黒死病と闘った伝説の村に関するお話

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エリザ @elizabeth_munh

歴史の中では、普通の人達がある日、思いがけず英雄になる事がある。 イングランド中央部、ダービーシャーの美しい村エヤムは17世紀、全イングランドに語り継がれる働きをした。 pic.twitter.com/ft1APKlfNo

2022-11-08 19:02:48
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エリザ @elizabeth_munh

村の仕立て屋はロンドンから取り寄せた反物を受領した時、それが湿っていて、異臭がするのに違和感を覚えた。 「オイオイ、管理はしっかりしてくれよ……。これで上等の服を仕立てるんだから。仕方ない。暖炉で乾かすか……」 しかし程なく仕立て屋は体調不良に悩まされるようになる。

2022-11-08 19:04:56
エリザ @elizabeth_munh

看護の甲斐なく、仕立て屋は僅か一週間で苦悶の末に亡くなり、次々と村を奇病が襲う。人々を凍り付かせたのは死体の皮膚が黒く変色した事だった 「ペストだ! 黒死病がやってきた!」 時は1655年。ロンドンでペストが大流行していた頃 仕立て屋が取り寄せた反物にペストを宿したノミが湧いていた。 pic.twitter.com/S9ardhYLhh

2022-11-08 19:09:47
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エリザ @elizabeth_munh

村全体がパニックになった。既に感染は広がっている。しかし打つ手などない。そんな中、村一番の教養者であり、村の学長、かつイングランド国教会の牧師であるモンペッソンは、村人から深く信頼されていたピューリタンの牧師、スタンリーと話し合う。 「どうか私に協力して欲しい」

2022-11-08 19:12:20
エリザ @elizabeth_munh

この頃、イングランドではピューリタン革命が終結し、王政復古が訪れる。革命の主力となったピューリタン達は迫害され、追放されていた。スタンリーもその一人。田舎村でどうにか信仰を維持し、村人と深く交わっていた。 いわばイングランド国教会とは仇敵関係のスタンリーにモンペッソンは頭を下げる

2022-11-08 19:15:15
エリザ @elizabeth_munh

「あなたの協力なしには人々を救う事はできないだろう。宗派の垣根を越えて、どうか私を助けて欲しい」 スタンリーは静かに答えた。 「あなたの言う事が正しい。ここに私とあなたがいたのも神の配剤だろう。約束しましょう。協力すると」 翌日、二人の牧師は村人を郊外に集めた。

2022-11-08 19:17:02
エリザ @elizabeth_munh

「皆が不安に思っている事はよく分かっている。逃げ出したい気持ちでいっぱいだろう。  だが、私達にどうか約束して欲しい。村から一歩も出ないと。  そして、村には誰もいれないと。  この村の外に感染を広げるわけにはいかない。我々は、周囲のために自らを隔離しよう」

2022-11-08 19:19:22
エリザ @elizabeth_munh

騒めく村人達。モンペッソン牧師にとってもスタンリー牧師にとってもこれは賭けだった。自己の生命を他者の生命のために犠牲にする事を容認せよとは、苦行を積んだ修道士ですら躊躇する事。 それを普通の人たちに要求して、果たして容れられるのか。自分達はひょっとして殺されてしまうのでは。

2022-11-08 19:21:30
エリザ @elizabeth_munh

(全能の神に身を委ねます) 二人が言うべき事を言った後、村人達は静まり、やがて声が挙がる。 「牧師様に頼まれちゃ、断れねぇな」 一人がそう言うと、たちまち続いた。 「ペストは村の責任だ。シェフィールドの連中や周りの村は関係ねぇ。ここで始末をつけようぜ」

2022-11-08 19:23:28
エリザ @elizabeth_munh

「俺はここの生まれだ。ここで死ぬ方がよっぽどいい。みんな、そうしようぜ!」 こうしてエヤム村は前例がない、自主隔離体制に入った事を周囲の村や領主に通告し、誰も入らないように境界線の石を並べ、彼らは村の中で孤独にペストと闘い始めた。

