言わないから。

2011-10-03 00:30:57