モータル・ニンジャ・レジスター #2
「ニンジャスレイヤーとかいう小虫がいきがっておるとか」「……そのようだ」キョート城、薄暗い渡り廊下を並び歩く二人のニンジャあり。彼らはザイバツのグランドマスターニンジャ。パーガトリー、そしてスローハンドだ。闇によってその上半身はほとんど隠されており、外見的特徴は判然としない。
2011-10-04 14:17:13「マルノウチ抗争の参加者をリストし、ビラやショドーで恐怖を煽り立て、狩りたてるのだと……ぷっ!マルノウチとくれば当然、我々の名も含まれるわけだ」「実際アデプトやマスターが殺されている。デスナイト=サンを筆頭に、グラディエイター=サン、他にも何人か」「本気だな。おおコワイ」
2011-10-04 14:18:18「ラオモトを殺した正体不明の存在だ。真偽は不明だが、あのバジリスクも」「ラオモトの事とて真偽は不明よ!誰も見ておらん」「先手を打つ必要があるやも知れん」「小虫は小虫らしく、溜まり池をブンブン飛び回らせておけ!だが、確かに我々がとばっちりでロードの不興を買ってはつまらん……」
2011-10-04 14:19:16ドンツクドンツクスパコンブンブン、ドンツクドンツクブブンブーン。ドンツクドンツクスパコンブンブン、ドンツクドンツクブブンブーン。退廃的アトモスフィアを加速する過剰な重低音の只中、フードを目深にかぶった男が狭い階段を降り、フロアに足を踏み入れる。
2011-10-04 14:30:23「宣伝よりも美味だったですね?」とミンチョ書きされたキャッチフレーズの下で水着姿のオイランがしなを作りビールを持つ「ケモビール」の色褪せたポスター。壁という壁に等間隔で貼られるそれは、ある種ミニマルアートめいてすらいる。スローモーションな踊りを踊る男女の間をぬって、男は奥へ進む。
2011-10-04 14:35:04「おい、こっちはVIPだぜ、汚ないの」小さな階段を降りようとしたフードの男の目の前に、強面のロシア人バウンサーが立ち塞がる。キャバァーン!ポイント倍点クルヨ!ストコココピロペペー。壁際のスロットマシンがけたたましい電子音を打ち鳴らす。
2011-10-04 14:39:35「おい、聞こえてんのか、汚ないの」強面のロシア人バウンサーはグイと顔を突き出し、フード男の顔を覗き込んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」フード男の一瞬のためらいもない頭突きがバウンサーの鼻面に叩き込まれる。バウンサーは一撃で失神!鼻血を溢れさせてへたり込んだ。男は降りてゆく。
2011-10-04 14:42:48地下二階VIPフロアには上の音楽は届かない。狭い廊下でまず男を出迎えたのは、床に座り込んだグルーピーである。瞳孔の開ききった目は虚空を見つめ、よだれを垂らして、シリコン整形の乳房も露わだ。男はそれをまたぎ越える。右手のトイレからは個室で激しく前後する声と音が廊下まで届いて来る。
2011-10-04 14:55:35「大事ダヨ」と相撲フォントで書かれたノレンをくぐると、そこは青紫色の壁で囲われた退廃的な部屋で、プロジェクターが壁一面にフジサンの映像を映し出し、そこに裸の男女が影法師を投げかける。温泉の岩風呂を模した室内プールが部屋の中央に設えられ、若い彼らは富裕層の退廃子息といったところ。
2011-10-04 15:12:21男はこのマッポー的光景に何の驚きも見せず、部屋奥で両膝に一人ずつグルーピーを座らせ愉しむ金髪の若者のもとへ向かうと、向かいのソファーに滑らかに腰をおろした(ソファー上で自慰をして見せていたグルーピーは彼に押しのけられ、笑いながら転がり出ると、別の富裕層子息に抱えられていった)。
2011-10-04 15:17:05「ドーモ、イシマツ=サン。お楽しみですね」「このジジイ誰?」金髪をインプラントした若者は総プラチナ歯を威嚇的に剥き出した。「しーらない!」膝にまたがったブルネットのグルーピーが腰をグラインドさせながら笑った。「アレクセイどうしたの?」「寝てますね」フード男は静かに答えた。
2011-10-04 15:22:36「何だ困っちゃうな」イシマツは反対の膝にまたがる金髪のグルーピーを抱き寄せた。金髪グルーピーが自らの豊満な乳房の谷間に粉末ズバリを溜めると、イシマツは鼻を鳴らして吸い込んだ。「スーン!アーッ!……で、お前が何の用?」「ちょっと脅せと言われましてね」「ハハハ面白い!」「イヤーッ!」
2011-10-04 15:29:28フード男の右手が閃く!次の瞬間、イシマツの上の前歯四本は惨たらしく引き抜かれ、フード男の手の中にあった!「アバーッ!?」ズバリ粉末を摂取しているイシマツと言えど、この痛みと恐怖は現実感を持って襲って来る!「もう少し痛めつける事になるからな」フード男はソファーから立ち上がった。
2011-10-04 15:46:23「アイエエエエ!」「アイエエエエ!?」「アイエエエエ!」ソファー付近でこの突然の暴力を目の当たりにした者たちは口々に悲鳴をあげて逃げ惑う!事情を知らぬ離れた場所の富裕男女やグルーピーはいまだ退廃的に遊戯している。その温度差!