2022-11-08 19:25:22
エリザ @elizabeth_munh

「他の家に感染を広げないため、死者の埋葬は家族単位で行う事。また、集会の際は屋内ではなく屋外を使う事。ミサも同様」 モンペッソンの指導に従い、村人達は日常を闘う。たちまち死者が続出した。戦争より悲惨な事になる。一家が全滅した家もあった。夫と六人いた子供を埋葬した妻がいた。

2022-11-08 19:29:30
エリザ @elizabeth_munh

村の決断に感銘を受けた近隣の大貴族デヴォンシャー公爵が支援物資を送り、また、窮状に同情した周囲の村も食糧を送る。それらは全て境界線で留め置かれ、人がいなくなってから村人が受け取った。 金銭が絡む場合はコインを水で洗い、酢で浸した穴に入れて支払いをした。

2022-11-08 19:31:54
エリザ @elizabeth_munh

「我々の村から広げてはならない。たとえそれで我々が全滅しても」 エヤム村は最終的に350人いた村人のうち、260人が感染死すると言う甚大な被害を受けた。たった14ヶ月の事だった。その中には、モンペッソン牧師と共にペスト患者の看護に回っていた奥さんすら含まれていた。

2022-11-08 19:33:28
エリザ @elizabeth_munh

それでもエヤム村はペストを乗り切り、村は放棄される事はなかった。 「神よ、感謝します。我々が気高く試練を克服する勇気を持てた事を」 誰一人黒死病の恐怖に駆られて逃げ出す事なく、ダービーシャーはペスト禍に晒される事はなかった。 疑いなくそれは350人の英雄のおかげだった。 pic.twitter.com/CWzqk4Jt72

2022-11-08 19:35:39
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エリザ @elizabeth_munh

歴史の中では普通の人達が突然、英雄の役割を果たす事がある。 周囲のために自己犠牲を選んだエヤム村は『疫病の村』と称され、全イングランドにその名を知られる気高い精神を今でも讃えられている。

2022-11-08 19:37:27
つーき@ゆっくり哲学してね! @Hyotangtugi

@elizabeth_munh 第一に、常日頃からの信頼関係があったこと 第二に、極めて的確な感染症対策が早期に策定されたこと 第三に、その対策が総力で徹底的に最後まで実行されたこと (また、何事にもやだやだやだ〜と駄々をこねる「反ペスト」がいなかったこと) 現代のパンデミックでは望むべくもないのでした。

2022-11-08 19:56:39
サーモンハラス 🔞RT @Naked_Blue_VTR

@elizabeth_munh 宗教の正しきあり方ってこういうことだよな。

2022-11-08 20:15:47
文鷹 @04t0t

@elizabeth_munh 同じ立場に置かれたら現代でも同じ事出来るかと言われたら出来ないだろうな。結束と郷土愛のなせた事。

2022-11-08 22:13:08
(U) @chikonpo

@elizabeth_munh 英語のリーディングみたいな文章

2022-11-08 22:25:12
ゆー🏰🌋〘〙 @tdr_yu_

@chikonpo これ高校英語の教科書にも掲載されてた話です。 今たまたま見つけたサイトですが、啓林館のELEMENTですね。

2022-11-09 00:43:47
Eve/伊指 🏳️‍⚧️ @namaemiketsu

@elizabeth_munh イギリスのどこでも見られるチャーチと墓場

2022-11-09 01:38:59
Tar Sack @tar_sack

@elizabeth_munh 「瀉血、浣腸、下剤、吸角法を行い、東インドのヤギの胆石を食べさせたり、鳩の糞でできた膏薬を脚にくまなく塗ってみたりもした。 侍医らは大量の瀉血を繰り返し行い、1度は頸静脈の切開までした」 これは17世紀、病床の英国王に施された最高の治療です これで当時ここまで的確な対応ができたのは凄い

2022-11-09 06:01:29