2011-10-04 15:55:27「ア、アバッ」イシマツは脅えた。彼とて屈強な体格の持ち主だ。カネモチの常として、自宅のジムで毎日鍛えているからだ。オーガニック・スシを日常的に食べ、栄養もいい。だがフード男の何の躊躇もない凶悪な暴力!プラチナ入れ歯の前歯四本で、イシマツは完全に屈服した。「ヤメテ」
2011-10-04 16:02:04「やめませんよ、ダメですよ、イシマツ=サン。もう少し痛めつけられないと」フードの男はイシマツの襟を捕んで無理に立たせた。「こんなにアホらしい騒ぎを毎日やらかしてるわけじゃないですか。あなた、どうしてこんな贅沢ができるんです?お父さんのダーティーマネーのおかげでしょ?」「え……」
2011-10-04 16:26:51「ノブレス・オブリージュ。わかります?イシマツ=サン。そういう事でしょう?インガオホーでしょう?こういう目に遭うリスクがあるから、貴様らのようなバカどもは普段楽しく騒いでいられるんだよ。わかるか?エエッ?」襟を掴んだまま平手打ちにする。コワイ!
2011-10-04 16:29:44「助けて」「イヤーッ!」「アバーッ!?」ナムサン!今度は下の前歯四本だ!歯茎から血が噴き出す!「イヤーッ!」「アババーッ!」さらにジゴクめいたフックがミゾオチを直撃!イシマツは吹き飛んでソファーの後ろの壁に激突!もはや室内はパニックだ。誰もが出口へ殺到している。
2011-10-04 16:33:30フード男は懐からカメラを取り出し、手際良くイシマツの負傷写真を十数枚撮った。「今日はこれで終わりだ。パパにも良く言っとけよ。明日のこの時間に両手指全部をケジメされないように、よくお願いしとけよ。わかったな」「……アバッ……」「ザッケンナコラー!返事しろオラー!」「は、ハイ……」
2011-10-04 16:37:32「ったく面倒かけやがる」フードの男はテーブルのカクテルからストローを抜き取り、そのそばにある粉末ズバリの小山に突っ込むと、一息に吸い込んだ。もはや室内には誰もいない。この男とイシマツと、オーバードーズで動かなくなっている数人の男女を除いては。
2011-10-04 16:41:54部屋の外へ出ようとしたフード男は、ノレンをくぐる途中で動きを止めた。廊下に一人。直立不動でこちらを見ている。
2011-10-04 17:09:18人影はニンジャ装束を着ている。ニンジャか、ニンジャのフリをした狂人だ。そしてフードの男は目の前の相手が狂人ではなくニンジャである事を知っている。ただし、狂ったニンジャかもしれない。いや、きっとそうだ。狂ったニンジャなのだ。この赤黒の装束と「忍」「殺」のメンポの持ち主は。
2011-10-04 17:14:05フードの男は先手を打ってアイサツした。「ドーモ。はじめましてニンジャスレイヤー=サン。ビーフイーターです。……近々来ると思っていたぜ」「ドーモ、ビーフイーター=サン。ニンジャスレイヤーです」赤黒のニンジャはジュー・ジツを構えた。「ニンジャ殺すべし」
2011-10-04 17:25:41